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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第19話 全力疾走】

混乱は、もはや戦いの形を失っていた。


爆ぜた土。燃え残る火。砕けた竜車。

そして、主を失った兜が、からりと音を立てて転がっている。


持ち主の姿は、すぐ傍にあった。

動かない。


走竜が暴走していた。

鞍だけを残して駆け出す者、炎に怯えて円を描くように走り回る者。

鎖を引きずりながら、恐慌に目を剥いている。


プレートアーマー姿の騎士が、必死に走っていた。

自らの竜を追い、転び、立ち上がり、また走る。


空では、敵飛竜が悠然と旋回していた。


1頭が、人気のない草地へと舞い降りる。

巨体が地面に影を落とし、爪が土を掴む。

その足に岩を握り込むと、翼を広げた。


そして再び、重々しく羽ばたいた。


飛竜といえど、平地から風の助けもなく舞い上がるには時間がかかる。

翼を大きく打ち下ろし、土煙を巻き上げ、ようやく浮力を得る。


その間、もう一頭の飛竜が、カイルたちの頭上を旋回していた。

威圧するように、低く。

逃げ場を封じるように。


「森へ入れ! 森へ!」


誰かが叫ぶ。

森林の中に入れば、頭上からの急降下攻撃は不可能だ。

だが、森林の方角へと走り出した騎士から先に、攻撃を受けていく。


岩が落ちる。

火炎壺が弾ける。


逃げ道を読まれている。

竜車の脇で、第三班の班長が歯を食いしばっていた。

対飛竜用のスリングショットを、必死に操作している。


「引け、もっと引け!」


部下が綱を巻き上げる。

頭ほどの大きさの石が装填された。


「撃てぇ!」


唸りを上げて石が打ち出される。

上昇中の飛竜へ向かって一直線に飛ぶ。


だが軌道は逸れ、空を裂いて虚しく落ちていった。


「くそ、役に立たん、次だ!」


再装填。

索を引く腕が震えている。


第二射。

今度は旋回中の飛竜へ。


石は二十メートルほどの高さまで上がったが、敵はその遥か上空を悠々と飛んでいる。

やがて石は失速し、落ちてきた。


第三班の班長が振り返り、叫ぶ。


「今だ、森に逃げこ――」




グシャ。




言葉は最後まで続かなかった。


落下してきた岩が、彼を直撃した。

鎧ごと地面へと叩きつけられ、土と血が跳ね上がる。



カイルの身体が、凍りついた。



目の前で起きた惨劇に、思考が追いつかない。


マックスも動きを止めていた。

首を上げ、空を見つめている。


そのときだった。



マックスが、翼を思いきり広げた。



地を駆けるために折り畳まれていた翼。

それを誇示するように、天へ向けて広げる。




ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!




腹の底から絞り出すような咆哮が、戦場を震わせた。



逃げ惑っていた騎士たちが、振り向く。

暴走していた走竜たちが、足を止める。

すべての視線が、マックスに集まった。



空の敵飛竜二騎が、明確に標的を変える。


敵の一頭が、急降下を開始する。


「来るぞ!」


カイルが叫ぶ。


敵の爪が迫る。

地面すれすれの高度で突き抜ける殺意。



その直前。


マックスが、跳ねた。



ダン!


地面を蹴り上げ、横へ弾ける。

敵の爪が空を裂き、土を抉る。


ドスン。


着地。



すぐさま、もう一頭が降下する。


再び直前で跳ねる。


ダン!   ドスン!


カイルは手綱を引いた。


「走れ、マックス!」


草原を、森林とは逆方向へ。


ダダダダダダダ――


草を裂き、地を叩く。


全力で走るマックス

カイルは鐙に力を入れて、中腰の姿勢を取りながら、走行の振動を膝で受け流す。


前方に段差。


踏み切る。


バン!


一瞬、浮遊。


ドン!


着地。


振動が腹に響く。


着地と同時に、再加速。



頭上では二頭の飛竜が交差する。

地上の飛竜が飛び立つ瞬間を狙うかのように。


だが彼らはまだ飛び立たない。


飛竜は、飛び立った直後が最も無防備だ。

地上のように跳ねて避けることもできず、空で機動するには高度が足りない。


その瞬間を、敵は待っている。


ダダダダダダダ。


森林へ逃げ込んだ走竜隊が、振り返る。

木立の陰から、息を呑んで見つめている。


マックスが追われている。


ダダダダダダダ、

バン、

ドン。


再び段差。

再び踏み切り。


マックスは、段差を飛んだ時に、着地で前転しない様に身体を起こして、足から着地していた。

しかし、走り続ける間に、姿勢が変わり始めていた。

カイルが、着地した時に速度が落ちない様に、飛んでいるときに「加速」の指示を出していた。

それに合わせる様に、マックスは、身体を起こさずに着地するようになった。


速度が増す。


ダダダダダダダ、

ドン、

ダン。


地面を蹴る音が変わっていく。


「すげぇ……」


誰かの声。


「速い、速すぎる……なんだあの竜は」


別の兵が呟く。


「飛んでいる飛竜よりも速く走っているんじゃないか?」


実際、水平飛行でマックスを追いかける飛竜の距離は詰まらない。



マックスは直線を疾走する。



ダダダダダダダ。


草を薙ぎ、土を蹴り、ただ前へ。


敵飛竜がカイルとマックスを追いかける。


だが、追いつけない。


地表を走るマックスは、段差を利用し、傾斜を利用し、跳ねる。


着地の衝撃が、次の踏み込みを生む。


加速。


さらに加速。


森林の中から声が上がる。


「カイル! みんな避難できたぞ!」


だが距離が開きすぎて、届かない。


老兵が呟く。


「死ぬな……お前も生き残るんだ」


祈るように。



上空の飛竜が、焦れたように降下する。


爪が迫る。


だがマックスは、地を蹴る。


ダン!


横へ弾き、即座に加速。


飛竜が空を切る。


そのまま上昇するには角度が足りない。

地面すれすれを滑空するしかない。


だが、地上はマックスの領域だ。


敵の飛竜が、急に左右へ分かれて旋回した。


中央が、空く。


その上空を、一頭の飛竜が横切る。


蒼い翼。


グレンだ。


戻ってきた。


味方の飛竜3頭、鋭く敵へ向きを変える。


敵は即座に距離を取る。



不利とみて、敵はそのまま撤退した。



草原に、再び空が広がる。


静寂が、遅れて落ちてきた。


マックスは減速する。


ダン、ダダン。


止まる。


荒い呼吸。


カイルは、マックスの首筋を叩いた。


「……よくやった」


空では、味方の飛竜が旋回し、追撃はしない。


戦は終わった。



国境砦は奪還されていた。


先行した走竜30頭に、さらに30頭が追いつき、合計60頭が森から姿を現した段階で、敵は戦わずに撤退したのだ。


追撃戦は行われなかった。


損耗は、あまりにも重い。


砦に詰めていた兵士二十一名のうち、十名が死亡。

しかし、重傷軽傷を合わせ十一名を取り戻した。


第三班は壊滅的だった。


班長を含む六名が死亡。

走竜8頭が死亡。


草原に残る焦げ跡と、深く抉れた地面。

空に、敵の飛竜はいない。


カイルは、空を見上げて思った。


--あのとき、確かに飛竜を振り切った。







【あとがき】

戦火を切り抜けました。

マックスは全力で走りました。


次回は、戦果報告が行われます。


第20話 評価の芽

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