37 みんな違ってみんな怪しいって、どういうことだよ
シャロンの宣言に、向う側の一番前に座っているセダン准教授が反論した。
『何をバカなことを言っとるんだ。これはそもそも殺人事件などではない。強いて言うなら、犯人は四処博士のイド、つまり意識下の欲望だ。つまり、自分で自分を殺したのだ。したがって、これは自殺だ。はあ? どんな欲望だって? 決まっておるだろう。あいつはダヴィード博士に横恋慕しておったのさ。自分の孫のような年齢の娘に。おお、なんと汚らわしい! なんと破廉恥な! オーマイガー!』
その隣りのヤン研究員が手を挙げた。
『違う、思いますね。四処先生、とても、この惑星の、緯度に拘た。おそらく、そこに次元の裂け目、ある思います。犯人いると、したら、異次元の人。だから、密室、出れたよ』
さらにその横のアリエラさんも『ちょっと、いいかしら?』と発言を求めた。
『先ほどわたしの名前が出ましたけど、四処博士からそのようなお誘いを受けたことはありませんことよ。もちろん、心の奥底のことはわかりませんけど。いずれにせよ、わたしは井戸の怪物とは、ボーリング採掘で彼が発見した生物のことだと考えています。実際、通信室にも氷のサンプルがたくさんあったようですし。もしかしたら、生物はその中に潜んでいて、彼を襲ったのかもしれませんわ』
『もっとリアルに考えようじゃないか』
そう言ったのは、ちょうどおれの真正面の末席に座っているコブラ男、マック・マックンローだった。
『無意識の欲望だの、異次元の人間だの、氷の中で生きてる化け物だの、バカバカしい。空想はもっとヒマな時にやってくれ。実際、人が死んでて、どう見ても他殺なんだから、司会の小生意気な、おっと失敬、元気のいいお嬢ちゃんが言うように、犯人がいるに決まってる。まあ、こういう場合、第一発見者を疑え、というのが定石だろうな』
と、こちら側の一番前にいるドクター三角が、ボクサーのファイティングポーズのように両腕を上げ、ワザと手錠が見えるようにした。しかし、唇を歪めて笑うだけで説明しない。
おれは仕方なく、『彼は仮出獄の身で……』と事情を解説した。
ところが、シャロンが『それはそうなんだけど』と口を挟んだ。
『彼が今、悪いことができないのはわかってるわ。だから、犯人ではあり得ない。でも、一つ腑に落ちないのは、四処博士が死んで、彼が一番ショックを受けているように見えるの。弟子とか教え子とか言っても、そんなに濃密な関係性はなかったはずよ。ああ、ごめんなさいね、越冬隊のみなさん。でも、隊長が死んだのに、ストローハット教授以外のみなさんは平気な顔をしてる。それは何故?』
それはおれも疑問だった。
越冬隊を代表するように、アリエラさんが『そうね』と頷いた。
『隠してもしょうがないから、正直に言うわ。越冬隊のメンバーで、四処博士を好きだった人はいないでしょうね。まあ、嫌いとか、ましてや、憎むとか、そこまでではないと思うけど。とにかく独断専行が多くて、他人の意見には耳を貸さない人だった。でも、殺意まで感じるメンバーはいなかったはずよ』
『そいつはどうかな』と、またコブラ男。
『少なくとも、セダン先生は憎んでたと思うぜ。恋のライバルとしてね』
ガタンと椅子を倒す勢いで、顔を真っ赤にしたセダン准教授が立ち上がった。
『ぶ、無礼にもほどがある! 確かにわしは四処が嫌いだったが、殺すほどではないし、ましてや、恋だの愛だの、邪推もいいところだ!』
コブラ男は穴だけの鼻で笑った。
『それそれ。その激昂の仕方が、何よりの証拠さ。ダヴィード女史、おっと、いけない、ダヴィード先生が生物学上の調査をしたいからと、四処先生のボーリング採掘について行きたいと申し出た時、嫉妬に狂って遺体安置所でギャースカ叫んでたくせに。まあ、四処先生は、誰にも邪魔されたくないと、あっさり断ったがね』
一旦真っ赤になった顔を真っ青にして、セダン准教授は『地球に戻ったら、絶対に訴えてやる』と言いながら、倒れた椅子を起こして座った。
修羅場のような雰囲気の中、『ボク、シャベッテイイデスカ?』という可愛らしい声がした。
見ると、アリエラさんの隣りのトトカイナちゃんだった。もちろん、音声はロボットの体の方から出ている。ちなみに、ヒレで水中に細かい振動を起こし、その信号で機械を操作するらしい。
『ボクモぼーりんぐイキタイト、イイマシタ。よんどころセンセイ、だめトイイマシタ。デモ、こっそりツイテイキマシタ。ソコデ、まっくんろーサンミマシタ。センセイ「オたからマダミツカラナイ」ト、イイマシタ。まっくんろーサン「ハヤクシロ」ト、オコリマシタ』
全員の注目を浴び、コブラ男は大げさに両手を広げ、肩を竦めた。
『なんの話かな。それこそ、無意識の欲望で、幻影を見たんじゃないか。なあ、おまえもそう思うだろ、プチプチスキ?』
相棒のカエル男はずっと黙っていたのだが、そう言われた瞬間、大きな横広の口をパックリと開け、長い舌をビヨヨヨ~ンと伸ばした。その舌先に明らかに銃とわかるものを巻き付けており、コブラ男にそれを渡したのだ。
受け取った銃を、真っ直ぐおれに向けると、コブラ男は先の割れた細い舌をチロチロと出しながら笑った。
『おっと、誰も動かないでくれよ。本当は光線銃にしたかったんだが、たとえ分解しても、ビーム発生器が出航前の検査で引っ掛かるんでね。これは地球のコルトとかいう拳銃だが、充分殺傷能力はある。プチプチスキは地球の銃器を集めるのが趣味でね』
小さな顎をしゃくって相棒のカエル男を示した。
『だが、さすがに本物は持ち込めない。そのモデルガンを、こっちに来てから改造したのさ。さあて、お宝を手に入れそこなったのは残念だが、こんな氷しかない惑星にこれ以上居るのは御免なんだ。そこの坊や、おまえたちが乗って来た宇宙船に案内してもらおう。元は海賊船らしいじゃないか。ちょうどいい。海賊ギルドメンバーのおれさまが、新しい船長になってやるぜ』
こいつら海賊だったのかよ~。




