表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/42

【第20話 評価の芽】

王宮の謁見室は、冬の朝の光を受けて静まり返っていた。

高窓から差し込む白い光が、楕円形の長テーブルを照らしている。

重厚な木目の卓を囲み、王国の中枢が一堂に会していた。


最奥端の上座には皇太子ジーゼル、その隣に王女ティーナ。


ジーゼルは、まだ青年と呼べる年齢だが、鍛えた体躯と鋭い視線で、十分な貫禄を放っている。

対照的に、ティーナはジーゼルと異母兄妹なので、綺麗と言うよりは可愛い容姿のお姫様だ。


上座の横に将軍レオニス、飛竜部隊旗隊長セルジュ、走竜部隊旗隊長グラウス、軍務官エルネスト、整備官ヘルガ、伝令官リオ、軍医官ドロテアの順で交互に分かれて着座していた。

そして報告のために呼ばれた飛竜隊第一隊長グレンと、走竜隊第一班長が最後に着座している。



静寂を破ったのはジーゼルだった。

「ティーナ。お前まで出席しなくても、よいのだぞ」


柔らかな声色だったが、その奥には歳の離れた兄としての気遣いが滲む。


ティーナは背筋を伸ばし、凛とした声で応えた。

「お国の大事です。私も勉強させていただきます」


十五歳とは思えぬ落ち着きに、室内の空気がわずかに和らいだ。


レオニスが立ち上がる。


「殿下にご報告いたします。アクリオン聖国より国境砦に対する奇襲が行われ、砦は一時占拠されました。しかし走竜隊の素早い対応にて奪還。その際、飛竜同士の空戦が行われ敵を撃墜いたしました」


