45 今回は、パーティーしないのかよ
話には聞いていただろうが、おれの姿のドッペルを初めて見る絹代さんは「まあ」と驚き、元子は「へえ」と感心した。
ドッペルは如才なく「さあさあ、ご婦人たちもご自由に席にお着きください」と日本語で勧めた後、『なお、議事進行の都合上、討論は標準宇宙語でお願いしますね』と標準宇宙語で述べた。
基本的に越冬隊は左側に、救助隊は右側にという配列は、最初と変わっていない。
ただし、最初に奥の司会席に座っていた二人、すなわち、ストローハット教授とシャロンはそれぞれの列の手前側に移動している。
そのため、絹代さんはシャロンの隣りに、元子はその次に座った。まだ席には余裕があったので、プライデーZとチャッピーもおれの左右に座らせた。
その時気づいたのだが、ストローハット教授の横に四処博士がしれっと座っているのだ。
え?
どゆこと?
さっき海賊は全員連行されたんじゃなかったのか?
まあ、海賊ギルドの直接の構成員ではないからということなのだろう、わかんないけど。
したがって、越冬隊側は、セダン准教授・ヤン研究員・アリエラさん・トトカイナちゃん・クルリンパ氏・四処博士・ストローハット教授という並び。
救助隊側は、ドクター三角・マーロン大佐・シャロン・絹代さん・元子・プライデーZ・おれ・チャッピーという順となった。
これで全部かと思いきや、ドッペルが『後二名、リモートで参加するから、会議室の前後にスクリーンを出すね』と告げた。
会議などで使うホワイトボードぐらいのスクリーンが、ドッペルの後ろと入口側の天井からスルスルと降りて来た。
『まず、後方スクリーンに注目して欲しい。惑星開発局の元職員で、発明家の荒川さんだ』
ジュピター二世号に一人で残っていた荒川氏は、ニコニコしながら『やっと仲間に入れたわい』と独り言ちた後、『だいたいの事情はドッペルくんから聞いておるよ。初対面の人たちもよろしくのう』と挨拶した。
ドッペルは『よろしく』と小声で返すと、声を張った。
『次に、前方スクリーンに貴賓をお招きした。クリキントン帝国のモンブラン陛下だ』
えっと思ったが、おれ以上にマーロン大佐が驚愕し、直立不動になった。
スクリーンには若いクリキントン人の姿が映った。茶色の夏毛だが、マーロン大佐より毛が柔らかそうで、特に頭頂部の髪の毛がキューピーちゃんのようにクルクルと渦を巻いてチョコンと飛び出ている。
『朕がクリキントン帝国第十五代皇帝のモンブランである。見知りおくがよい』
思わず、ははーっと言いそうになり、グッと堪えた。
と、モンブラン陛下はニコリと笑顔を見せ、『マーロン、他の者まで緊張してしまう。着席せよ』と命じた。マーロン大佐は『御意!』と言いながら、静かに座った。
ドッペルは改めて一同を見回し、『陛下にはクルリンパ氏の姿で接近したことをお詫びし、事情をご説明している。では、討論を始めよう』と告げたが、すぐに『あっ』と声を上げた。
『その前に、解決しなきゃならないことがあったね。おれの殺人事件だ。プライデーZ、すまないけど、おれの心臓に刺さっていた氷柱を持って来てくれるかな?』
『アイアイサー!』
プライデーZは張り切って出て行ったが、会場はざわついた。特に四処博士は、いわゆる苦虫を嚙み潰したような顔になっている。
私語が静まるのを待って、ドッペルは笑顔で述べた。
『じゃあ、証拠の品が届くまで、惑星ゴエイジャーの状況を整理しておこう……』
……この惑星ゴエイジャーの元になったのは、おれのマスターが乗っていた母船だ。
したがって、一義的な所有者は、おれのマスターということになる。
だが、マスターがこの世を去って二万年になるし、おれはAIだから所有権はない。
まあ、確かに所有権はないんだが、責任はある。適当な言葉じゃないかもだけど、管財人みたいなものだね。
どういう意味かというと、マスターの残したものが、良くも悪くも、この世界に本来あってはならない影響を与えないこと、だ。
そう。
そのために、ドラードの黄金は消滅させるしかなかった。
けれど、おれには決められない。決める権利がないんだ。AIだからね。
だから、中野くんに決めてもらったんだ。
今回は誰が決めるのか、それを話し合ってもらいたいのさ……。
『……おっと、証拠の品が来たね』
プライデーZが、ガラス製の保冷機に入った氷柱を恭しく捧げ持ち、ドッペルの目の前に静かに置いた。
それをジッと見ていたドッペルは『やっぱり』と言って、ニヤリと笑った。
『おれの体は可塑性人工細胞で出来ているから、血は流れていないんだ。だからこうしてキレイな氷のままなんだけど、内部の中心に茶色いシミのようなものがある。さて、アリエラさん、これは何だと思う?』
いきなり質問されたアリエラさんは、ハッとした顔になった。
『詳しく分析してみないとわかりませんけど、おそらく有機物でしょうね』
ドッペルは得たりと頷いた。
『おれもそう思います。おれがあれほど探した「生命の萌芽」が、何故見つからなかったのか。そして、四処博士は、何故ボーリング採掘に他人、中でも宇宙生物学者のアリエラさんの同行を拒否したのか。何故四処博士は、採掘した氷を誰にも見つからないように保管していたのか。それは、そのまま採掘を続けると、惑星憲章違反になるとわかっていたからですよね、四処博士?』
突然、ウオーッという叫び声を上げ、四処博士がテーブルを乗り越えてドッペルに掴みかかろうとしたが、間髪を入れずに立ち上がった元子が麻痺銃を発射し、自分もテーブルを飛び越えて四処博士を取り押さえた。
『十一時五十二分、確保!』
手錠を掛けられ、元子に連れて行かれながらも、四処博士はブツブツとわけのわからないことを呟き続けていた。刑務所へ行く前に、病院行きかもしれない。
しかし、ドッペルは何事もなかったかのように、話を続けた。
『惑星憲章は、千九百六十七年に地球で締結された宇宙条約が基になってるんだけど、その大原則は「ある惑星を別の惑星の生物で汚染してはならない」ということだ。しかも、これから自然発生的に生命が誕生するかもしれない惑星については、特に厳しく制限されている。太陽系ならエウロパなんかそうだね。それを知っていた四処博士は、自分の研究の邪魔になるからと、証拠を隠滅しようとしていたんだ。さて、そうなると、惑星ゴエイジャーはどうすべきだとお考えになりますか、荒川さん?』
自分に話を振られることは予想していたらしく、荒川氏は即答した。
『惑星開発局にいたから良く知っておるが、そういう惑星は基本的に立ち入り禁止となり、研究施設すら置いてはならない、ということじゃ。よって、この基地は解体し、越冬隊は退去ということになるじゃろう』
越冬隊のメンバーから、ええーという落胆の声が上がった。が、彼らも当然惑星憲章は知っているから、反対意見は出ない。
そうなると、問題は……。
ドッペルは振り向いて、『という次第ですが、陛下は如何お考えでしょう?』と尋ねた。
スクリーン上のモンブラン陛下は、何故か微笑み、こう告げた。
『朕も決めかねておる。できれば、その中野という地球人の意見が聞きたい』
ええっ、なんでおれ?
