29 真東に進路を取れ、って語呂が悪いよ
出発メンバーは各自防寒スーツを着用し、気閘室に入ることになった。
ちなみに、マーロン大佐の頭のサイズに合う酸素マスクがないため、シャロンと同じ電磁シールド方式のヘルメットを使ってもらうという。これのいいところは、見た目は何も被っていないように見えるところだ。
ってか、おれもそうしてくれれば良かったのに、なんで不細工なイエティマスクなんだよ。
おれの不満顔に気づいた荒川氏が「これの欠点は、自動翻訳機が装備できんことじゃ。よって、それなりの語学力があれば問題ないのじゃが……」と、最後はムニャムニャと言葉を濁した。
はいはい、わかりましたよ。おれは標準宇宙語すら満足にしゃべれないもんな。
さて、全員が中に入り、必要な減圧を終え、外部へ出るハッチドアを開けようと車輪式のハンドルを回したが、ビクともしない。
《あれ? 故障かな?》
相互通信機越しのおれの疑問にプライデーZが答える前に、マーロン大佐が《少し離れておけ》と言うや否や、ベルトのホルスターから光線銃を抜いた。
《おそらく凍っているのだ。少し温めてやる》
《あ、いや、そこまで……》
しなくてもと言う前に、ブラスターから赤いビームが放たれた。
《心配せずとも、出力は抑えてある。ただし、まだ高温だから、素手で触るなよ》
だからさあ、却って時間掛かるじゃん。
が、心配するまでもなく、アーマースーツのチャッピーが超合金に覆われた細い脚で、器用にハンドルを回した。
自動車が通れるほど広いハッチドアがバコンと音を立てて上がった途端、氷が融けた水がザッと流れ込んだが、次の瞬間には凍って氷柱になった。
《ひえーっ、やっぱり寒いんだな》
おれの馬鹿な感想に、雪女スーツのシャロンが氷のように冷たい笑顔で《当たり前じゃん。マイナス八十七度よ》と返した。氷の微笑って、シャロン・ストーンかよ。
エアロック内も同じ気温になったはずだが、体感的にはまったく寒さを感じない。
念のため、《大佐は大丈夫ですか?》と聞いてみた。
《心配いらぬ。むしろ暑いぐらいだ》
さすがに暑くはないだろうが、その声に震えはないので、平気ではあるのだろう。
《では出発します。プライデーZ、先導してくれ》
《ホーッ、ホッホッホー、良い子のみんなにプレゼントを届けよう》
サンタ姿のプライデーZに続き、シャロン、大佐、チャッピー、おれと出たが、最後のドクター三角がなかなか出て来ない。
《どうした?》
言いながらエアロック内を覗くと、三角形の藁帽子を被った雪ん子スーツのまま、両手を重ねた状態でひっくり返っている。まるで藁苞納豆だ。
《わかった、わかった、もう、文句は言わん。電撃を止めてくれ》
おれにではなく、手錠に言っているらしい。よっぽど不平不満を溢したのだろう。
と、ドクター三角の両手がパッと離れた。
《ふう。これじゃ身が持たん》
《悪口とか陰口とかを言うからだよ。さあ、行こう》
おれが手を差し伸べると、《ふん。年寄り扱い……》と鼻で笑いかけたが、《あ、いや、ありがとう》と渋々おれの手を掴んで立ち上がった。
おれたちが出ると、すでにマーロン大佐はチャッピーに乗っていた。
《おぬしのペットは、なかなか乗り心地も良い。しばし借りるぞ》
《ああ、もちろん、そうしてください。チャッピーには良く言い聞かせてますから。では、出発しましょう。プライデーZ、とりあえず真東に飛ぼう。おそらく、そんなに遠くはないはずだ》
《ホッホッホー、ラジャーキャプテン》
先行するプライデーZの後ろを飛行装置の付いた三人が飛び、チャッピーに乗ったマーロン大佐は氷原を駆けて行く。いや、氷原と呼べるほど平らではなく、車輪やキャタピラーでは到底走行できないような凸凹道を、チャッピーは細い八本の脚を器用に動かして走っている。
やがてトワイライトゾーンの端が近づき、急激に周囲が暗くなって来た。
《プライデーZ、サーチライトで照らせ》
《おお、プレゼントの出番じゃな。それ、世の中を明るくしようじゃないか。ホッホー》
プライデーZは背負っていた大きな白い袋から、テレビの撮影スタジオで使うようなでかいライトを取り出し、前方を照らした。
ほどもなく、明らかに人工物とわかる四角いシルエットが見えて来た。
《おそらくあれだ。プライデーZ、あれに照明を当てろ》
《ホッ、了解》さすがにサンタの真似に飽きて来たらしい。
が、そんなことを思っている場合ではなく、ライトに浮かび上がった建物に目を奪われた。
結構な大きさのビルに、不自然にでかい銀色の球体が嵌っている。
《え? これって、テレビ局?》
すぐにシャロンの突っ込みが入った。
《違うわよ! あの球体こそ、宇宙船ビーグル二世号よ。資料で見たわ。間違いなく、あの建物が越冬隊の基地よ》
《メチャクチャ立派なビルだな。もっと、こう、プレハブ的なものを想像してたよ》
すると、ドクター三角から通信が入った。
《あれこそまさに四処博士のポリシーだ。どんな建物にも万全の耐震耐火構造を、とね。まあ、この惑星ゴエイジャーに、地震や火事があるとは思えんが》
《まあ、丈夫なのはわかったけど、なんで通信が途絶えたんだろう?》
また突っ込みが来た。
《それを調べに行くのよ!》
《わかってるよ! プライデーZ、着陸態勢に入れ!》
《ホッホー、了解じゃ。ちゃんと煙突があれば良いがのう。では、いざ、行かん、伏魔殿へ!》
縁起でもないこと言うなよ~。




