part.2
美術館内には赤外線センサーが張り巡らされている。
ティアは暗視スコープ越しに見ると、それらは赤い線として浮かび上がった。
「目的の品は美術館中央付近の企画展示場にある。企画展示場に繋がってるバックヤードがあるからそこを使う。だから、まずバックヤードに向かえ」
「了解」
裏口からバックヤードまでは数十メートル離れている。
「こういう時に役に立つのよね」
ティアはそう言いながら、先程カードキーを取り出したウエストポーチからピストルらしき物を出した。
右手の黒い革手袋を外してピストルらしき物を右手に握った。
そして、バックヤードの扉に向けて打つと、フックつきのワイヤーが飛び出した。
ティアは赤外線センサーを華麗に避けながら、あっという間にバックヤードの扉前に着いた。
「ここまで順調ね。今回も楽勝じゃない?」
バックヤードの扉を開けながらティアが言った。
「だからといって油断は禁物だ。バックヤードにも赤外線センサーがあるから気をつけろ。ちなみに防犯カメラはないから安心しろ」
「分かったわ」
彼女はフックつきのワイヤーが出るピストル、ピストルガンを上手く使いながらバックヤードを突き進み、ようやく『目的の品』があるという企画展示場に着いた。
「着いたわよ」
「よし。企画展示場内の赤外線センサーを三秒後に切る。一緒に防犯カメラの映像もすり替える。じゃあ行くぞ、三、二、一!」
今まで目の前にあった無数の赤い線が一気に消えた。
そして、ティアが目的の品—世界最大のジェダイトがあるガラスケースへ余裕綽々と向かおうと、企画展示場の床に足をつけたときだった。
『ギーギー』
何かの警報音が鳴り始めたのだ。
「ちょっと、キース!!何なのよこれ!」
予想外の出来事に慌てふためく。
「もしかすると、おれが事前に調べたときはついていなかったが、急遽取りつけられた防犯装置があったのかも知れない。とりあえず、早くジェダイトを取って逃げろ、ティア」
彼女は全力で走ってガラスケースの前まで行き、ガラスケースをガバッと開けた。
すると、また警報音が鳴ったが既に他の警報音が鳴ってしまっているため、気に留めなかった。
そして、ジェダイトを手にしたとき、警備員を引き連れたアッシュグレイの男が現れた。
その男は赤い瞳に真っ白な肌を持ち、アッシュグレイの髪を三つ編みにして前に垂らしている。
歳は二十代後半、身長は百八十センチほどである。
その銀髪の男がこう言う。
「そこまでですよ、怪盗BLACK:LADY。さあ、ガラスケースにその宝石を置いて手を肩の上まで上げなさい」
怪盗BLACK:LADYとはティアの『真の正体』である。
ティアこと怪盗BLACK:LADYは「仕方ないわね」と呟きながらガラスケースにジェダイトを置き、銀髪の男達へ向き直った瞬間、
『ボムっ』
真っ白な煙幕が展示場を埋め尽くした。
ジェダイトと置くために銀髪の男達に背を向けた際に、煙玉をくすねて置いたのである。
煙幕が消えた頃には怪盗BLACK:LADYはピストルガンを使って去っていた。
「逃がしてしまいましたな、フィディック君。 ですが、宝石を守り抜いてもらえただけ良かったよ。さすが、わしが見込んで雇った探偵だけあるな」
後からやってきた美術館のオーナーが言った。
フィディックとは銀髪の男の名前である。
「お褒めいただきありがとうございます。ですが、次会う時には捕まえるつもりですよ、オーナー」
にっこりと笑ってフィディックが言いながら、『お前を監獄にぶち込んで家族の仇を打ってやる。待ってろ、怪盗BLACK:LADY。いや、エリーナ・ヒューズ』と思い浮かべた。
エリーナ・ヒューズとは怪盗BLACK:LADY、ティアの本名だ。
なぜこの男が彼女の本名を知っているのだろうか。




