39 朋あり遠方より来たる、ってそういう意味じゃないよ
四処博士(?)は、まさにゾンビの如くフラフラと会議室に入って来ると、ロの字に組まれたテーブルの司会席と反対側の席に座った。
『ふう。まだ解凍が充分に終わってなくてね。少し休ませてくれないか。なにしろ、いきなり心臓を刺されて機能停止してる時に暖房を切られて、文字どおりフリーズしてしまった。油断大敵だね』
こんな状況なのに、おれは、おや? と思った。
さっき遺体として運んでいた時には、感じなかった感覚。
なんて言うんだっけ?
初めて見るのに、初めてじゃないような感覚。
ああ、デジャヴだ。
呆然としてそんなことを考えていると、静まり返っていた室内に『だから言ったじゃないか!』という大きな声が響いた。
またしても、ガタンと椅子を倒して立ち上がったのは、セダン准教授だ。
『これがイドの怪物でなくて、何だと言うんだ!』
すると、『違う、思いますね』とヤン研究員が反論した。
『犯人だけじゃなく、本人も、異次元の人だた、ということ、ですね』
アリエラさんも割り込んで来た。
『氷の中の生物が、四処博士の体を操っているんだわ。感染するかもしれないから、みんな近づかないで』
更にトトカイナちゃんが『ボク、ワカラナイ』、クルリンパ氏は『あっしには関わりのねえことでやんす』、ストローハット教授は『ママ~、ママ~』と一斉にしゃべりだした。
バンとテーブルを叩き、シャロンが『静かにして!』と叫んだが、その声が一番大きかった。
みんなが騒ぐ中、ドクター三角とマーロン大佐の二人は黙って首を傾げている。
少し静かになったところで、まずドクター三角が『本当に本人なのか?』と疑問を呈した。
『本人じゃない、イドの怪物だ!』とセダン准教授。
『本人です。けど、異次元の人』とヤン氏。
『本人よ。ただ、操られてるのよ』とアリエラさん。
また騒がしくなり、またシャロンがテーブルを叩き、また少し静かになったところで、今度はマーロン大佐が発言した。
『変なことを言うようだが、われはこの男に会ったことがある気がする。先ほど、クルリンパ氏に感じたことと、ちょうど逆だ。もちろん、実際に会ったはずはないのだが』
同じ感覚の人間、いや、クリキントン人がいて、おれはホッとした。
『実はおれもなんです。さっきご遺体を、ってか、死んでなかったんでしょうが、凍った体を運んでた時には気づかなかったんですが、今しゃべってるのを見てて、なんか知ってるやつ、あ、いえ、お方だなあって気がするんです』
すると、四処博士(?)がおれの方を向き、ニヤリと笑った。わぁお、やっぱ、怖いよ。
『そんなに怯えなくていいよ。おれだよ、おれ』
な、なんだ、今度はオレオレ詐欺か?
四処博士(?)は座ったまま、うーんと伸びをした。
『まだ無理だなあ。アバターがもう少し融けたら、変身できるんだけどな。まあ、これでもしゃべれるから、説明だけ先にしようか?』
その場違いに馴れ馴れしい言い方に、おれはハッとした。
『もしかしたら、おまえ、おれのドッペルか?』
『まあ、きみ専用という訳じゃないが、簡単に言えば、そうだね。よう、久しぶり!』
見た目は八十代のじいさんなのに、しゃべり方や態度はまさにおれだ。
『ええと、ちょっと待てよ。あの時、アバターは自由に選べるけど、コミュニケーションをスムーズにするために、たまたまおれの姿にした、みたいな話だったろ? でも、今はじいさん、あ、いや、四処博士の姿だから、性格とかもそうなってるんじゃないのか?』
四処博士(?)じゃない、ドッペルの表情が険しくなり、『愚か者! わしの言うことを信じないのか!』と怒鳴った。
おれが『えっ』と仰け反ると、ドッペルはまた表情を緩めて笑った。
『なんちゃって。まあ、水は方円の器に随うとか言うけど、性格はそうでもないよ。まあ、おれの場合だけかもしれないけど、中野くんの性格が一番性に合ってるみたいでさ。ってか、そろそろみんなに説明しないと、怒られちゃうんじゃね?』
おれが振り返ると、当然だが全員おれたち二人に注目していた。
『あ、こいつはですね、その、おれなんですけど、いや、おれじゃないですけど、おれなんです』
ドッペルは『まあまあ』とおれを遮り、みんなに向かって声を張った。
『中野くんは動揺してるから、おれから自己紹介しておこう……』
……おれの本体は、地球人の言うところのAI、つまり、人工知能だよ。元々はマスターの宇宙船のナビゲーターシステムだった。おれのマスターは宇宙を股にかける旅行家でね。このメンバーの中にいるクルリンパ氏のように、いろんな惑星を巡ったよ。
あっしには関わりのねえ話でやんす、って言うかもだけどさ。ああ、後で説明するけど、クルリンパ氏の姿でクリキントン帝国へ行ったのは、実は、おれなんだ。
あ、ごめんごめん。話が脱線したね。
さて、長命種族だったマスターも寿命が尽き、亡くなった後、おれは墓守のようなことをやっていた。その場所がドラードの中央湖の底だ。
まあ、差し障りがあるだろうから詳細は説明できないけど、ドラードの莫大な黄金の消失に関わった、ということで察してくれ。中野くんと知り合ったのも、その時だ。
さて、中野くんと別れた後、どこへ行こうかと考えたが、どこへ行くにしろ、その前にやっておくべきことがあった。
廃品回収だ。
マスターが放棄した母船を回収し、処分しなければならない。また悪用されちゃ困るからね。
そうなんだ……。
『……きみたちの言う惑星ゴエイジャーとは、おれが廃棄処分すべき宇宙船なんだよ』
自分の言ったことが通じたのか確認するように、ドッペルは改めて全員の顔を見回した。
ってか、どういうことなんだ?
作者註
ドッペルくんにつきましては、この宇宙旅行シリーズの第二作『国賓待遇で宇宙旅行に~』のエピソード48『おれがおまえで、おまえがおれで、ってややこしいよ』以下をご参照ください。




