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【ドラゴンライダー  ~飛べない竜と俺は必ず再起する】  作者: 霧笛の火魔人


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【第1話 墜ちた竜騎士】

飛竜騎士は、空を飛ぶ者だ。

では――飛べなくなった竜騎士は、何者になる?


最初は少しだけ重たい展開がつづきますが、

どうか、お付き合いください。


空は、青すぎた。


雲一つない晴天。

訓練場の上空を覆うその色は、何度も見上げてきたはずなのに、今日に限ってはやけに遠く感じられた。


「緊張してる?」


背後から声がかかる。

振り向かずとも、誰のものか分かる。


「してない」


短く答えながら、カイルは手綱を握る手に力が入っているのを自覚していた。

革越しに伝わる感触が、わずかに湿っている。


――初飛行。


竜騎士として正式に認められるための、最後の関門。

これを終えれば、もう“訓練生”ではない。


「だったら、いいけどさ」


同じ訓練生の声が、どこか軽い。

それが少しだけ、羨ましかった。


眼下では、整備士たちが忙しなく動いている。

飛竜の翼膜を点検し、鞍を締め、最後の確認を行う。

革と金属の擦れる音、竜の低い呼吸音。

どれも聞き慣れたはずなのに、今日は妙に大きく響いた。


カイルの相棒――今日、初めて空に出る飛竜は、静かだった。

鉄色に近い鱗が陽光を弾き、首をわずかに傾けてこちらを見ている。


その視線に、カイルは小さく頷いた。


「……行こう」


言葉は、竜に向けたものでもあり、自分自身に向けたものでもあった。


号令がかかる。


合図と同時に、飛竜が地を蹴った。

重たい衝撃が鞍を通して伝わり、次の瞬間、視界が一気に持ち上がる。


風が、来た。


顔を叩く空気の流れ。

耳元で唸る音。

地面が、急速に遠ざかっていく。


――よし、飛んでいる。


頭では何度も理解してきた感覚。

だが実際に身体で味わうそれは、想像以上に圧倒的だった。


飛竜の翼が大きく羽ばたくたび、上下に揺れる。

だが、恐怖はない。少なくとも、この瞬間までは。


高度を取り、隊列に入る。

訓練通りだ。何も問題はない。


「いいぞ、そのまま旋回」


通信越しの教官の声が聞こえた。


カイルは手綱を引き、飛竜に合図を送る。


次の瞬間。


――バンッ、と乾いた音がした。


音だけで、何が起きたのか理解できた。

右側の手綱が、視界の端で弾けるように切れている。


「……っ!?」


身体が、持っていかれる。


引いた方の手綱が切れた反動で、カイルはバランスを崩した。 

驚いた飛竜は翼が空を掻き、風切り音が乱れる。


視界が、回った。


空と地面が、グルグルと何回も入れ替わる。

上下が分からない。


――落ちる。


理解した瞬間、胸の奥が凍りついた。



「やめろ、戻れ! 戻れ――!」


声が、風に引き裂かれる。

手綱を引こうとしても、もう片方しか残っていない。


飛竜が叫ぶように鳴いた。

その声が、恐怖をさらに煽る。


高度が、みるみる失われていく。

地面が、あり得ない速さで近づいてくる。


心臓が、暴れる。

呼吸が、できない。


――怖い。


それは、理屈ではなかった。

訓練も、知識も、経験も、すべてが意味を失う。


ただ、落ちている。


風が、刃のように身体を切る。

視界が白く染まり、耳鳴りが響く。


衝撃。


世界が、裏返った。


――――


次に意識を取り戻した時、空はもう見えなかった。


代わりにあったのは、土と草の匂い。

身体の下から伝わる、硬い感触。


「……っ」


喉から、声にならない音が漏れる。

全身が、鉛のように重い。


飛竜の姿が、少し離れた場所にあった。

大きく息をし、動いている。生きている。


それを確認して、ようやく、ほんの少しだけ安堵が訪れた。


だが、次の瞬間。


「カイル! 聞こえるか!」


駆け寄ってくる足音。

教官の怒鳴り声。

周囲のざわめき。


それらすべてが、ひどく遠く感じられた。


「……俺は」


言葉を絞り出そうとして、喉が詰まる。

頭の中で、さっきの光景が何度も再生される。


切れた手綱。

回る視界。

迫る地面。


身体が、勝手に震えだした。


「落ち着け。怪我は――」


「……怖かった」


ぽつりと、零れた。


その一言で、すべてが決まってしまったような気がした。


後日。

正式な判断が下された。


――事故。

――操縦不能による墜落。


飛竜に大きな外傷はなし。



騎乗者――カイル・レインハルトの回復は早く、一月後には飛行訓練に戻ることが出来た。


しかし、そこで本人の意思に反して、身体が硬直する症状がでた。


飛竜を操る騎士(パイロット)に発生する精神的後遺症だった。


高い場所に立つと脚の震えが止まらなくなった。



「恐怖反応が強すぎる」


医師によるその言葉は、淡々としていた。


「今後の飛行任務は不適格」


書類に、印が押される。

それだけで、彼の夢は断たれた。


飛竜騎士訓練資格、剥奪。


訓練所追放――ではない。

より残酷な処分だった。


地上配属。


空を見上げることしか許されない場所へ。


部屋を出た時、空は相変わらず青かった。

だがもう、あれは自分の場所ではない。


カイルは、無意識に右脚を引きずっていた。

着地の衝撃で痛めた傷が、鈍く疼く。


それ以上に――

胸の奥に残った“あの感覚”に、毎晩の様にうなされた。


落ちる感覚。

空に、身体を預ける恐怖。


彼は、もう一度だけ空を見上げ、そして視線を落とした。


こうして、

飛竜騎士カイルは、墜ちた。


第1話を読んでいただき、ありがとうございます。


次話は、墜落の「後始末」と、空を失った日常が始まります。


飛竜をライディングした時の爽快感とスピード感を全開で描くまで、

まだしばらくかかりますが、

よろしければ、続きをお読みください。



どこまで、描き続けることができるか、私自身も挑戦です。

ぜひ、感想・応援のコメントを送っていただけないでしょうか。

よろしくお願いいたします。

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