44 あの人と雪の女王って、なんか違うよ
言いたいことはいっぱいあったが、おれはとりあえず、今日一番ガッカリしたことを告げた。
「アリエラさん格闘技やるじゃんか。ウソつき!」
元子は雪の女王の格好で、優雅に肩を竦めた。
「あら、ウソじゃないわ。合気道は格闘技じゃなくて、武道よ。しかも、黒帯らしいわ」
「うーん、ま、いっか。どっちにしても、おれが敵わないのは確かだし。それより、なんだその格好?」
元子は自慢げに、その場でクルリと回って見せた。
「いいでしょ? 荒川さんに特別に作っていただいたのよ。アメリカのアニメ映画のヒロインみたいでしょ。でも、美しいだけじゃなく、防寒・防弾・筋力強化ハイパースーツとしても最高級性能なの。どう、バトルしてみる?」
「やめとくよ。上でボカスカやってた時も、結局、気後れしちゃったし。あ、そうだ。海賊がいっぱい来たぞ。ほとんどやっつけたと思うけど」
「知ってるわ。というか、そのために来たのよ。全員逮捕するつもりで、スターポール機動部隊も呼んでるわ」
元子は振り返ると、『円周率第百位は九よ!』と告げた。
プシュと小さな音がしてエアロックの外側扉が再び開き、黒っぽい防弾スーツ姿の男たちがバラバラと入って来た。全員麻痺小銃らしきものを装備している。
元子が『扉を閉めて、エアロック内の空気圧を調整してちょうだい! 円周率第百位は九!』と告げ、調整が終わって内側の扉が開くと、機動部隊は続々と突入して行った。
その迫力に圧倒されつつも、おれは文句を言わずにはいられなかった。
「もっと早く来てくれりゃ、おれたちも死ぬような思いをせずに済んだのに」
「そこは素直に謝るわ。遅れてごめんなさい」
元子がペコリと頭を下げたため、いつの間にかその後ろに来ていた人物が見えた。
和服を着た女性だ。
え?
和服?
しかし、改めてその顔を確認して、もっと驚いた。
「絹代さん、ですか?」
「そうよ。お久しぶり。でも、元子さんを責めないで。救助が遅れた責任はわたしにあるの。ごめんなさい」
シャロンの祖母に当たる黒田絹代さんは、微笑みながらも頭を下げた。
「でも、どうして? ってか、着物で寒くないですか?」
絹代さんはフッと笑った。
「大丈夫。荒川さんから、シャロンと同じ雪女スーツを勧められたんだけど、こんなおばあちゃんが雪女じゃ怖いでしょ? だから、普通の和服にしてもらったの。でも、防寒性能はしっかりしてるから、少しも寒くないわ」
元子も笑い出し、「それはわたしのセリフですわ、大使」と言った。
大使?
おれの頭上のハテナマークが見えたかのように、絹代さんが「そうなの」と頷いた。
「わたしは、惑星ゴエイジャーの平和利用に関する星連の特命全権大使として、クリキントン帝国のモンブラン陛下と二週間前から交渉していたのよ。わたしもフィリペ・マーロンくんを教えた経験から、難しい交渉になると覚悟してはいたけど、思った以上に時間がかかったわ。でも、あなたのおかげで、なんとか交渉がまとまったのよ」
「えっ、おれのおかげ?」
「そうよ。交渉が行き詰まり、どうしようもない感じになった時、わたしの方からマーロンくんはお元気ですかと聞いたの。そしたら、陛下はとても驚かれて、どうやら秘密通信で本人に確認したみたい。その後、返事があったと教えてくれたわ。確かにわたしの教え子だということと、中野という地球人と知り合いになり、一見頼りないが、信頼に足る人物だと思ったって。それが陛下の心を動かしたのよ。色々な問題は一旦棚上げにし、共通の敵である海賊ギルドをこの惑星から排除することで合意したわ。本当に、ありがとう」
おれはどう応えればいいのかわからず、「あ、いえ、それほどでも」とモゴモゴと口ごもったのだが、横で聞いていたプライデーZが跳び上がって喜んだ。
「やったー、やったー、やったーボス! いえ、偉大なるヒーロー! われらがキャプテン! ぼくらのチームのリーダーは、ナカノ、ナカノ、ナカナカノ!」
おれは恥ずかしさで居たたまれなくなり、「もういいよ」とプライデーZを止め、絹代さんと元子に「とりあえず、中へ」と先導した。プライデーZとチャッピーも大人しくついて来ている。
おれたちが階段を上がるのと入れ違いに、逮捕された海賊たちが続々と連行されて行った。その中には、当然コブラ男もカエル男もいた。
おれが歩きながら元子に「あの二人は海賊ギルドのスパイだったんだ」と教えると、「知ってるわ」と応えた。
「それがわかったから、余計に焦ったの。海賊ギルドの動きを調べてみたら、ゴエイジャーに部隊を派遣する準備をしていたし。でも、クリキントン帝国の了解なしにわたしたちが部隊を着陸させたら、そのまま戦争に突入してしまう。クリキントン帝国の防宙圏の手前まで来て、待機していたの。交渉がまとまったのがギリギリ一昨日よ。でも、その翌日にはギルド側が最初の宇宙船を出発させた。こう見えても、本当にハラハラしたのよ」
「そうか。まあ、結果オーライで良かったよ。さあ、この大会議室にみんないるよ」
そう言いながら会議室の扉を開けたおれは、ギクリとしてしまった。
大乱闘の後だから、さぞや室内がメチャクチャになっているかと思いきや、整然とロの字型に並べられたテーブルに、元どおり全員着席して待っていた。
いや、元どおりじゃない。
司会の席に座っているのは、おれだった。
つまり、おれの姿に戻ったドッペルだ。
ドッペルはニコリと笑うと、宣言した。
「さあ、これでみんな揃ったね。では、始めよう。第一回、惑星ゴエイジャーをどうすれば委員会!」
なんなんだよ、これ~。




