6 それが本当の狙いかよ
翌日、いつものように身の回りの必要品だけ愛用のリュックに詰め、おれは宙港に向かった。
本当なら多少防寒着など持って行った方がいいのだろうが、コンビニのバイトをクビになって以来、単発バイトにしかあり付けず、懐の方が寒いのだ。
まあ、荒川氏が作ってくれたというスーツが優秀そうだから、特に心配は要らないだろう。
そんなことより、宙港行きのバスの車中で、おれは少し後悔していた。
昨日は自分でも不思議なほど気持ちが高揚し、冒険の旅に出るぞと張り切ったものの、考えれば考えるほど不安が膨らむばかりだ。
ミッションの難しさに比べ、あの張りぼての海賊船では、蟷螂の斧とかいう諺そのものではあるまいか。
ところが、宙港でバスを降り、黒田星商専用発着場に着くと、自分の目を疑うような光景が見えた。
「な、なんじゃ、こりぁ……」
見覚えのある繋船柱から伸びる鎖の先には、まったく見覚えのないものが浮かんでいたのだ。
「どうじゃ、気に入ったかの?」
後ろから声を掛けて来たのは当然荒川氏だが、おれは振り向くことさえ忘れていた。
「こ、これが、あのジュピター二世号、なんですか……」
そこにあったのは、昔のSF映画に出て来そうな銀色の円盤であった。
「外殻部分は同じヤタミのプラモ製品じゃが、海賊船仕様ではあまりに古臭いじゃろうと思うて、円盤型にしたんじゃよ。どうじゃ、ええじゃろ?」
「……うーん、いいか悪いかは、まあ、趣味の問題でしょうが、あの海賊船のプラモデルは、希少価値があるんじゃなかったですか?」
荒川氏は、身を乗り出すようにして頷いた。
「そこなんじゃよ! 実は、奇特なマニアが高額で買い取ってくれての、その差額分で念願の遮蔽装置を取り付けたんじゃ。民間の宇宙船としては、史上初じゃぞ!」
本来の所有者であるおれに断りもなく、と怒ってもいいのだろうが、メンテナンスも含めすべて丸投げにしていたから、文句も言えない。
というか、これだけの改造が一日二日でできるはずがないぞ。
「あのう、いつ頃改造されたんですか?」
荒川氏は珍しく照れたように笑った。
「おお、すまんすまん。出過ぎた真似をしたことはお詫びする。じゃが、前回のドラードでの最後のパーティーの席で、次の冒険も間近いような話を元子くんがきみに言っておったそうじゃないか。副操縦士兼機関長のわしとしてもウカウカしておれん、と思うての。あれからほとんど掛かり切りでジュピター二世号の魔改造に取り組んでおったんじゃ。専門知識が足りんところは、悪友のマッドサイエンティスト古井戸に手伝ってもろうたよ。で、先週ようやく完成し、船長たる中野くんに報告するつもりだったんじゃが……」
おれはピンと来た。
「元子から連絡があったんですね?」
「おお、さすがにご明察じゃの。どこから情報が漏れたのか、おそらくは古井戸からじゃろう、古井戸だけにな、というのは冗談じゃが、いきなり『ジュピター二世号に遮蔽装置を装備したらしいですね?』と言われたんじゃ。わしとしても隠し立てしてスターポールに睨まれたくはないから、すぐに認めたよ。すると、是非お願いしたいミッションがあるから協力して欲しいと言うんじゃ。わしはええが、本来の所有者は中野くんじゃぞと答えると、そちらの説得は任せてくれと言われてのう」
鈍いおれにも、ようやく元子の意図が読めた。
今回のミッションはあくまでも隠密行動を取らなければならないから、スターポールや星連軍の宇宙船は使えない。
ところが民間の宇宙船には、当たり前だが遮蔽装置など付いていない。
そこに、ジュピター二世号の情報が入り、それを押さえるために、所有者であるおれに接触して来たのだ。
怒るよりも自分が情けなくなり、おれはこの場から帰るつもりで「荒川さん、すみませんが……」と言い掛けた。
その時。
「やっぱりチキン野郎ね。出発前に怖気づいたんでしょ?」
いつの間に近くに来ていたのか、ラベンダー色のワンピースの上にシルバーフォックス(本物は禁止されているから当然人工毛皮だろう)のコートを羽織ったシャロンがおれを睨んでいる。
おれは鼻で笑った。
「ふん。何とでも言ってくれ。おれはもう騙されないぞ。まあ、おまえは演技なんかできないだろうから、おれと同様に踊らされてるんだろうが、元子はとんでもない名女優だよ。あいつの本当の目的は、民間機で唯一遮蔽装置が付いた、このジュピター二世号を手に入れることだったんだ」
「あら、良くわかったわね」
この声はシャロンじゃない、元子だ。
が、姿は見えない。
おれは急激に怒りが込み上げ、声のした方向へ怒鳴った。
「失礼だろ、元子! 光学迷彩を解除しろ!」
ブーンという音と共に黒レザーのハイパースーツを着た人物が姿を現し、フルフェイスのヘルメットを外すと苦笑した元子の顔が出て来た。
「隠し事をしていたことは謝るわ。でも、騙したんじゃないのよ。ジュピター二世号だけが目的なら、レンタルすればいいことじゃない? でも、スターポールの上層部は、このミッションを無事に果たせるのはあなたしかいないと判断したの。そこで、あなたを説得するため、わたしはハリウッドの演出家から演技とアクションの指導を受けて、今回の小芝居を打ったのよ」
演技はともかく、なんでアクションの指導まで要るんだよ。
そう思った時点で、怒りより好奇心が勝ってしまっていた。おれの悪いクセだ。
「そうか、それでしゃべり方がアメリカナイズされてたんだな。で、元子以外は誰と誰がグルなんだ?」
元子はアメリカ風にシュラッグ(=肩を竦める仕草)した。
「もう言ってもいいと思うけど、あの警官役はスターポールのスタッフよ。一緒にアクション指導を受けたわ。でも、チャッピーちゃんが来たせいで、後半はほとんどわたしのアドリブなの。そう、それから、黒田ナオミさんには、電話での出演協力を依頼したわ。ああ、でも、あなたに提示した条件に嘘はないのよ。このミッションが成功したら、ちゃんと特別暫定保安官補佐に、いいえ、この際、補佐も外してあげる。特別暫定保安官、中野伸也。どう? カッコいいじゃない!」




