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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第38話 空の王者】

訓練場の乾いた土を蹴り、カイルとマックスが走っていた。


重い足音が、地面を震わせる。


ドン、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、


飛竜でもない。

走竜でもない。


そのどちらにも属さない存在。


マックスは低い姿勢のまま、地面すれすれに体を沈めて走っていた。


長い尾が空気を切り裂く。


脚が地面を叩くたび、乾いた土が弾け飛ぶ。


普通の走竜ならば、すでに限界の速度。


だが――


マックスはまだ加速していた。


タン、タ、タ、タ、タ、


地面を蹴る音が変わる。


速度が上がるほど、音は軽くなる。


カイルは背中に体を伏せた。


風が顔を叩く。


視界が流れる。


訓練場の柵が、矢のように後ろへ飛んでいく。


そして。


訓練場の端にある小さな段差へ差し掛かった。


カイルが手綱を引く。


「マックス――!」


マックスの後脚が地面を蹴る。


その瞬間。



バン!!



巨体が、空へ弾かれた。


まるで一本の矢だった。


重さを感じさせない鋭さ。


低く、長く、なだらかな放物線。


マックスの体は空中を滑るように進む。


風が翼のない背を撫でる。


カイルの目の前で、地面が遠ざかる。


そして――


着地。


ダン、ダダダダダ!



爪が土をえぐり、衝撃が地面に走る。


土煙が巻き上がる。


だがマックスは止まらない。




その様子を高台から見ていた二人がいた。


王女ティーナ。


そして飛竜第一隊隊長グレン。


ティーナは思わず息を漏らした。


「……なるほど」


「軍議で“飛竜でも走竜でもない竜”と言われていた理由が、よく分かりました」



グレンは腕を組んだまま頷く。


「私も、この目で見るまでは信じがたい話でした」


訓練場では、再びマックスが跳ぶ。


ドンッ!!



空へ弾ける。


着地。


また走る。


そして再び跳躍。


その速度は、走竜とは明らかに違っていた。



地面を走る竜のはずなのに、走っていると言うよりは・・・



ティーナは小さく首を傾げる。


「しかし・・・私が見てもよかったのですか?王国の秘密戦力のようにも感じますが」


グレンは苦笑した。


「彼らは、私たちにとっても未知の存在なのです」


マックスが再び跳ぶ。


土を蹴る。


跳躍。


そして着地。


「なんの役にも立たない劣化版飛竜で終わるかもしれない」


グレンは言う。


「あるいは、強力な何かになるかもしれない」



ティーナは興味深そうに見つめていた。


「以前、講義していただいた飛竜と走竜の違いで言えば、飛竜が、走竜のように戦っている・・・そんな印象です」



グレンは首を振る。


「いえ、走竜は、あの戦い方をしません」


少し笑う。


「もっとも、飛竜も、あの戦い方はしませんが」



ティーナは小さく笑った。


「なるほど、つまり“別の竜”ということですね」


そして楽しそうに言った。


「いっそのこと、新種の“跳竜”とでも呼びましょうか」


グレンは思わず笑う。


「あぁ、それは分かりやすくて良い」



二人は静かに笑った。


ティーナはマックスを見つめながら言う。


「もし、もっと“跳竜”が増えたら、どうなりますか?」



グレンは少し考えた。


遠くの空を見ながら言う。


「戦争が“兵士の時代”から“竜の時代”へ移ったとしても・・・飛竜は、絶滅の方向に進んでいるのです」



ティーナは頷いた。


「走竜は増えているのに、うまくいかないものなのですね」


グレンも頷く。


「それでも、飛竜は圧倒的に強い」


ティーナはしばらく黙っていた。


やがて、ふと思いついたように言った。


「もし戦争になったなら、飛竜隊の全戦力で、聖国の本陣を叩けば良いのでは? 指揮を失えば軍は崩れます。最も短く、最も血を流さない方法です」



沈黙が落ちた。


グレンはゆっくり息を吐いた。


「理屈は正しい・・・しかし、敵の将軍も同じことを考えている」


その時。


空を1頭の飛竜が旋回していた。


グレンは空を見上げる。


「戦争は、お互いが一番賢い作戦をぶつけ合う場所です。だから戦争は、結局泥になる」


そしてティーナを見た。


「王女殿下」


声は静かだった。


「戦争で一番難しいのは、敵を殺すことではない。自分の兵を死なせないことです」


ティーナは息を呑んだ。


(この人は――)


胸の奥で理解する。


(王国を、本気で守っている)


