(4)とある街角で…
傷が深い、そう思ったときには、遅かった。
休む間もなく敵の攻撃が降りかかる。
「くっ!!」
思わず苦しみの声を上げる。
武器×素手じゃどうにもならないか…。
思わずそう考えてしまって、思考を一時停止させる。
くそ、雑念が多すぎる…。
「集中…」
それだけを確認するように言う。
ギアは新たなる敵と対峙していた。
そう、本当に新しいタイプの敵に。
人間でもなく、機械でもなく、合成獣でもない。
獣+人間であって、機械+人間であるモノ。
正体はいっさい分からない。
分かるのは見た目が人間というのと、
「桁外れに強いな…」
思わずそう呟く。
「…」
話さない。
対峙している『ソレ』は一度も話してない。
と、無言のままソレは自分の右手を今度は剣に変化させる。
足は動物の―おそらくチーター系統であろう―足に変化させる。
地面を軽く蹴るだけでギアとの間合いが詰められた。
この間合いはヤバイ。
思ったときにはすでに時遅し。
突きで攻撃してきた相手の剣先が左手を貫通する。
「…この野郎!!!」
叫ぶやいなや剣を右手で掴み投げ飛ばし頭から地面に落とす。
地面についた瞬間にその頭を右足で思いっきり蹴る。
軽く10mは吹き飛び、また距離を取る。
数秒のち起きあがったソレは、頭が変形していた。
しかしソレをすぐに元の形に戻す。
……元の人の顔に…。
人間だったら死んでいる。
機械だったら変形は戻せない。
つまり、信じたくはないが、コレは…。
「妖か…」
対魔の武器でしか倒せないというソレ。
「つまり、裏を返せば、“対魔の武器であれば倒せる”」
取り出したるは太古の剣。
そしてクーが取ってきた剣でもあった。
…妖刀『鬼食らい』
レア度9。
対魔専用の武器、日本刀に似せて作られている。
鬼を食う、つまり妖の血を吸収する。
そして吸収した分だけ“重くなる”が攻撃力も高くなる。
…諸刃の剣。
鼻で軽く笑い飛ばし、静かに構える。
敵は鋼鉄にも変化できる。
つまりこれだけでは斬ることが出来ないため、倒せない。
「鋼鉄に変化させる前に…斬る。」
一気に地面を蹴る。
ソレも地面を蹴る。
一気に間合いが詰まる。
ソレが右手を袈裟斬りに斬りつける。
すぐに鬼食らいで横に払う。
そのまま一回転するようにして、横に斬りつける。
だがすぐに脇腹の部分を鋼鉄に変えて刃を受け止める。
そしてソレは払われた右手を今度は無数のトゲのついたドリル状のモノに変える。
その右手を一気に突く。
すぐに鬼食らいで受け止めようとするが、ソレの左手で掴まれる。
いったん鬼食らいを傷ついている左手をつけ添え、
両手でもって両足で一気に腹を蹴る。
その衝撃に双方吹き飛ばされる。
が、ギアはすぐに鬼食らいを地面に突き刺し勢いを殺し、着地する。
その瞬間鬼食らいを思いっきり投げる。
腹に向かって飛んだその剣に合わせるようにして腹を鋼鉄化する。
その瞬間、どこからか銃音がしてソレに当たる。
10発ほどの銃弾がソレの頭一点に当たり空中で宙返りするようになる。
投げられた鬼食らいに背を向ける形になる。
そして鬼くらいが刺さる。
腹は鋼鉄のままのため貫通はしないが、
刺さった鬼くらいがソレの体内を吸収する。
「ふぅ、やっと終わりか。クーだろ。」
ギアが一息つけて口を開く。
「何だ、ばれてしまってたのか、残念。」
さっきの銃弾を飛ばしたのはクーだった。
ギアを探していたら金属がぶつかる音がしたからそこに行くと…
「ギアがいたって訳さ。
それにしてもさっき初めて名前呼ばれたな。」
「五月蠅い(うるさい)な。さっさと報酬もらいに行くぞ。」
うざそうにするギアを見てクーは軽く鼻で笑う。
何がおかしいというような顔をしているギアを見て、歩き始める。
「にしても、依頼相手のボスが妖だったとはな〜…。」
そう、今までになかった妖という敵。
これの生態などはいっさい不明なのは間違いないだろう。
だが、またこんな敵が出たら…。
ギアはそこで一旦思考を止める。
ふとクーを見るといつの間にか上空にいた。
その辺で拾った食料を食べ(その食料が体内の何処に行くのかは不明だが)、
鳥と戯れ、笑いながら飛んでいる。
「まぁそのときはまたこういう奴らがどうにかするか…。」
ギアもいつの間にか笑っていた。
もう夕暮れ、太陽も眠そうにしてる中、3日の依頼を1日で終える。
「乗ってく?」
いつの間にか目の前にいるクーが顔をのぞき込んで言う。
「ああ、そうするか。」
ぶっきらぼうに答え、乱暴にクーの背中に乗る。
「おいおい、俺はレアなんだからもうちょっと丁寧に…。」
な、と付け加え、スピードを上げる。
時は朝、依頼主のところに行くと報酬をもらってすぐに終わった。
「本当に良いのか?クー。」
ギアが不思議そうに尋ねる。
「良いって、別に。お前こそ家族いなくて困ってんだろ?
俺はレアだからな。捕まらなければソレで良いから。」
思わずギアはすまないと言ってその報酬金をもらう。
「あ〜あ、もうお前みたいな不思議さんとは会わないかもな。」
「俺は別にもうお前みたいな奴とは会わなくても良いが…。」
少し残念そうに言ったクーに対して否定的にギアが答える。
「でも、またどっかで会うかもしれないな。ギア」
「ああ、そうだな。いつの間にか会うかもな、こういう仕事をしている間は。」
「どっかの街角で会うかもな。んじゃ、そのときにまた。」
クーが軽く笑って手を振る。
それに便乗するようにギアもつられて手を振り、思わず笑う。
朝日が昇ってきた。
クーはもう次の用事があるからと、急ぎ足で去っていった。
クーの背中が見えなくなったぐらいでギアがぽつりと話す。
「…とある街角で、また、な…。」