31 蛇の道はコブラって、なんか違うよ
ビビるおれを押し退けるようにしてシャロンが前に出た。
『冒険家のマックンローさんね?』
黒いシルエットかと思ったら、そのまま真っ黒いコブラのような顔の人物が一歩前に出て来た。
体全体の形はほとんど地球人と変わらず二本の腕と二本の脚だが、黒いウロコに覆われた顔の横から首に掛けて薄い肉が盛り上がっており、威嚇しているコブラを連想させる。
目は赤く、鼻は小さな二個の穴、唇のない広い口から先が割れた細い舌が出たり入ったりしている。
『如何にも、わたしはマック・マックンローだが、きみは?』
『あたしは黒田シャロン。越冬隊メンバーのアリエラ・ダヴィードの従妹よ』
『ほう。ダヴィード女史の。ならば、心配だったろう。安心したまえ。女史はご無事だよ』
『ありがとう。でも、女史という言い方は良くないわ。最新の標準宇宙語からは削除されたはずよ』
『おお、これは失敬した』
素で聞き取るのはそろそろ限界なので、おれはやむなくイエティマスクを被り直した。
『それで、従姉のアリエラ以外のメンバーは無事なの?』
『ふむ。その説明は副隊長のストローハット先生がすると言っていたよ。ともかく、全員中に、ああいや、その八本脚の生き物は無理だな。そいつだけ、このエアロック内で待ってもらおうか』
ここは、おれの出番だろう。
『ちょっと待ってくれ。何故チャッピーはダメなんだよ?』
ギロリと睨まれた。カエルじゃなくても蛇に睨まれるのは怖いよ。
『きみは誰だ?』
『お、おれは、この救助隊の隊長、中野伸也だ』
『ふむ。ずいぶん若い隊長さんだな。まあ、いいが。一応、説明して置くと、その生き物はどう見ても地球のクモを連想させる。そして、副隊長のストローハット先生は、クモが大の苦手なのだ。おそらく、冷静に話せなくなって、「ママ~、ママ~」としか言えなくなる。それは困るだろう?』
『うーん、じゃあ、仕方ないか』
おれも元々はクモが苦手だから、気持ちはわかる。
と、マーロン大佐が『ちょっと、待ってくれ』と割り込んで来た。
『われが知る限り、この基地が音信不通になって三週間になる。どうしてわれらが救助隊だとわかった?』
『それもまあ、ストローハット先生が説明すると思う。それより、きみが腰にぶら下げている光線銃は、ここに置いていけ。惑星連合の研究施設内はすべて武器持ち込み禁止だ。ああ、わかってる。クリキントン人にとって、武器は下着の一部らしいな。だが、武器を持っている限り、このクモの化け物と一緒に、ここに残ってもらうしかない』
自分だって化け物じゃないか、とは思ったが、白い冬毛を通してさえマーロン大佐の顔色が変わったのがわかった。
しかし、何度も深呼吸し、自分を落ち着かせてから、何かクリキントン語らしい言葉で罵りながら、ブラスターを床に置いた。
『これでいいか?』
『ああ、協力に感謝する』
そのまま行けるかと思ったが、今度はドクター三角が『待ってくれ』と手を挙げた。
『何故副隊長が説明するんだ? 隊長の四処博士はどうした?』
『きみは?』
『ぼくは三角呉左衛門。四処博士の、まあ、弟子、のような者だ』
『ほう。四処先生は弟子は取らない主義と言っていたが。まあ、いずれにせよ、説明はすべてストローハット先生がなさる。さあ、そろそろ中に入ってくれ』
すると、プライデーZが『ちょっと、いいですかあ?』と外国人のようなイントネーションで聞いた。
さすがにウンザリしたように溜め息を吐き、マックンローは『何だ、ロボット?』と聞き返した。いちいち失礼なやつだ。
『ええと、ですね。さきほど武器はダメという話でしたが、一応、わたしの両腕はロケットパンチになっていまして。ああ、でも、火薬とかは入ってないんですが……』
マックンローはまた嫌な目つきで睨んだ。
『倫理回路は付いてんだろ?』
『それは無論です』
『だったら、黙ってついて来い』
ああ、なんてイヤなやつなんだ。
が、そうも言ってはいられない。おれはチャッピーを宥め賺してここに残るよう頼み、みんなから少し遅れて中に入った。
その背後で、シュッと音を立ててガラス扉が閉まる。
『暗いわね。非常灯じゃなく、通常の照明は点けないの?』
シャロンの質問にコブラ男は、『それもストローハット先生に聞いてくれ』と吐き捨てるように答えた。
入ってすぐの玄関ホールのような場所を通り過ぎ、正面のエレベーターには乗らず、そこから右に曲がった。
『エレベーターは故障中なのか?』
おれの質問はガン無視し、コブラ男はスタスタ前へ進んで行く。まったくもう。
突き当りの壁の前で止まると、ようやく振り返って口を開いた。
『ここが地下シェルターの入口だ。おっと、もう質問は受け付けない。わたしは案内役を命じられただけだ。説明はすべてストローハット先生にお任せしている。一応、先導するから、遅れずについて来い』
本当にヤな感じだ。まあ、確かに、こいつから説明されても腹が立つだけだろう。
コブラ男が壁のスイッチを押すと、床の一部が開き、地下へ続く階段が見えた。
『今から二十秒後に、自動的に床が閉まる。遅れるなよ』
言い捨ててサッサと階段を降り始めたので、シャロン、おれ、ドクター三角、マーロン大佐、プライデーZと続いた。
後ろの方でプライデーZが「地獄めぐりの始まり、始まり~」などと縁起でもないことを言う。
階段もオレンジ色の非常灯だけで暗く、途中何度か折り返しながら、延々と降りて行くと、本当に地獄へ向かっているような気がして来る。
と、先頭のコブラ男が立ち止まり、振り向きもせずに『着いたぞ』と言いながら扉を開けた。
パーッと明るい光が射し込み、心なしか暖かい風も吹いて来る。
その光の中から、美しい声が響いて来た。
『シャロン、逢いたかったわ!』
続いて、まるで天女のように美しい顔が見えた。
ああ、ここは地獄じゃなくて、天国だったよ~。




