34 ここに来て密室事件って、ありかよ
人工冬眠中のメンバーも全員起こそうということになり、見張り役としてコブラ男とカエル男だけ残し、おれたちは六人と一ロボットで通信室へ向かった。
おれの前を歩きながら、マーロン大佐がストローハット教授に何か提案している。
『……つまり、われの光線銃さえ使わせてくれれば、パスワードなどと面倒なことを言わずとも、扉を開けられると言っているのだ』
しかし、ストローハット教授は激しく首を振った。
『とんでもないことです! 研究施設内で武器を使うことは禁じられています!』
『そんなキレイごとを言っている場合か! このままでは全員……』
ドンという鈍い音がして、シャロンの正拳が大佐の背中に当たっていた。
『あ、ごめんなさい。ムシがとまってるのかと思ったら、錯覚だったみたい。さあ、急ぎましょう』
おれの時といい、シャロンはおれたちも燃料がないことをできるだけ伏せて置きたいのだろう。
まあ、ストローハット教授のさっきの様子をみれば、真相がわかった時にはパニックになるのは目に見えているが、だったら、むしろ早めに言った方がいいんじゃないか。
いや、よしとこう。シャロンには何か考えがあるのだろう。
それよりも、おれは後ろから来ている二人、いや、一人と一ロボットの会話の方が気になっていた。
『まあ、そうなの?』
『そうなんです。何度も倫理回路を反転されながらも、わたしは常に正義の味方として悪者をやっつけて来たのですよ』
どうしてプライデーZのインチキ武勇伝にアリエラさんが興味を持つのかわからないが、おかげでおれが話し掛けるタイミングがない。
と、おれの横を歩いているドクター三角が、「ふん、ぼくは悪者扱いなのか、あ、いや、今のは陰口じゃない、感想だ」と日本語で呟いている。
面倒なのか、三角形の藁帽子は脱ぎ、パーカーのフードのように背中側に倒したままだ。しかし、その下は雪ん子風の子供の着物だから、ちょっとカッコ悪い。
あ、いや、それを言うなら、雪男スーツを着て、イエティマスクを被っているおれは、他人からどう見えているんだ?
救助隊で唯一スーツを着用していないマーロン大佐に至っては、見た目は大型の雪男であるビッグフットみたいだ。
一方、シャロンの雪女スーツはオシャレだし、プライデーZのサンタスーツも違和感がない。
つまり、アリエラさんがシャロンの次に話しかけやすい相手は、サンタクロース姿のプライデーZということになる。
おれは改めて、妖怪好きの荒川氏のセンスを恨んだ。
などと思っているうちに、通信室が見えて来た。
人が近づいたことを感知したらしく、『ドアロックを解除する場合は、不朽の名作「日本勃然」の印税総額を述べよ』という人工音声が聞こえて来た。
シャロンが振り返り、『さあ、ドクター三角、出番よ』と促すと、例によって分厚い唇を歪めて笑いながら、「日本語じゃ、ダメなんだろうな」と藁帽子を被ろうとした。
ところが、人工音声が「日本語、わかります」と返事をした。
ドクター三角は鼻で笑い、「ふふん、四処博士らしい日本ファーストだな」と独り言ちた後、改めて扉に向かって答えた。
「博多産業大学の学生だった頃、耳にタコができるほど聞かされたよ。当時の金額で一億二千三百五十二万六千二百円だ。開けゴマ!」
プシュッと音がして扉が中央から左右に開き、白い霧のようなものが流れ出て来た。
シャロンが『みんな下がって! プライデーZ、分析して!』と叫びつつ、自分の電磁シールドヘルメットのスイッチを入れた。
プライデーZが小走りで白い霧に近づいたが、すぐに振り返り『心配いりませんよ』と笑った。
『普通の霧です。主成分は水で、空気中の水蒸気が凝結したものです。室内の気温が極端に低いため発生したもよう。なお、室温はおよそ摂氏マイナス五十度。みなさん、防寒スーツ、防寒マスク等を着用してください』
普通の白衣しか着ていないストローハット教授とアリエラさんにはその場に残ってもらい、おれたち四人と一ロボットで室内に入った。
『な、なんじゃ、こりゃ』
おれが思わず声を上げたのは、足の踏み場もないほど、床にゴロゴロと氷の塊が転がっていたからだ。
『水が凍った普通の氷ですよ』とプライデーZ。
『わかってるよ!』
シャロンが屈んで一個拾い上げた。
『四処博士がボーリング採掘で集めたサンプルかしら?』
マーロン大佐も『違いあるまい』と頷いている。
と、その時。
「あああーっ、四処博士! なんということだ!」
日本語で叫んだのは、もちろんドクター三角だ。
おれたちも急いで声がした方へ向かうと、通信機の操作盤の前に人が倒れており、その前でドクター三角が頭を抱えて突っ立っている。
倒れているのは高齢の男性で、ちょうど心臓の辺りに太い氷柱が突き刺さっている。
と、シャロンが大声で叫んだ。
『誰も触っちゃダメよ! 現場の状況を保持するのが、事件解決の第一歩だから!』
『いやいやいや、事件解決って、推理小説の探偵じゃあるまいし』
おれの反論はガン無視し、シャロンは腰に手を当てて宣言した。
『これは完全な密室殺人よ。必ずあたしが解決してみせるわ。おじいさま、おばあさまの名に懸けて!』
おかしいだろ~。黒田さん夫妻は関係ねえし。ってか、どうなるんだ、これ?