一拍置き、声を落とす。


「しかし、森林前に引いていた防衛線に敵飛竜が来襲。当方にも被害が出ております」


軍務官エルネストが書面を開いた。

「人的被害、戦死十六、重傷四。走竜8頭喪失。敵損害は飛竜2頭撃墜、死亡兵士二名」


数字が冷たく室内に落ちる。


グラウスが低い声で続けた。

「砦奪還戦は第三班長の判断により無用な交戦を避ける事に成功しました。しかし予想外の空襲を受け、第三班長は殉死・・・」


拳がわずかに震える。


セルジュが続く。

「飛竜隊第一隊長グレンは空戦において優れた指揮を発揮。さらに森林前で孤立した走竜第三班の救助を行いました」


ジーゼルがグレンを見る。

「見事であった。王国を代表して礼を言う」


グレンは立ち上がり、深く一礼した。

「恐れ入ります」


その横顔を、ティーナは食い入るように見つめていた。

凛々しい姿に、頬がわずかに染まる。



やがて議題は核心へ移る。


「なぜ、アクリオン聖国が暴挙に出たのか」


レオニスは静かに語った。

「聖国の将軍が暴走している可能性が高いと見ております。中央の意向を越えた強硬策でしょう」


セルジュが補足する。

「飛竜戦力の試験的投入とも考えられます」


グラウスは腕を組んだ。

「砦の地形と兵数を測る意図もあるでしょう」


ジーゼルが顎に手を当てる。

「今後の対応は」


エルネストが答えた。

「外交ルートでの平和維持を継続。一方で武力誇示により均衡を保つべきかと」


グラウスが渋い顔をする。

「それでは、いつまた襲撃されるか分かったもんじゃない。国境砦は早急に強化して、竜を配置するべきですな」


レオニスが飛竜部隊旗隊長セルジュに聞いた。

「国境砦に飛竜を常駐させたらどうなる?」


「貴重な飛竜を最前線で寝かせたりしたら、叩いてくださいと言っているようなもんです!」


走竜部隊旗隊長グラウスが苦い顔になる。


「今回の国境砦奪還は走竜隊が行ったのですぞ!」


レオニスがグラウスを手で静止ながら静かに問う。


「飛竜が襲撃してきたらどうなる? 最近の動向からみて、尾根を越えて領空侵犯を犯した飛竜がそのまま来る可能性が最も高い」



少し考える間をおいて、レオニスが発言する。


「国境砦に走竜を常駐させ、飛竜を巡回させよう。セルジュ、これなら問題あるまい。」



意見が出ない事を確認して、レオニスが頷く。


「殿下、今後は外交ルートでの平和維持を継続。同時に武力誇示により均衡を保ちます。国境砦は強化を急ぎ、竜を常駐させます」


決定が下された瞬間、王国の針路が定まった。



会議が終わり、それぞれが離席する中で、ティーナが走竜隊グラウスのそばに立ち小さく言った。


「国境砦を取り返していただき、感謝しております。国の為に命を落とされた隊員とご家族に手厚くしてくださいね」


グラウスが驚いた様に固まった。やがて、しずかに肩を震わせて涙を一粒落とした。


--------------------------------------------------------



その日の夜、タチミ街の酒場はざわめいていた。


「砦を取り返したんだってよ!」


「また、グレンが飛竜を2頭撃墜したらしい!」


「空中で殴り合いをして、敵を叩き落としたって聞いたぞ」


「グレンが、敵の騎兵を空中で殴ったのか?、ちょっと意味がわからんぞ、がはははははは」


「窮地の走竜隊もグレンが救ったって話しじゃねぇか」


「おぉぉぉぉぉ~、グレンばんざーい」


空の勝利が誇張され、杯が打ち鳴らされる。



だが酒場の隅、灯りの届かぬ場所で、走竜部隊第三班の生き残りたちが静かに杯を置いていた。


「班長、最後まで俺たちの事を気にかけていたな」

沈黙が落ちる。


ひとりが低く言う。

「俺たちを救ったのは、グレンじゃない」


視線が交わる。


「あの走る竜だ」


老兵が思い出す様に語る。


「あれは、走る竜なんて生易しいもんじゃない、まるで飛ぶように走る竜なんだ」


「でも、飛竜だけど飛べないんだよな? 」


別の隊員も思い出す様に言った。


「あぁ、すげぇもんを見ちまったぜ」




「飛ぶように走る竜」がいる。


そんな噂が、静かに街に芽吹き始めていた。



----------------------------------------------------------

厩舎。


夜の匂いと藁の温もり。

カイルはマックスの脚を撫でながら、ミレイに向き直った。


「今回の戦いで、マックスの速度がさらに上がった」



ミレイは腕を組む。


「どれくらい?」


「平坦な草原の道を走っていたのにさ、速度が上がると平坦だった道が、平坦じゃなくなるんだ」


「どういう意味?」


「緩やかな起伏なんだ。でも高速で上がった所を通過すると、下がった部分に足が届かない」



ミレイの瞳が鋭くなる。


「接地していない?」


「たぶん・・・ものすごく低い弾道で跳躍してる」




ミレイは息を呑んだ。


カイルは続ける。


「訓練の跳躍でも変化があった」


以前、着地と同時に停止しようとした時のことを思い出す。


「最初は着地が“ドスン”だった。脳天に痺れが来る衝撃だ」



マックスは胸が地に付きそうなほど屈伸していた。それでも衝撃は凄まじい。


「普通の飛竜なら、着地直前に大きく羽ばたいて衝撃を逃がすんだが、マックスは羽ばたかない」


「屈伸だけで受け止めてる・・・」


「そう・・・でもさ、考えたんだ」



カイルは拳を握る。


「跳躍の後に停止するから衝撃が強いなら、止まらなければいいんじゃないかって」


ミレイの眉が上がる。


「それで?」


「やってみたら・・・音が“ドスン”から“ダン”に変わった」


「・・・」


「一番変わったのは、衝撃の向きだ。上下じゃなく、前後になった」


着地と同時に前進する。衝撃は落下の衝撃ではなく、加速の衝撃へ変わっていた。


「だから今は、跳躍した時はマックスに加速の指示を出している」


ミレイは手にした棒で、地面に図を書き始めた。


それは、マックスにかかる力の向きを示すものだった。


カイルが覗き込んで、しばらく考えてから理解したようにいう。


「図にすると分かりやすいな、そういうことだよ」


ゆっくり頷く。


「平地の疾走も、跳躍も・・・同じ理屈かもしれないわね」


「たぶん」


厩舎でマックスが丸くなって眠っている。


カイルはマックスを見つめながら言った。


「わかるのは一つだけだ。マックスの走りは進化している」


ドスンから、ドンへ。


そして、ダンへ。


音が変わるたび、竜は地を掴み、解き放たれていく。


まだ誰も知らない。


この小さな変化が、やがて戦場の理を覆すことを。

【あとがき】

戦いの報告が王宮で行われました。

カイルとマックスは飛ぶように走ります。


次回は敵国の状況を描きます。


第21話 アクリオン聖国

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