------------------------------------------------------


数日後。


国境砦。


砦の改修は八割ほど終わっていた。


石壁の内側では工事が続き、走竜厩舎はすでに完成している。


その広場に三つの影が舞い降りた。


バサッ バサッ バサッ



巨大な翼が風を叩く。


飛竜第一隊。


隊長グレン。


新人ツバイ。


古参タープ。


3頭の飛竜が円を描くように並ぶ。



「グレン隊長!」


国境兵が手を振った。


「聖国に変化は?」


グレンは問いかける。


兵士は答えた。


「三日前から街道が止まっています」


「聖国側の街道で倒木があったらしく、撤去作業だと思います」


グレンは頷いた。



「ありがとう、国境のこちら側から確認できるか、やってみるよ」


3頭の飛竜が再び空へ上がる。


テクスア山脈から吹き下ろす風を捕まえ、ゆっくり高度を上げる。


国境付近は敏感な空域。


だが今日は、少し寄せた。



グレンが目を細める。


「あれは……」


尾根の近く。


妙な動き。


「走竜?」



グレンがタープとツバイに合図する。


タープは「見えた」と合図を返す。


ツバイは分からないようだ。



ツバイは確認するために、さらに降下した。



その瞬間。


山の影から――


3頭の飛竜が飛び立った。


グレンの目が鋭くなる。


「不味い」


ツバイは1頭。


敵は三。


グレンとタープが急降下した。



その時。


敵の1頭がツバイへ襲いかかった。


巨大な爪が振り下ろされる。


ツバイは直前で気付き、急旋回。


爪が空を裂く。




続く2頭。


ツバイは錐もみ降下した。


風が唸る。


地面が迫る。


限界まで落ちた瞬間――



バサァッ!!



翼を開く。


衝撃波のような風が広がる。


水平飛行へ。


だが。


上空には3頭。



絶体絶命。



その編隊へ


タープが突っ込んだ。


衝撃で敵の陣形が崩れる。



そして。


聖国の飛竜の背に、影が落ちた。


騎士(パイロット)が見上げる。


太陽がある。


その中心から


黒い影。



バスン!!



急降下したグレンの飛竜の爪が、敵の背を裂いた。


飛竜の血が空に螺旋を描きながら落ちていく。




残り2頭。


その1頭がグレンへ突っ込む。


同高度旋回。


翼と翼が風を裂く。


グレンは聖国の騎士(パイロット)合図を送る。



――帰れ。



だが敵は引かない。


急上昇した。


「くそっ、死に急ぎやがって」グレンは兜の中で毒づいた。



上昇競争。


雲を突き抜ける。


空が蒼から深い青へ変わる。


空気が薄い。



ついに敵が攻撃に移った。


爪を突き出した体当たり。


接触寸前。



グレンは翼を閉じ――


体を捻る。


バクン!!



グレンの飛竜が回転に合わせて尾撃を出したのだ。

尾撃は聖国飛竜の脚を叩いた。


バランスを崩した聖国の飛竜が錐もみ降下。


雲の下へ落ちる。


グレンは急降下。




追う。


風が轟く。


落ちる敵へ迫る。


そして。




グシャッ!!




グレンの爪が、再び敵を裂いた。


聖国の飛竜は、そのまま尾根付近にいた聖国軍の所へ落下した




残る1頭。


タープと激しく爪を交えていた。


そこへ。


ツバイが突っ込む。


爪が命中。


聖国の飛竜は、尾根へ墜落した。


空戦は――


王国の圧勝だった。


---------------------------------------------------------


3頭の飛竜は森の休憩所へ降り立つ。


縄の結界。


その下から走竜が現れた。



飛竜を守るように取り囲む。


「見事でしたぞ!」


走竜隊の騎士(ライダー)が叫ぶ。



ツバイはグレンに頭を下げた。


「軽率な降下をしてしまいました」


グレンは首を振る。


「問題ない、それより地上部隊は?」



「走竜10頭、竜車三両です」


グレンは笑った。


「でかした!、その情報を本部の戻って報告しろ。俺とタープは、このまま国境砦に留まる」


「分かりました」ツバイの駆る飛竜が本部に向かって飛翔した。


「聖国の飛竜が、その地上部隊に落ちたので、多少なりと損害が出ているはずだ。このまま引き上げてくれたらよいのだがな」

グレンは山頂を見ながらつぶやいた。



グレンは結界の下に入って見渡す。


「これが結界ですか・・・たしかに、ここに飛竜は下りれないな」


騎士(ライダー)は自慢げに説明した。

「この下に入れば、飛び立つことも出来ないので、結界の下での走竜は強いですよ」


「飛竜の休憩所を守ってくれるあなた方が居てこその飛竜運用です。頼もしい限りです」

グレンは騎士(ライダー)達に笑顔で答えた。


-----------------------------------------------


その日。


「敵飛竜撃墜」


「グレン圧勝」


という報せは街へ広がった。


人々は言った。


「グレンがいるなら大丈夫だ」


「王国飛竜隊は最強だ」


空の王者。


グレン最強神話。


それは人々に勇気を与えていた。


------------------------------------------


その夜。


聖国側の山道。


闇の中を竜車が進んでいた。


一人の兵士が呟く。


「……守ってくれてありがとう」


竜車を引く走竜が、静かに歩く。


暗闇の中へ。


ゆっくりと。



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