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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第3話 見る側】



朝の飛竜厩舎は、いつもより風が強かった。

藁の匂いと、獣の体温が混じる空気。

カイルは作業用エプロンと軍手をして、無言で作業を続けていた。


飛竜の脚を洗い、爪の欠けを確認し、革具の締まりを確かめる。

カイルは厩務員になっていた。


――ドォン……!


空気を裂く低い音が響く。

訓練を終えた飛竜が着地した音だ。


体長6mの飛竜が頭上から降ってくるのだから、いくら羽ばたきで軽減していても、静かな着地とはいかない。


バサバサバサ

いくつもの羽音が重なって聞こえた。


反射的に顔を上げてしまう自分を、カイルは内心で叱った。

見上げた先では、青空を背にした飛竜隊が編隊を組み、ゆるやかに旋回している。


翼が太陽を遮り、一瞬だけ地面に落ちる影。

その影が、まるで自分を踏みつけるように通り過ぎていった。


――あそこは、本当なら。


以前なら、胸が高鳴った光景だった。

仲間の動きを読み、合図を交わし、空で生きている実感に満たされる場所。


だが今は違う。

胃の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


空は、もう“憧れの場所”ではなかった。

展示された過去だった。

触れられないことを、否応なく突き付けてくる苦痛の舞台だった。


「……っ」


カイルは視線を落とし、再び飛竜の脚に向き直る。

空を見ないようにする。その行為自体が、ひどく情けなかった。




休日。

厩舎の門の前で、皮の乗馬服を着たアインが手を振っていた。

アインは金髪で碧眼の男前だ。


練習生の同期で、いまは飛竜の騎兵(パイロット)になっていた。

そのアインが「おう、久しぶりに遠乗り(ツーリング)に行こうぜ。馬も悪くない」と、誘ってくれたのだ。


変わらない笑顔。

変わらない声。


それだけで、少しだけ胸が軽くなるのが悔しかった。


アインは、白い馬を借りた。

カイルは、自分の髪の色と同じ栗毛色の馬だ。


「アイン、今日はどこまで行く?」


「テクスア山脈の中腹まで行こう、帰りは街に新しくできた旨い肉を出す酒場だ」



二人は馬に跨り、竜騎士基地の門から出て、石畳の街路を北の森林へ向けて、のんびりと進んだ。

テクスアは2000m級の山脈で、頂上付近は雪で白くなっている。

山脈の向こうはアクリオン聖国になる。

アクリオン聖国は教皇を最高指導者に戴く宗教国家で、アクリオン神を唯一神としている。

こちらのテルミ王国の王が神の系譜を名乗っていることが許せないらしく、何かと争いごとが起きる。それも、テクスア山脈が自然の防壁として隔てているので、ありがたい。


ほどなく森林を縦断する街道に入る。

土を固めて整備された道なので、快適に進める。

木々の間を縫う風は冷たく、葉擦れの音が静かに続く。


「おっ、白うさぎがいるぞ、矢を持ってくりゃ狩りができたな」

アインは、弓の腕が良く、訓練生の時に弓兵に転向しないかと誘われていたほどだ。


枝の上では色鮮やかな鳥が鳴いている。

アインがその鳥を指さして言った。

「こうして鳥を眺めていると、飛竜は鳥類なんだと実感するよな」


確かに、飛竜の幼体は「大きな鳥」といった雰囲気だ。

「くちばし は無いけどな」


地上戦用の走竜の事を思い出す。

大人の竜になると、走竜と飛竜の顔は非常に似ていて、互いに「竜」だ。

しかし、幼体の走竜は「巨大なトカゲ」といった感じで、鳥のような飛竜と明らかに別の生き物だ。


やがて森を抜け、国境砦を通過した。

石造りの壁の向こうには、テクスア山脈が連なっていた。


森の限界高度を越えた様で、街道の周辺が草原になる。

馬の息が荒くなり始めたので、二人は馬から降りて、手綱を引きながら歩いて斜面を登り続けた。


中腹まで登った先で、二人は息を呑んだ。

テルミ王国の向こうにエメラルドグリーンの海が広がっていた。


テルミ王国は北はテクスア山脈、南は海に面した国で、32の領で統治されている。

広大な平地の端に竜騎士基地が見える。

基地には約300人が居て、巨大な騎士宿舎が30棟も建っているのに、ここから見ると豆粒サイズだ。


馬を休ませ、腰を下ろす。


「……綺麗だな」

カイルの言葉に、アインは大きく頷いた。


「だろ? 空から見るのとは、また違う」

その一言に、カイルは何も返せなかった。


しばらく沈黙が流れたあと、カイルは言った。

「……昇進、おめでとう。お前が先に正規騎士だな」


アインは少し驚いた顔をしてから、肩をすくめる。

「ありがとう」


そして、わざとらしく明るく笑った。

「まぁあれだ。お前も給金が貰える立場になって、おめでとうだ」


カイルは苦笑した。

「厩務員だけどな」


「いいじゃねぇか。給金があれば、好きなものが買える。

 その気になりゃ、彼女作って家買うことだってできるぞ?」


アインは大げさに夢を語り、カイルを肘で突いた。


それが、気遣いだと分かってしまうのが、少しだけ痛かった。


帰路の途中、森林の中で廃棄された街の残骸が点在していた。

崩れた石壁、倒れた家屋。

かつて人が暮らしていた痕跡だけが、静かに残っている。


「よく、こんなところに街を作ったな。どうやって暮らしていたんだろ?」


「暮らしにくいから、廃墟になったんだろ」


そりゃそうだと、二人で笑った。


自然の中をゆっくりとした速度で遠乗り(ツーリング)

なんか、生き返った気分だ。


二人は街の中心へ戻り、商店街を抜ける頃には、昼というよりは夕方に近い時刻になっていた。

街の中心街なので人通りは多く活気がある。


馬を馬房にあずけ、呼び声と、香ばしい匂いの方へ歩く。


目的の酒場は、1階が店舗、2・3階が店主の住居という連棟式の建築だ。

押戸をくぐると、四人掛けのテーブルが7脚あり、客が二組いた。

一般の街人たちで、貴族や士官がいないのが、気楽でよい。

早速、炭火焼の肉を頬張り、酒を煽った。


「うめぇな!」


「……ああ」


久しぶりに、何も考えずに笑えた気がした。


酔いが回り、店を出る頃には夜になっていた。

馬房へ向かう途中、自然と歓楽街を通る。


露出の多い衣装に身を包んだ女性たちが、甘い声で誘ってくる。


「お兄さんたち、どう?」


アインはにやけ、カイルは思わず顔を赤らめた。


「なぁ、ちょっと遊んでいこうぜ」


「……門限があるだろ」


即答すると、アインは大笑いした。


「相変わらずだな!」


からかうように肩を叩きながら、アインは馬に跨る。


夜道を進みながら、アインは何気なく言った。


「また、遠乗り(ツーリング)に行こうぜ」


カイルは嬉しかった。


だが、その一日が、

事故以来沈んでいた自分を外に連れ出すためのものだったことに、気付いていた。


夜風が、心地よく頬を撫でた。

【あとがき】

この世界の雰囲気を描いた回でした。

後の話しの伏線がたくさんありますwww


次回は、周囲の善意が、本人には屈辱になります。

第4話 「走竜隊への打診」



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