8 新メンバー加入って、アイドルグループかよ
おれの感情はジェットコースター並みに上がったり下がったり宙返りしたりした挙句、虚脱状態になっていた。
円盤型のシン・ジュピター二世号から降ろされたタラップを、おれの前を行く荒川氏が若く思えるほど、一歩一歩まるで老人のように重い足取りで上がったが、船内の様子を見て、またワサワサと心が波立った。
「オー、ワンダフォー!」
そう言ったのはもちろんおれではなく、おれの後ろから上がって来た元子である。
「すごいじゃない! まるで宇宙戦艦ね」
そうなのだ。
海賊船仕様の時は、内部はそれなりに普通の宇宙船だったのに、今はゴチャゴチャした計器類が壁面を埋め尽くし、何に使うのかわからないスイッチがめったやたらと並んでいる。
振り返った荒川氏が、慌てて元子に言った。
「ああ、すまんが、そこら辺のスイッチに迂闊に触らんでくれ。どうなるのか、わしにもわからんのじゃよ」
なんだよ、それ~。
おれの視線に気づいたのか、荒川氏は「いやあ、すまんのう」と笑った。
「今回の魔改造では、悪友古井戸の方が主役での。何しろ遮蔽装置については、星連内、いや、銀河系内でも、あやつの右に出るものはおらん。なので、内部はあやつに任せ、わしはもっぱら外部のプラモ円盤の組み立てに専念したんじゃ」
おいおい、だったら、その古井戸という人物こそ乗り組んでくれなきゃ困るよ。
おれの気持ちを代弁するように、元子が尋ねた。
「ドクター古井戸は乗船されないんですか?」
「うーん、あやつは変わり者での。ミッションだのなんだの、堅苦しいことが大嫌いなんじゃよ」
すると、「心配いりませんわ、荒川のおじさま」という声がした。
もちろん、シャロンだ。タラップから船内に入って来たばかりのようだ。
シルバーフォックスもどきのコートは脱ぎ、ラベンダー色のワンピース姿である。
孫娘から話し掛けられたように、荒川氏は目を細めた。
「ほう。心配いらんとは心強い。シャロンちゃんも超時空物理の学位を取得しておるのかね?」
「いいえ。万能のあたしにも不得手があって、それが数学と物理なの。でも、大丈夫。事前に船内の設計図は全部丸暗記したから、どのスイッチが何のスイッチかは全部覚えてるわ」
「おお、頼もしいのう」
ちっとも頼もしくない。これでイザという時、大丈夫なのだろうか。
おれの心配をよそに、一通り操縦席付近を見て回った元子が、「じゃあ、後は任せたわ」と出て行こうとしている。
「ちょ、待てよ。元子は一緒に行かないのかよ?」
元子は笑顔でウインクした。
「言ったでしょ? 今回のミッションは隠密作戦なのよ。スターポールの捜査官が乗ってちゃ、おかしいじゃない。あくまでも民間機が観光旅行にいく体でお願いね。ああ、そうそう。もう一人、新メンバーがじきに来るはずだから、後の指示は彼から聞いてね。じゃあ、ボンボヤージュ」
そこはフランス語かよ、ってか、新メンバーって誰だよ。
その後、サンタクロースの格好をしたプライデーZが、「できれば煙突から入りたかったのう、ホーッホッホーッ」などと文句を言いながら乗り込み、チャッピーは伸縮できないアーマースーツを装着しているためそのまま格納庫に収納した。
ところが、新メンバーとやらはまだ来ない。
とりあえず、荒川氏から雪男スーツの説明を聞くことにした。
内側の防寒性能は抜群だが、表面はゴワゴワした白い人工獣毛でビッシリ覆われているから、一旦着用すると通常の船内活動に差し障りがある。仕方ないので、現地に到着する寸前に着ることにした。
シャロンには雪女スーツが用意されいた。
これは着物のように羽織るタイプである。色は当然、雪のように真っ白だ。袖の先や裾の下などは、肌が露出しないよう手甲脚絆のようなパーツが組み合わせてある。
まったく動きに支障がないため、早々と着込んで「オオ、ジャパニーズキモーノ、スバラシ!」などと燥いでいる。
ってか、そもそも、なんで雪男と雪女ってこんなに別物なんだよ!
そんなこんなで結構時間が経ったのに、依然として新メンバーは来ない。
おれはついに痺れを切らした。
「もう出発しちゃいましょうよ、荒川さん」
「じゃがのう……」
当然、シャロンが近くにいたら止めるだろうが、雪女スーツの性能を試してみたいと言って、プライデーZと一緒に階下の食品貯蔵庫に行っている。
「だって、こんなに遅れる向こうが悪いんですよ」
荒川氏自身も待ちくたびれているようだ。
「うーん、そうじゃのう……」
「じゃあ、もうハッチを閉めますよ。いいですね?」
おれが出入口に向かおうとした、その時。
「すまん、待たせたな」
ちっともすまなそうではないその声に、聞き覚えがあった。
「え? まさか……」
ハッチから入って来た人物は荒川氏と同年配ぐらいで、髪の毛がほとんどなく、目はギョロリとし、唇は分厚く、その唇を皮肉そうに歪めて笑っている。
思わず大声が出た。
「ドクター三角! また脱獄したんだな!」
おれは視線を逸らさずに、横目で武器になりそうなものを探したが、近くには鉛筆一本転がっていない。
さすがに荒川氏は古武術らしき形で構えつつ、「中野くん、逃げるんじゃ」と囁いた。
荒川氏を残して逃げる訳にも行かず、敵わぬまでも一発ぐらいブン殴ってやろうと、おれは拳を握り締めた。
ところが、ドクター三角は声を上げて笑い出したのである。
「おいおい、誤解するなよ。スターポールの小柳捜査官が言ってなかったか? ぼくが新メンバーだよ。一応、自己紹介しておこう。元宇宙海賊の三角呉左衛門だ。今まで色々あったが、まあ、よろしく頼む」
そう言いながら右手を差し出したが、その手には……。




