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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第28話 違う動き】

第六峰と第四峰のあいだを縫うように、細い山道が走っている。

峰と峰のあいだは深い峡谷となり、霧が立ちこめれば下界と切り離されたような静寂に包まれる場所だ。


この道は古くから小競り合いが絶えなかった。


大軍が動ける広さはないが、物資の抜け道としても、奇襲の通路としても使える。


国境砦の争い以降、ここもまた最前線のひとつとなり、両軍は走竜を配置して睨み合いを続けていた。


この日、カイルとマックスはその山道を登っていた。


道は森の中を走り、枝葉が幾重にも重なって空を覆っている。

昼間だというのに薄暗く、地面には湿った落ち葉が積もっていた。


濃い樹木の匂いと、どこかで流れる沢の水音が混ざり合う。


---これがいつもの山歩きなら楽しいのに


カイルは率直にそう思った。

戦場でなければ、ただの気持ちのいい登山だ。


ドス、ドス、ドス。


マックスが山道を登っていく。

太い脚が地面を踏みしめるたび、落ち葉が跳ね、土がわずかに沈む。


重いが、安定している足取りだ。


そのときだった。


バサバサバサッ!


前方の木立から鳥たちが一斉に飛び立つ羽音が響いた。


「ん? 驚かせてしまったかな?」


カイルは自分たちが原因だと思った。だが、次の瞬間。



グオォォォォォォォォ!



低く、腹の底を震わせる吠え声が峡谷に反響した。走竜の声だ。


「まずい! マックス、急ごう!」


カイルは手綱を握り直す。マックスの速度がわずかに上がる。


ドスドスドス


山道を駆け抜けると、視界がぱっと開けた。

峰と峰のあいだに、少しだけ広い空間がある。


そこではすでに戦いが始まっていた。


2頭対2頭。


一組は互いに距離を保ち、低く唸りながら睨み合っている。


もう一組は、回転動作を繰り返しながら尾撃を放ち、それをかわしていた。

尾が風を裂くたび、岩肌に衝撃が伝わる。


数名の兵士たちが互いに離れた位置から、その戦いを見守っている。

走竜同士の戦いに歩兵が近づくのは自殺行為だ。

巻き込まれれば骨ごと砕かれる。


マックスの姿が現れた瞬間、回転していた走竜の騎士が手綱を引き、わずかに距離を取った。


カイルの位置から、真っすぐ続く道の先に青空が見えた。


その青空に、二つの影が浮かんでいる。


「飛竜だ」


走竜同士の戦いには加勢せず、空から様子を窺っていたらしい。

そこにマックスが現れたことで、状況の意味が変わったのだろう。


1頭が翼を広げて、急角度で降下を始めた。


マックスを飛竜だと見て、飛び立つ直後を狙うつもりの行動だった。


バサッ。


空気を切り裂く音が迫る。


だが、マックスは動かない。


ただ、じっと待つ。


敵が間合いに入る直前。


ダン!


短い跳躍。


重い身体が地面を蹴り、横へずれる。

降下してきた飛竜の爪が空を掻いた。


カイルは通過した敵の飛竜を目で追いながら、もう一頭の位置を探す。


「うわぁ!」


悲鳴が上がった。


王国の走竜に乗っていた騎士が地面に叩きつけられる。

もう一頭の飛竜が王国の走竜に襲いかかったのだ。


騎士(ライダー)は引き裂かれる寸前で鞍から飛び降りた。

無人になった走竜が、恐怖のままに全力で走り出す。


飛竜が再び低空を滑空し、その走竜に襲いかかる。


だが走竜は、きわどいタイミングで岩陰に入り、爪をかわした。岩に爪痕が走る。


「マックス、行くぞ!!」


カイルは叫んだ。


ダダダッ!




マックスの加速は強烈だった。

手綱を持つ腕に力が入り、姿勢を低くした。

カイルは振り落とされまいと必死にしがみつく。


それは、すでにカイルが制御できる限界を超えていた。

マックスが自身の判断で走る。


タタタタタタタタタタ!


音が変わる。重さが削ぎ落とされるように、足音が軽くなる。


視界が狭くなる。まるでトンネルの中を走っているかのようだ。

周囲の景色が流れ、敵の飛竜だけがはっきりと浮かび上がる。


走竜に攻撃を加えた飛竜は、まだ地表近くを滑空している。次の上昇に入る直前。


マックスは一直線に突き進む。


正面に岩が迫る。


カイルにはどうにもできない。


タン。


マックスはその岩に足を掛けた。


次の瞬間、前方へ身体が投げ出される。


音が消えた。


足音も、風の唸りもない。


わずか二、三秒。


だが、カイルには時間が止まったように感じられた。


マックスは足も翼も閉じ、出来る限り小さくなる姿勢をとっている。岩を蹴った反動をそのまま前へ。


カイルも伏せ、マックスにへばりつく。


敵の飛竜が、止まっているように見えた。




バスン!


鈍い衝撃。


ダン、タタタタタ!


飛竜の翼をかすめながら着地する。

勢いは死なない。そのまま地面を蹴り、飛竜を追い越して走り抜けた。



バサバサバサッ!


バランスを崩した飛竜が必死に羽ばたく。


「うわ、わぁーーー……!」


敵の騎士(パイロット)は落下こそしなかったが、人形のように振り回される。

最後はぐにゃりとした姿勢のまま動かなくなった。



カイルとマックスは体勢を倒し込みながら弧を描き、再度攻撃できる直線へ入る。


しかし、敵の飛竜2頭は一気に上昇して、峡谷の上へと消える。


空が静まり返る。



カイルが周囲を見渡すと、敵の走竜と兵士たちが退いていくのが見えた。


自軍の兵士たちは、地面に倒れた騎士(ライダー)のもとへ集まっている。


カイルはマックスを止め、駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


倒れたままの騎士(ライダー)が、かすかに手を上げる。


「騎士様、加勢していただき、ありがとうございました。本当にもうダメかと思う状況だったのです」


兵士の一人が頭を下げた。


「ここは、にらみ合いが続いているけど、戦闘にはなっていないと聞いていたのですが」



カイルが言うと、別の兵士が苦笑した。


「そんな気楽な戦場があったら、配置換えしてほしいですわい」


どこか疲れた笑いだった。




「うっ、痛ってぇ……」


カイルは思わず後頭部を押さえた。

頭というより、脳みそが痛む感覚。視界の端がまだ揺れている。


マックスは静かに立っている。

荒い呼吸をしながらも、目は鋭く峡谷の空を見上げていた。


さきほどの動き。


ただの加速ではなかった。


ただの回避でもない。


岩を使い、軌道を変え、空を掠めた。


飛ばずに。


地面を起点に。


違う動きだった。


カイルは深く息を吐く。


自分の限界を越えた速度。制御を手放した瞬間。それでも、マックスは前へ出た。


空を制する者たちが、初めて警戒の色を見せた。


峡谷に再び沢の音が戻る。


薄暗い森の匂いが、戦いの熱をゆっくりと冷ましていった。


マックスの足元に、さきほど蹴った岩の欠片が転がっている。


カイルはそれを見つめながら、胸の奥で何かが変わり始めているのを感じていた。


まだ名のない、違う動き。


それが、確かにここにあった。




【あとがき】

マックスの違う動きが登場しました。

音が消え、時間が止まったカイル。


次回は、何が起こったのかを検証します。

第29話:地形を使う

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