5 やっぱりいつものメンバーかよ
悲惨な事態を予想して、目をつぶりかけたおれの横を、黒とラベンダー色の暴風が吹き抜けた。
もちろん、元子とシャロンの二人だ。
まるで示し合わせたかのように、声を揃えて「トオッ!」と叫ぶと、床を蹴ってジャンプする。
あ、またパンチラが、というおれの余計な心配など知らず、シャロンはワンピースの裾を翻し、プライデーZのボディに強烈な飛び蹴りを喰らわせた。
一方の元子は、長い脚を相手の体に絡ませるように警官に飛びつくと、どうしてそうなるのか、目にも留まらぬ速さで警官を仰向けに倒し、胴体を両腿で挟むように馬乗りになり、更にいつの間にか奪い取った拳銃を両手で構え、相手の眉間に銃口をピタリと突き付けた。
「逮捕する!」
アメリカ映画かよ!
警官も脂汗を流しながら、何故か元子につられて「ノー、ノー、無実だ」などと反論している。
おれは思わず「みんな、一度落ち着けよ!」と叫んだが、またしてもチャッピーにじゃれつかれて、立ち上がることもできない。
と、元子がフッと笑って、「まあ、無理もないかも」と言いながら拳銃をクルリと回して警官に返した。
「初めてチャッピーちゃんを目撃して動揺したのね。でも、緊急事態以外には、やたらと実弾を発砲しちゃいけない規則のはずよ。ああ、そうだわ。予算が足りないからって、ずっと配備が遅れているらしいけど、改めてスターポールから警察庁長官に、警官には拳銃の代わりに麻痺銃を持たせるよう進言させるわ」
「サンキューマム、あ、いえ、ご配慮に感謝申し上げます、捜査官どの」
その後ろでは、「乱暴しちゃってゴメンね」と謝りながら、シャロンがプライデーZを助け起こしている。
「でも、あんたも悪いのよ。またチャッピーちゃんを逃がすから」
すると、ロボットのくせにプライデーZは頬をプッと膨らませて抗議した。
「だって、今はチャッピーちゃんとチャンバラごっこをしてる時間ですとご説明したのに、緊急事態だからすぐに自分を乗せて商店街へ飛べと命令したのは、シャロンさんじゃないすか。いくらボスが不甲斐ないせいで、あっしらがシャロンさんのお屋敷に居候してる身分だからって、やってらんねえっすよ」
ロボットにあるまじきヤサグレた態度に、おれの方が腹が立った。
「おいっ、言葉に気を付けろよ。おれの躾が悪いと思われるじゃないか。それに、あそこはシャロンの屋敷じゃないぞ。黒田さんのお屋敷だ。おれのアパートじゃ狭すぎるだろうと、おまえとチャッピーを預かってやろうと約束してくれたのは黒田さんで、シャロンは関係ない。っていうか、居候という点じゃ、おまえたちは同じ立場だよ。いや、そもそもの話、チャッピーはおれがペットとして飼育許可を申請したけど、プライデーZ、おまえは勝手におれについて来ただけだろ?」
言ってから、あ、ちょっと言い過ぎたかもと後悔したが、後の祭り。
プライデーZは俯いてフルフルと肩を震わせているし、シャロンはおれに向かって中指を立てている。
うーん、どうしよう。
更に追い討ちを掛けるように、警官を解放した元子がおれの両肩を後ろからグイッと掴んだ。
またおれを跳び箱代わりにするのかと身構えたが、元子は静かに告げた。
「今のはちょっとヒドいわね。早く謝った方がいいわ」
おれも、シャロンはまあともかく、プライデーZには詫びた方がいいと思ったので、どちらともいえない曖昧な角度で、「ごめんよ」と頭を下げた。
すると、プライデーZは芝居がかった声色で「苦しゅうない、面を上げよ」と言うし、シャロンに至っては「仕方ないわね。元子お姉さまに免じて、今回だけは赦してあげるわ」と完全に上から目線。
おれは直ちに謝罪の言葉を取り消し、改めて怒りの炎に再点火しよう思ったのだが、交番の外に大きな羽音を立てながら着陸した人物を見て、もう諦めた。
言わずと知れた、荒川氏だ。
「おお、中野くん、何をしておる。きみの海賊船ジュピター二世号は魔改造して、準備万端整っておるぞ。後は船長である中野くんさえ乗り込んでくれれば、いつでも出航できるんじゃ。ちなみに、わしの天狗スーツも全面改造して、ほれ、ハングライダーではなく、ちゃんと鳥の羽根のようじゃろ? きみ用の新しいスーツもできておる。さあ、いざ行かん、若者よ!」
ああ、今わかったぞ。お気の毒な警官は別にして、こいつらみんなグルだ。
いや、こうなって来ると、この警官だってわかんないぞ。
みんなで寄ってたかって、否が応でも、おれを今回のミッションへ行かせるつもりなのだ。
もちろん、そんなことはあり得ず、疑心暗鬼というやつだが、おれはもう何もかも信じられない気持ちになっていた。
ところが、おれは憤然としてこの場を立ち去る代わりに、依然としてチャッピーにペロペロ舐められつつ、口では別のことを言っていた。
「荒川さん、新しいスーツって、防寒ですか?」
「おお、もちろんじゃとも。完全防寒防水の雪男スーツじゃ。それだけではないぞ。本来寒さに弱いオランチュラのチャッピーちゃんのために、特製の機甲スーツも作っておるぞ」
おれの中で、フツフツと新たな感情が芽生えていた。
それは、冒険心だ。
おれは一度大きく深呼吸し、拳を突き上げながら宣言した。
「よーし、おれも行くぜ! 宇宙のゴム管、いや、極寒地獄へ!」




