3 面接ってこんなんじゃないよ
「えっ、ゴレンジャー?」
「なわけないでしょ。ゴエイジャーよ」
うーん。おれの乏しい知識にはない惑星名だが、それより、その前の形容詞が気になる。
「宇宙のゴム管地獄って何さ?」
元子は鼻で笑った。
「極寒地獄よ。つまり、メチャメチャ寒いってこと。学校で、全球凍結地球って習ったでしょ? あの状態よ」
おれは記憶の底を探ってみた。
ダメだ、雪合戦とか雪だるましか出て来ない。
もっとも、すごく寒いらしいということだけはわかった。おれは寒いのは苦手である。
何はともあれ、この話は断った方が良さそうだ。
「悪いけど……」
しかし、みなまで言わせず、元子は両手でバーンと机を叩いた。
「お黙りなさい! あなたにはヒーローとしての責任があるのよ!」
元子の意外な反応に、おれは仰け反った。
「ええ~っ、な、なんだよ急にぃ~」
「甘ったれないでちょうだい! ゴエイジャー越冬隊の救出は、あなたの双肩に掛かっているのよ!」
辟易しながらも、おれは必死で反論した。
「ちょ待てよ。順序立てて説明してもらわないと訳わかんないよ。だいたいなんだよ、いきなり机叩いて大声出して。まるで圧迫面接じゃないか」
すると、元子はニヤリと笑った。
「あら、よくわかったわね。そうよ、これは圧迫面接よ。坊やのストレス耐性を調べるのも、新人採用担当としてのわたしの役目だから」
と、すぐに表情を険しくし、また机を叩いた。
「さあ、証拠は挙がってるのよ! 早く白状しなさい! あんたがやったんでしょ! ……あ、いけない、間違っちゃった。つい、いつもの取り調べのクセが出たわ。てへっ」
元子はペロッと舌を出した。
「てへペロじゃないよ、もう! 遊んでないで、ちゃんと説明しろよ」
「ふふん、やっとちゃんと聞く気になったようね。じゃあ、本題に入るわ……」
……惑星ゴエイジャーが発見されたのは、約三年前よ。
そうね。あなたが初めて宇宙に出て、ドラードでアタフタしてた頃ね。
まだアルキメデス航法が改良される前だから、オールプラスチック素材の宇宙船で探検隊が向かったんだけど、最初は着陸できなかったの。
惑星表面が全部凍ってて、しかもギザギザした氷だらけで、柔らかいプラスチックの胴体じゃ危険すぎたのね。
で、アルキメデス航法の改良を待って、去年、チタン合金製の宇宙船ビーグル二世号に乗った第一次越冬隊が着陸したの。
ちなみに、ずっと冬みたいな惑星だから、越冬というのはちょっと違うと思うんだけど、まあ、そういう意気込み、ってことね。
越冬隊のメンバーは、地球の世界各国から志願した科学者五人と、星連に所属する二十の惑星の中から選抜された冒険家四人の計九名よ。
現地では、比較的平らな氷原の上に基地が作られ、九人の共同生活が始まったの。
ずっと順調だったんだけど、先週の定時亜空間通信の際に、誰かが言った「……十人いる!」という謎の言葉を最後に、プッツリと連絡が途絶えたのよ。
え?
何よ、著作権って?
はあ?
人数が違うからまあいいだろうって、どういう意味?
ふーん、じゃあ、いいのね、話を続けるわよ。
あら、どこまで話したかしら?
ああ、そうね。
それで、すぐに調査団を送ろうということになったんだけど、思いがけないところから待ったが掛かったの。
坊やも、この宇宙には友好的な惑星ばかりじゃないのは知ってるでしょ。
星連に加盟してる二十の惑星だって、この間行ったバステト星とアヌビス星はやっと和平条約が締結されたけど、未だに小競り合いしてる惑星は複数あるわ。
でも、星連非加盟の惑星にはもっと好戦的なところがあって、その代表格がクリキントン帝国よ。
クリキントン帝国は五つの惑星を支配してるんだけど、その軍事力は星連と互角とも言われてる。
で、そのクリキントン帝国が、ゴエイジャーを最初に発見したのは自分たちだから、領有権があると横槍を入れて来たの。
彼らは、そもそも越冬隊を置くことを許可した覚えはないし、もし、そこで遭難などの事故や、何らかの事件があったとしたら、捜査権は自分たちにあると主張してるわ。
現在は外交交渉中ということで、互いに手出しをせずに睨み合ってる状態だけど、一方では越冬隊の生死が掛かってるから、内密に、かつ早急に、救出隊を送ろうということになったの。
で、坊や、いえ、ドラード救国の英雄にして、バステト星プリンセス誘拐事件を見事に解決した中野伸也くん、あなたに白羽の矢が立ったのよ!
どう?
ワクワクするでしょ……
でしょ、と笑顔で語り掛ける元子に、おれは思い切り首を振った。
「イヤだ! ちっともワクワクなんかしない。むしろゾクゾクする。あ、ゾクゾクと言っても、良い方の意味じゃなくて、悪い方の意味だぞ。震えが止まらないんだよ。これは寒いからじゃないぞ。怖いからだ。こんな命懸けのミッションなんて、おれはゴメンだ。あ、ゴメンと言っても謝ってる訳じゃなくて……」
と、元子は手の平を突き出し、「シャラップ!」と叫んだ。
だから、アメリカかって。
「言い訳なんか聞きたくないわ。返事は一言、ハイかイエスで答えてちょうだい」
「なんだよそれ。選択肢がおかしいよ」
「あら、そうかしら? でも、この写真を見れば、坊やの気持ちも変わると思うわ」
元子がまたパチンと指を鳴らすと、防諜シールドの半透明の膜の内側に、人の姿が映し出された。
それは、おれと同じくらいの年齢の白衣を着た外国人の女性で、亜麻色の長い髪を後ろで一纏めにして垂らし、細い黒縁の賢そうなメガネを掛けた、ちょっとエキゾチックな顔立ちの、映画女優のような美女であった。
「こ、これは……」
おれの顔色を見ながら、元子は勝ち誇ったように告げた。
「ゴエイジャー越冬隊の紅一点、宇宙生物学者のアリエラ・ダヴィードさんよ」
おれの記憶の底の底から、微かな警報音が鳴り響いて来た。
「ダヴィードって、どっかで聞いたような……」
元子はまたニヤリと笑った。
「そうよ。黒田ナオミさん、旧姓ナオミ・ダヴィードさんの姪に当たるわ。つまり、シャロンちゃんの従姉よ」
作者註
このエピソード中の「著作権うんぬん」のくだりがわからないとのご指摘をいただきましたので、少しご説明します。
越冬隊の人数を書いている時に、萩尾望都さんの名作『11人いる!』を思い出してしまい、ちょっとしたオヤジギャグをかましたつもりでした。
本筋とは関係ありませんので、どうぞ笑ってスルーしてください(^_^;)




