43 キレイなバラは、トゲだらけかよ
あっ、アリエラさんを助けなきゃ、と焦燥に駆られたのも束の間、彼女が軽くお辞儀をするように頭を下げた瞬間、カエル男の体が宙を舞い、ビターンと床に叩きつけられ、『グエッ!』と呻いて動かなくなった。
やっぱりアリエラさんも格闘技やるじゃん、元子のウソつき!
などと言ってる場合じゃない。
カエル男の手からこぼれ落ちたブラスターに、チャッピーが急接近している。
「あっ、チャッピー、それはダメだ!」
が、間に合わず、グシャと潰されてしまった。
しかし、おれの日本語の叫びに、「心配せずともよい!」とマーロン大佐も日本語で応えた。
「武器など要らぬ! われの肉体で充分だ!」
マーロン大佐は野獣のような雄叫びを上げると、テーブルを飛び越えて海賊たちに殴りかかった。
「あたしだって負けないわ!」
シャロンも司会席から飛び出し、呆然と突っ立っていたコブラ男に飛び蹴りを喰らわせた。
それに触発されたのか、セダン准教授は何故かスリッパを片手に『かかって来い、悪党ども!』と息巻き、ヤン研究員も『わたし、カンフー、得意ね。アチョー!』とファイティングポーズを取り、トトカイナちゃんは『ボク、ぼくしんぐ、デキルヨ』とロボットのボディからパンチを繰り出し、クルリンパ氏は『あっしに近づくやつは、クチバシでつついてやるでやんす!』と啖呵を切り、ドクター三角でさえ『正当防衛なら、ぼくだって殴れるんだぞ!』と目を剥いた。
しかし、当然だが主に活躍しているのは、アリエラさん、シャロン、マーロン大佐の三人だ。中でもアリエラさんは殴ったり蹴ったりしないのに、次々に相手を薙ぎ倒している。合気道か何か知らないが、メチャクチャ強えよ。
ちなみに、ストローハット教授は座ったまま頭を抱え、『ママ~、ママ~、』と言い続けている。
ああ、それに、仲間の裏切りに打ちのめされたままの四処博士も、同じ姿で心臓に穴が開いているドッペルも、まだ立ち上がらない。
いや、もう一人、立ち上がってはいるものの、闘っていない人間がいた。
おれだ。
非力とはいえ、救助隊隊長のおれが手を拱いていていいのか?
いいや、良くない。
でも、どうやって闘えばいいんだ?
しかし、その時ドッペルが大きな声で『よーし、解凍が完了したぞ!』と叫びながら立ち上がった。
『マーロン大佐に変身!』
四処博士の姿だったドッペルは、見る間に筋骨隆々となり、イガグリの棘のような夏毛バージョンのマーロン大佐の姿になった。
マーロン大佐本人だけでさえ相当なのに、そこへもう一人加わったのだから、海賊たちはたちまち戦意を喪失し、続々と投降し始めた。
結局、出遅れてしまった、と自分でも情けなく思っていると、雪男スーツを引っ張られた。チャッピーだ。
本来平和好きなオランチュラであるチャッピーは、海賊の武器を破壊した後は大人しくしていたのだが、しきりにおれを階下へ連れて行こうとしている。
おれは、ハッと気づいた。
「そうか。プライデーZが……」
おれはチャッピーに先導され、階段を駆け下りた。
サンタスーツを着たプライデーZの背中が見えた。玄関のエアロックの手前側の扉に挟まれた状態で、機能停止しているようだ。見たところ、ブラスターの直撃は受けていない。
おれはチャッピーに「ありがとう。みんなのところへ戻っていいぞ」と先に帰した。
プライデーZのところへ行き、改めて被害を受けていないことを確認して、ホッと胸をなで下ろした。スーツの背中を捲り、倫理回路を反転させ、『円周率の小数点以下第百位は九だ!』と叫んだ。
シューッと音を立てて扉が開き、プライデーZはガクンとその場に膝をついた。
「大丈夫か、プライデーZ?」
おれの声にビクンと反応し、膝立ちのまま振り返ると、ガバッと土下座した。
「申し訳ございません! コブラ男とカエル男を連れて行く途中、玄関からなだれ込んで来た海賊に捕まり、またしてもアシモフ回路を反転されてしまいました。時代劇なら切腹ものです。いえ、いっそ、お手打ちにしてくだされ!」
本当に詫びているのか、半分ふざけているのかわからないが、おれはプライデーZを責める気はなかった。
「いいんだよ。おまえのおかげで助かったんだし。でも、よく踏ん張って玄関を開けたな。おまえはエライよ」
プライデーZはロボットのくせに、その場に泣き崩れた。
と、エアロックの人工音声が《減圧のため、扉を閉鎖します。扉から離れてください。なお、エアロック内に留まる場合には、酸素マスク等を着用してください》とアナウンスした。
「まずい。新手の海賊が来るぞ。ここを出よう」
プライデーZを立ち上がらせようと手を差し伸べたところで、シューッと音がして内扉が閉まり始めた。
「おい! ちょ待てよ!」
が、おれの命令はガン無視され、プライデーZとエアロック内に閉じ込められた。
更に《外側の扉を開きます》と一方的に宣言された。
「待てって言ってるだろ!」
が、シューッと空気が抜かれ、外側の扉が開いた。
もちろん、イエティスーツのおかげで窒息はしないが、武器もなく海賊と闘うのか?
「ボス、わたしにお任せください!」
プライデーZは立ち上がり、おれを庇うように前に出た。
が、「あれ?」と変な声を出した。
「なんとキレイな平城京! いえ、女王さま!」
え?
誰?
そこには、洋画のアニメで見るような豪華絢爛な雪の女王のドレスを着た美女が立っていた。
「待たせたのう。苦しゅうない、近う寄れ、中野伸也」
って、元子かよ~。




