42 二転三転で、わけわかんないよ
『動くんじゃねえぞ、クリキントン人!』
そう叫んだのはコブラ男だ。手には連射式光線銃を持っている。
マーロン大佐は『わかった』と頷くと、ベルトのホルスターに伸ばしかけていた腕を、その位置で止めた。
視線を逸らさず、コブラ男はカエル男に『銃を取り上げろ』と命じた。
カエル男は無言でマーロン大佐に近づくと、ホルスターからブラスターを抜き取った。
その間黙って見ていた四処博士は、フッと鼻で笑った。
『わしのニセモノの話は、外で聞かせてもらったよ。まあ、おおよそ合っておる。が、違うところもある。海賊ギルドがわしに声を掛けたのではない。わしから話を持ち掛けたのだ。実際、岩石系マントルの動きは予測しづらいが、氷のマントルは均一で数理的に扱いやすいから、わしの理論の証明に打ってつけなのだ。お宝うんぬんは、まあ、わしにとっては付け足しさ。ああ、それから円盤については、当然クリキントン帝国の探査機だと思い、邪魔される前に採掘を急ごうと焦ったよ。わしとしては学問的な調査を最優先にしたかったのだが、そうも言っておれなくなったのでな』
四処博士は、チラリとコブラ男の方を見た。
『金を出した者は、当然、口も出す。お宝はまだかと、やいのやいの急かされて嫌気がさしていた。そんなところへ、自分の姿ソックリの怪物が出て来たんだ。わしは恐怖に慄いたよ。しかも、怪物がすぐ近くまで迫って来たから、思わず近くにあった氷柱で刺してしまった。証拠を隠滅することなど考えもせず、反射的に暖房のスイッチを切って部屋を出た。他のメンバーに見つかればタダでは済まんだろうから、隠して置いた脱出用ポッドで宇宙へ逃げたのだ』
またチラリとコブラ男を見た。置き去りにしたことを、さぞかし責められたのだろう。
『慌てていたから、充分な食料や水の準備もなく、燃料も惑星から離脱する分しか積んでいなかった。仕方なく、救難信号を発信しながら宇宙を漂流したよ。一週間後に海賊ギルドの運搬船に拾われた時には、仮死状態だったらしい。もちろん記憶はないがね。意識を取り戻したのは、ギルドが運営する病院の集中治療室の中だった。だか、昨日ようやく独りで歩けるまでに回復し、今日こうして仲間と一緒に戻って来れたのだ。しかも、お宝は目の前にあるじゃないか』
そう言って、ドッペルを顎で示した。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花、どころか、無限に金の卵を産むガチョウだったとは。殺しても、死ななくて良かったよ。そこがイソップ童話との違いだな。ガチョウは海賊ギルドにくれてやるさ。その代わり、ここで研究を続けさせてもらう。わしはなんと運がいいのだろう。そう思わんか、三角?』
明らかに正気を失っている四処博士に問われて、ドクター三角は強張った愛想笑いを浮かべて頷いた。
『ご託はそれぐらいにしとけ、じいさん』
そう言ったのは、コブラ男だった。しかも、銃口を四処博士に向けている。
四処博士は苦笑し、『冗談はよせ』と銃口を横に向けようと手を伸ばしたが、銃身でその手を払い除けられた。
『冗談なんかじゃねえよ。お宝さえ見つかれば、おめえみてえなモウロクじじいに用はねえんだ。ここにいる連中と一緒に始末するだけさ。そうさなあ。狂った越冬隊隊長が、銃を乱射して隊員たちを道連れに無理心中、ってことになるだろうな。さあ、連中の方へ並べ』
顔面蒼白になった四処博士が、ヨロヨロと歩いてドッペルの横に座った。こんな時なのに、まるで双子みたいだと変におかしくなり、おれはちょっと笑ってしまった。
『何を笑ってやがる?』
やばい、コブラ男の銃口がおれに向けられた。
万事休すかと覚悟した時、ドーン、ドーンと地響きのような音が下の玄関の方から聞こえて来た。
コブラ男は先の割れた細い舌で舌打ちした。
『またおめえのペットが戻って来たらしい。おめえらを始末したら、すぐに後を追わせるから、あの世とやらで可愛がってやりな。さて、だれが最初に死にたい?』
こういう場合、最初の方が楽なのだろうか、などと、おれも少し変になりかけた時、もっと変になったやつの声が響いた。
『円周率第百位は九! 円周率第百位は九! 円周率第百位は九!』
甲高い声で叫んでいるのは、なんとプライデーZだった。
そのままギクシャクした動きで、玄関の方へ走り出した。
コブラ男が仲間に向かって叫んだ。
『おい! そいつを玄関に行かせるな! ああ、全員行くんじゃねえ! 半分は残れ!』
が、すでに遅かったらしく『ひえーっ!』だの『うげっ!』だの『くたばれ化け物!』だのという悲鳴や怒号と共に、光線銃の発射音が連続して聞こえて来た。
一瞬チャッピーが大丈夫か心配になったが、出発前に荒川氏から聞いたアーマースーツの説明で「……防寒はむろんじゃが、防水・防火・防弾・防麻痺銃・防光線銃・防ミサイル・防なんたらかんたら。まあ、とにかく大抵のことにはビクともせん」と言っていたのを思い出した。
しかし、攻撃力はないはず、と考えているところへ、チャッピーが階段を駆け上がって来る音がした。
コブラ男が『くそっ!』と言いつつ、入口に向けてマシンガンブラスターを構えた。
来た!
おれに向かって来ようとするチャッピーに、コブラ男のブラスターが切れ目なく連続して発射された。
が、チャッピーのアーマースーツは本当にビクともせず、細い脚の部分でマシンガンブラスターを叩き落とし、筋力強化されたパワーで、一気に踏み潰した。
更に残っていた海賊たちのブラスターも次々に潰して行く。
『やったぜ、チャッピー!』
歓声を上げたおれの背後から、女性の悲鳴が聞こえて来た。
振り向くと、いつの間に回り込んだのか、カエル男がアリエラさんを片腕で羽交い絞めにし、マーロン大佐から奪ったブラスターを彼女のコメカミに突き付けていた。
『そのクモの化け物を大人しくさせないと、この女死ぬぞ、ゲロゲーロ!』
初めてしゃべった、って驚いてる場合じゃない。どうする、おれ?




