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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第25話 カイル人助けをする】 

テクスア山脈の最高峰は第一峰と呼ばれている。

鋭く天を裂くようにそびえるその白い頂は、遠く離れたタチミ街からも望める。


第一峰と第五峰のあいだを、雪解け水を集めた川が流れ、その谷に沿って王国と聖国を結ぶ主要街道が敷かれていた。


街道は、山々の尾根と谷を縫うように複雑に曲がりくねっている。

だが道幅は広く、荷馬車なら三台が横並びになれるほど整備されている。

王国と聖国を結ぶ大動脈を、今日も人や荷車が往来している。


その峰を結ぶ線上に、国境砦が設けられている。

先日の戦いで襲撃を受けた砦は、いま強化改修の最中だった。


石塀の増強に走竜が動員され、工夫たちが石材を運び、槌音を響かせているという。


その砦へ向かう荷馬車が、山道を進んでいた。


二頭立ての馬が引く荷馬車の荷台には、交代要員の工夫が十名と、若い竜騎士がひとり。

カイルである。


カイルは非番の日だったが、どうしても改修中の砦をこの目で見ておきたかった。

マックスとともに山道を歩いていたところ、途中で工夫たちと合流し、荷馬車に同乗することになったのだ。


荷馬車の後ろでは、マックスが静かに歩いている。

後足はしっかりと地を踏みしめ、引き締まった筋肉が陽光に照らされていた。


「兄さん、若いのに騎士なのかい。カッコイイねぇ。モテるだろ?」


陽気な工夫が肩を叩いてくる。


「いえ、新米なのでそれどころじゃないですよ」


カイルは苦笑する。


「後ろの竜は、飛ぶ奴だろ? 騎士(パイロット)ならエリートじゃないのか?」


「マックスは飛ばない竜なので、俺は騎士(ライダー)です」


「へぇ~、よくわからないけど、そういう種類の竜もいるのかぁ」


工夫たちは感心したように振り返り、マックスを眺める。

マックスは無関心そうに鼻を鳴らした。


やがて、なだらかな上り坂が終わり、山を越えた先から急こう配の下りが始まった。

片側が山肌、片側が切り立った崖。

道はつづら折りになっている。


馬の負担を軽くするため、急坂の区間では荷馬車を軽くするのが常だ。

カイルと工夫たちは荷台を降り、自分の足で歩いていた。


下方から、登ってくる別の荷馬車が小さく見える。見晴らしは良い。


「砦の作業はいつごろまでの予定ですか?」


カイルが尋ねる。


「俺たちは一週間だ。そこで次のやつらに交代だな」


「大変ですね」


「一番大変なのは石工のやつらだな。自分の走竜と一緒に完成まで帰れねぇ」


「その分の給金が出るんだから、喜んでんじゃねぇか?」


笑いが起きた。


そのときだった。


かすかに、叫び声のようなものが風に乗って届いた。


カイルは足を止める。


「……聞こえましたか?」


工夫たちは首をかしげる。


カイルは崖の縁へと歩み寄り、下を覗き込んだ。十メートルほど下の街道に、荷馬車と、それを囲む数人の影。


目を凝らす。


男が五人。馬から降り、荷馬車の御者に刀を向けている。


「あれは、盗賊だな」


「俺たちは工夫だけど、十人いるし、剣は無いけど工具で何とかなるかな?」


「いや、一応これでも俺は騎士だから。ここは任せてください」


「どうするんだ?」


カイルは一瞬だけ息を整えた。


ザザ、ズザザーーーーーーーッ。


斜面を滑り下りる。

落下しないよう重心を低く保ち、足裏で土を捉えながら。


最後は身をひねり、静かに街道へ着地した。


盗賊たちは御者を囲んでいる。


カイルは背後から一人に近づき――


ドンッ。


背中を蹴りつけた。


盗賊は荷馬車に激突して転倒。カイルは即座にその長剣を拾い上げた。


「なんだてめぇ!」


「通りすがりの正義の騎士だ」


剣を構える。


「ふざけんなぁ!」


盗賊が上段から振り下ろす。


ガキンッ。


受け止めるが、真正面で受けきらない。

斜めに滑らせ、力を逃がす。返す刃を、くるりと回転させ


ザシッ。


斜めに切り落とす。


だが手応えが浅い。