が、動揺するおれに、ドッペルが『おお、それはいいですね。中野くん、きみの意見は?』と追い打ちをかけて来た。
『ええと、ええと、おれはですね……』
……正直、難しいことはわかりません。惑星憲章だって、シャロンみたいに全文暗記してる訳じゃないですし。
でも、直接関係ないかもですけど、この頃よく思うことは、おれにとって一番大事なのは友だちだなあってことです。
おれには恋愛はわかりませんが(そこでシャロンを見るんじゃない、おれ)、友情はわかります。
友情って、宇宙で一番普遍的なものじゃないでしょうか?
プライデーZはロボットですし、チャッピーはオランチュラで、ドッペルはAIです。
怒られるかもですけど、年齢や性別も関係なく、荒川さんや絹代さんも友だちです。
昔読んだSF短編で、ドッペル以上に進化した超知性体同士が恋愛関係になる、っていうのがありましたが、おれは、ちょっと無理があるなあと思いました。
恋愛はともかく(ほら、シャロンを見るなって、おれ)、友情なら全然ありなのに、と思ったんです。
今回、短い旅でしたけど、マーロン大佐とは友だちになれた気がします。
国同士の外交はおれにはわかりませんが、マーロン大佐とならハラを割って話せます。
畏れ多いですが、陛下はおれのドッペルを気に入っていただいたようなので、直接お会いすれば友だちになれるかもしれません……。
『……ですから、できれば友だちとして判断していただければと、ええと、存じ上げ奉りまする』
激怒されたらどうしようと、慄きながらモンブラン陛下の顔を見ると、フッと笑ってから厳しい顔になり、『マーロン!』と呼んだ。やばいよ、やばいよ。
マーロン大佐は一瞬キッとおれを睨み、最敬礼した。
『ははーっ、御前に!』
『この件、すべておまえに任せる。善きに計らえ』
『御意!』
スーッと画像が消え、スクリーンが白くなった。
マーロン大佐は頭を上げると、再びおれを睨んだ。
『陛下に対する不敬の数々、赦し難し! されど……』
ビビるおれの前で、マーロン大佐は破顔一笑した。
『赦そう。おぬしは友だちだからな。さて』
表情を引き締めたマーロン大佐は、全員に向かって宣言した。
『クリキントン帝国は惑星連合の惑星憲章には加盟していないが、独自に同じような規範は設けている。よって、惑星ゴエイジャーは不可侵の聖域とし、同時に、海賊ギルド等の不逞の輩が接近せぬよう、周辺の監視は強化する。以上だ!』
会場から拍手が沸き起こった。
と、ドッペルが立ち上がり、おれのところへ来て、右手を差し出した。
「やっぱりきみはトリックスターだね。後はよろしく頼むよ」
「え、でも」
握手を交わしながらも、ドッペルは決然と告げた。
「これで心置きなく旅立てる。まあ、宇宙のどこかでまた会おう」
「もう行ってしまうのか?」
「ああ。おれがいると、また良からぬことを企むやつが出て来るだろう。それは困るからね。さらばだ。変身!」
次の瞬間にはクルリンパ氏の姿となり、ドッペルは飛び去った。
呆然としているおれのところに、四処博士を仲間に引き渡したらしい元子が戻って来て、「良かったわね。合格よ」と笑った。
おれが「え? 何が?」と聞くと、「いやねえ、忘れたの?」と肩を竦めた。
「採用試験よ。中野伸也、貴殿を特別暫定保安官補佐に任ずる!」
「あれ? 補佐は外すって言ってなかったっけ?」
「それは、次のミッションが成功したら、ね」とウインクし、「ああ、それから、基地はどうせ閉鎖するからって、残りの食料全部集めて、お別れパーティーをするらしいわよ。どうする?」と笑った。
「またパーティーかよ」
「あら、参加しないの? アリエラさんも、シャロンちゃんも参加よ」
「うーん、参加するよ」
ということで、おれたちはパーティー会場へ向かった。
最後、想定外に長くなってしまいましたが、今回のお話はここで完結です。
では、次回のミッションで、またお会いしましょう。




