38 ご本人登場って、そんなのありかよ
銃口を向けられたおれは、とりあえず両手を挙げて立ち上がった。
『ああ、うう、ええと、こんなことを今更言うと怒るだろうけど、実は、おれたちも燃料がないんだ。途中、燃料タンクに隕石が当たっちゃってさ』
おれとしては、ジュピター二世号に案内した挙句、実際には飛べないとわかれば、おれだけじゃなく荒川氏も殺されると思ってのことだったが、コブラ男は『嘘を吐いてもムダだ』と嘲笑った。
『それが本当なら、とっくにクソ生意気な小娘が言ってたはずさ。さあ、グズグズ言ってねえで、サッサと案内しやがれ』
本性むき出しの乱暴な言葉遣いと共に、コブラ男が拳銃をしゃくって出口を示した、まさにその時。
『なんじゃこりゃーっ!』
そう叫んで、コブラ男はリボルバーの銃口部分を凝視した。
銃身の先端が融け、グニャリと曲がっている。
と、マーロン大佐の声が聞こえた。
『おっと、引鉄を引くなよ。銃口が塞がっているから、弾丸を撃つと銃身が破裂するぞ。われは帝国の射撃大会で金メダルを取った腕前でな。おまえにしろ、相棒にしろ、一瞬で仕留めることができる。さあ、銃をゆっくり床に置き、両手を挙げて後ろを向き、壁に手をつけ。おぬしもだ、プチプチスキとやら』
隣りを見ると、マーロン大佐が光線銃を腰だめに構えている。
『え? どうして?』
おれの間の抜けた質問に、『さっき玄関でおぬしのペットを帰す時、コッソリ床から拾って冬毛の中に隠したのだ』と笑った。
海賊二人が壁に手をつくと、マーロン大佐は『プライデーZ、二人を縛り上げろ』と命じた。
『アイアイサー、大佐!』
いやいやいや、おまえは誰の部下だよ、と思ったものの、命拾いしたことは確かだ。
武器の持ち込みに文句を言われるかと司会席のストローハット教授を見たが、『ママ~、ママ~』と言いながら天を仰いでいる。当分、放っておくしかないだろう。
海賊二人が拘束され、プライデーZによって別室へ連れて行かれるのを見ながら、おれはマーロン大佐に頭を下げた。
『お礼を言わなきゃな。助けてくれてありがとう。これで事件も解決だね』
が、『ちょっと待ってちょうだい!』とシャロンが声を荒げた。
まあ、ずいぶんコブラ男に貶されたし、名探偵登場でもなかったから、ご機嫌ナナメなのだろう。
『そうカリカリすんなよ。別に、いいじゃないか、名推理じゃなくてハードボイルドで事件を解決しても。あ、それとも、大佐が武器を持ち込んだからって、怒ってるのか?』
シャロンはバンとテーブルを叩いた。
『あんたバカなの? ちっとも事件は解決してないのよ。海賊ギルドがお金だけ出すはずがないから、息のかかった人間を送り込むことぐらい、当然想定内よ。でも、その二人は四処博士が死んで「お宝が手に入らない」って困ってたじゃない。つまり、犯人は別にいるのよ。そのカギを握っているのは、彼よ!』
おれは当然ドクター三角を指すのかと思ったが、シャロンの指は別人に向けられていた。
『はあ? あっしには関わりのねえことでやんすよ』
なんと、それはクルリンパ氏だったのだ。
すると、この鳩が豆鉄砲を食ったように目をパチクリさせている鳥人も、海賊の一味なのだろうか。
そのおれの疑問が聞こえたかのように、シャロンが『彼は海賊ではないわ』と告げた。
『海賊二人が正体を明かした時、隣りの席だった彼は怯えてトトカイナちゃんの方に身を寄せていた。それに、クルリンパ氏はあの二人のインチキ冒険家と違って、ちゃんと十二冊も旅行記を出してる。しかも、惑星連合でも大手の出版社からね。それだけに、クリキントン帝国での滞在について、まったく記述がないのは不自然よ。つまり、ここに居る彼はニセモノで、クルリンパ氏になりすましたクリキントン帝国のスパイなのよ!』
『何がなんだか、あっしにはチンプンカンプンでやんす』
当惑しているクルリンパ氏(?)に、さりげなくブラスターを向けていたマーロン大佐は、『いや、それは違う』と言いつつ、ブラスターをベルトのホルスターにしまった。
『われもこやつが怪しいと睨み、ずっと観察していたのだが、ようやく得心が行った。姿かたちも軽佻浮薄な言動もまったく同じながら、我が主君モンブラン陛下に気に入られ、皇帝宮殿への出入りが許されておった人物とは別人だ。つまり、どちらかがニセモノだ。ああ、それから、念のために言っておくが、我が帝国は間諜などという卑怯な手段は使わぬ』
しかし、シャロンは苛立たしげに首を振った。
『ホンモノかニセモノか、スパイかスパイじゃないかは本質的な問題じゃないわ。アリエラ姉さんを含め、越冬隊の人たちは「イドの怪物」という発言は信じても、「十人いる」という言葉は四処博士の妄想だと決めつけた。でも、あたしは逆だと思ってる。十人目は確かにいたのよ。でも、それが意外な相手だったから、セダン准教授と同世代の博士は、映画で観た「イドの怪物」だと思った。何故そう思ったのか? そして、博士以外のメンバーが何故気づかなかったのか? それは、十人目が九人のうちの一人とまったく同じ姿だったからよ!』
一気に全員の注目の的になったクルリンパ氏(?)は、小さく首を振りながら『濡れ衣でやんす。冤罪でやんす』と呟いている。
と、会議室の入口から声が聞こえた。
『名推理だけど、ちょっと違うね』
扉を開けて入って来た人物を見て、会議室内の全員が凍りついたように動きを止めた。
それは、四処博士本人だったのだ!
しかも、心臓の辺りにポッカリ穴が開いたままで。
ええっ、ゾンビ? ドラキュラ? フランケンシュタイン? 怖いよう~。