「盗賊のくせにチェインメイルを着ているのか?」


別の盗賊が水平に薙ぐ。


カイルは身を引き、刃が鼻先をかすめる。


正面に立った男が正眼に構えた。


間を開けない。剣を絡ませ、手首を返し、相手の剣を巻き上げる。


金属音とともに剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。


残る四人が囲む。


「やるじゃねぇか。でもこれで終わりだ。観念しな」


空気が張り詰める。






静寂を破ったのはカイルだった。


両腕を天に突き上げ、叫ぶ。


「マァァァァァァァァクス!!」




ズドン!




地面が震えた。



「ギャァーーーーーーー!」


竜の出現に盗賊たちは悲鳴をあげる。

馬たちは立ち上がり、転倒し、混乱する。



上の道から覗く工夫たちもどよめいた。


「この高さを飛び降りて平気なのか、凄いな!」


「いま、飛ばなかったよな?」


カイルは腕を組む。


「抵抗したら喰われるぞ。諦めて武器を捨てろ」


ドス、ドス、ドス。


マックスが進む。



「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


盗賊の一人が、マックスに剣を叩きつける。


カーーン。


鱗に弾かれ、剣が飛ぶ。



「ちくしょう!」「覚えてやがれ!」



盗賊たちは馬に飛び乗り、逃走を図る。



「マックスさん、やっておしまい!」



マックスは頭を低く構え、ぐっと、後足に力を込める。


そして、空へ伸びるように咆哮した。



グオォォォォォォォォォォォォォォ!!



山谷に反響する竜の声。


逃げる馬がパニックになり完全に制御を失う。

暴れ、方向を誤り崖から落ちていくのが見えた。


マックスは二、三歩進んで止まり、気まずそうにカイルを見る。


カイルは崖の縁まで行き、覗き込む。


「うわぁ……めんどくさいことになったなぁ。憲兵隊に怒られそう……」

カイルは頭を掻きながら、崖下を見下ろす。


背後で声が上がる。


「うわぁぁぁ! 馬が、馬が気絶している!」


商人が青ざめている。


カイルは困った顔でマックスを見る。



崖の上からは、一部始終を見ていた工夫たちが身を乗り出して喝采を送っている。


「すげぇ! 飛ぶよりずっと豪快じゃねぇか!」


「おい騎士(ライダー)の兄ちゃん、今の最高だったぞ!」



--------------------------


しばらくして騒ぎは落ち着いた。


工夫たちも降りてきて、商人を囲んで談笑している。


「助かった! 本当に助かりました、騎士様!」


震えていた商人が駆け寄ってくる。


「積んでいたのは、砦へ運ぶ酒と食料だったんです。これが無ければ、工事の連中に顔向けできないところでした」


商人はカイルの手を握りしめ、何度も感謝の言葉を口にした。


「俺たちは改築の応援だ」


「このルートで盗賊が出たことは無かったんですがねぇ」


「この前、砦で戦があったからな。しばらくは荒れるだろ。気を付けな」


商人は何度も頭を下げた。


気絶していた馬も、しばらくして意識を取り戻す。


商人は手綱を握り直しながら、ちらちらとマックスを見る。


恐怖と、敬意と、少しの感謝。


「兄ちゃん、いい仕事をしたな!」


工夫が笑う。


カイルは苦笑した。


「ちょっと大げさになりましたけどね」


マックスが鼻を鳴らす。


再び隊列は整い、荷馬車はゆっくりと動き出した。


山道の先、峰と峰を結ぶ線上に、石塀に囲まれた国境砦が見え始める。


石材を運ぶ走竜の影、槌音、掛け声。


カイルは歩きながら、ふとマックスの首筋を撫でた。


「おまえって、十分かっこいいよな」


マックスは何も言わない。


ただ、ドスン、ドスンと地面を踏みしめ、砦へと向かう。


その足音は、確かにこの山道を守る者の響きだった。





【あとがき】

今回は、閑話的な息抜き回でした


次回も、もうちょっとだけ息抜き回として描きます


第26話:カイル野営をする


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