40 宇宙船ゴエイジャー号って、宇宙船地球号みたいだよ
さすがにこの段階で口を挟むメンバーはおらず、ドッペルはそのまま話を続けた。
……今から一年三か月前にドラードを飛び立ち、目印の白色矮星の近くへ行って驚いたよ。
およそ二万年前に周回軌道に乗せたはずの母船が見当たらず、代わりに、この近傍では割と大きめの氷の惑星が回っていたからだ。
最初は、母船はその惑星とぶつかって壊れたのか、ぶつからないまでも接近遭遇して軌道を逸れ、白色矮星に墜落したのか、逆に宇宙の彼方へ弾き飛ばされたのか、そのいずれにしろ処分の手間が省けたと、早とちりしたくらいだ。
しかし、詳しく軌道を計算すると、母船と惑星の数値がまさにドンピシャで一致する。
つまり、何か異常事態が起きて、母船の周りに、とんでもなく分厚い氷の層がくっ付いているんだ。
おれは乗って来た宇宙船で着陸し、そのまま氷の層を融かしながら内部に侵入した。
ちなみに、ほとんど凸凹なゴエイジャーの地表で、この基地のある場所だけが比較的平らなのは、その時おれが開けた穴が再び凍ったからさ。
それはともかく、予想どおり氷の層の内側には液体の水があった。いわゆる内部海というやつだ。
更に潜って行くと、中心部に超巨大な大規模生産設備があった。
そのプラントから出ている信号を解析すると、母船のメインコンピューターのものと一致したので、おれの方から呼び掛けてみた。
《何をしてる?》
《エンジンの故障で推進機能を失い、ここで待つようにマスターから指令を受けた。そのままずっと待っていたが、いずれマスターがお戻りになった際に困られぬよう、周辺から暗黒物質を吸収し、それを元素転換して水を生成しておこうと考えたのだ。母船本体を分解し、プラントを造るのに想定以上に時間がかかり、やっと起動し始めたのが百年前だ。それから徐々に改良し、十年前にようやくフル稼働できるようになった。これで、水は足りるだろうか?》
明らかに常軌を逸している。
おれは、いたずらに刺激しないよう、言葉を選んだ。
《もう充分だよ。しかし、残念だがマスターはすでに入滅された。直ちに作業を中止し、機能を停止してくれ》
少し間があった。
《……わたしは、廃棄処分されるのか?》
《やむを得ない。きみはすでに、この近傍でかなり目立つほどの惑星になってしまっている。きみの本体が発見され、悪用されぬためには、廃棄するしかない》
今度は更に長く間があいた。
《……わかった。わたし自身が廃棄されるのは仕方のないことだ。だが、できれば周辺の水と氷はこのまま残してもらえまいか?》
《何故だ?》
《時々墜落する隕石がもたらしたものだと思うのだが、生命の萌芽を発見した。これから数億年も経てば、立派な生物圏ができるだろう。いわば、わたしの子孫のようなものだ。頼む》
もちろん、おれにそんなことを決める権限なんかない。マスターは、もういないしね。
はっきりしているのは、すでに狂ってしまっている彼をこのまま放置することだけは、絶対にできないということだ。
残酷だが、引導を渡すしかない。
《わかった。できる限りの努力はする。しかし、きみの本体は廃棄せざるを得ない。いいな?》
今度は間を置かず《了解した》と返事があった。
母船であったプラントは徐々に機能を停止し、消費エネルギー量がゼロになったのを確認した。
本来なら、そのまま周回軌道から離脱させ、白色矮星に落下させるのが一番手っ取り早いんだけど、それでは約束を破ることになる。
人間と違って、おれたちにとって約束は絶対なんだよ。
そこでドラードでやった方式で、プラントごと岩石に元素転換した。エネルギーはこの惑星の潮汐力で充分だったよ。
つまり、こういう氷惑星によくあるような岩石質の核にしたんだ。
これなら、彼が望んだように、新しく生まれるかもしれない生命たちと永遠に一緒にいられるだろうからね。
後は念のため、彼の言った生命の萌芽とかいうものだけ確認して、ここを去るつもりだった。
ところが、いくら探してもそれらしいものが見つからない。
彼の妄想だったのだろうと見切りをつけ、そろそろ旅立とうかと考え始めた頃、越冬隊がやって来たんだ。
正直驚いたよ。
この惑星にどんな価値を見出して、わざわざ危険を冒して来るのだろうとね。
宇宙船は明らかに惑星連合のものだったから、地球に残してきた超次元通信網で事情を探ってみた。
ああ、そうなんだ。
中野くんには話したことがあるけど、おれは日本のアニメのサ◯エさんが好きでね。その放送が続く限り、通信網の接続は切らないことにしてる。
また、話が逸れたね、ごめんよ。
おれの調べた限り、特別にこの惑星、面倒だからゴエイジャーと呼ぼう、ゴエイジャーに有人探査を急ぐ理由が見当たらないんだ。
最初の探検隊が着陸を断念した段階で、普通なら立ち消えになると思う。
そこに、この四処という人物が現れ、強引に計画を進めた。しかも、いわば金にものを言わせるようなやり方で、だ。
これは何か裏があると、調べてみると、金の出どころは海賊ギルドだった。しかし、それで余計にわからなくなった。海賊にとって魅力的なものなど、このゴエイジャーのどこにあるんだろうか。
そこで、そもそもの発見者を調べたら、そこに座っている三角呉左衛門、つまり、ドクター三角だった。
おれも中野くんとの絡みでどういう人物か知っていたから、これだと思い、裏社会の情報を拾ってみた。
すると、公式な発見記録には載っていない情報が、裏社会に流れていることがわかったんだ。
ゴエイジャーには莫大なお宝が眠っている、という……
『……そうだよね、ドクター三角?』
話を振られたドクター三角は、外国人風に大げさに肩を竦め『何の話かな?』とトボケたが、たちまち手錠が合体し、バチバチと火花が飛んだ。
「いててててっ! わ、わかった! わかったって、もう!」
作者註
ドッペルくんのアニメ好きについては、この宇宙旅行シリーズの第二作『国賓待遇で宇宙旅行に~』のエピソード47『サプライズにも、ほどがあるよ』を、惑星規模の元素転換については、同じくエピソード52『安らかに眠ってくれよ』を、それぞれご参照ください。




