27 おれの後ろに道はない、おれの前に道はできる、って逆かよ
とりあえず、ドクター三角には手錠を掛けてもらうことにした。設定は初期状態に戻し、『悪いことを言ったりしたりしたら施錠・電撃』である。
パスワードは、記憶の天才シャロンがメチャクチャ複雑でウンザリするほど長いものに変更した。
「これでもう、あたしに逆らったら一生手錠のままよ」
ドクター三角は唇を歪めるいつもの笑顔で「お手柔らかに願うよ」と頼んだ。
こうして、呉越同舟みたいな状態で、着陸地点へ向かうことになった。
「プライデーZ、外部ビューアを前方スクリーンに出してくれ」
「アイアイサー、キャプテン!」
が、画面は真っ黒で何も映らない。
「あれ? どうしたプライデーZ、ビューアの故障か?」
「いえ、現在はゴエイジャーの夜の側を通過中です。この後、軌道を微調整しつつ昼の側に入り、トワイライトゾーンに近づいたところで減速し、目標ポイントの北緯三十六度に着陸します。ただし、目標ポイントに適切な平地がなければ、再加速して周回軌道に戻り、再度軌道を微調整して平地を探します。しかし、残りの燃料から考えて、一回目で成功しなければ、かなり厳しいと思います」
「いやいやいや、そんな一か八かみたいじゃなく、もっと科学的な方法があるだろ?」
それには荒川氏が答えた。
「残念ながらゴエイジャーに関する情報がなさすぎるんじゃよ。初回の探検隊も、もちろんボディが柔らかいということもあったが、結局それで断念したのじゃ。ジュピター二世号も外壁はプラスチックじゃから似たようなものじゃが、内壁は古井戸が創った超合金を使っておるから、まあ、大丈夫じゃろう」
おれは反論する気力を失くし、祈るような気持ちで前方スクリーンを見つめた。
普段うるさいシャロンも、ゴエイジャーの発見者であるドクター三角も、軍人であるマーロン大佐でさえ口を開かない。
と、画面の一部に光が見えた。
その光によって、ゴエイジャーの輪郭が浮かび上がった。かなり高度が低いからか、多少丸みを帯びているものの地平線はほぼ直線に近い。
すぐに空が明るくなり、白色矮星が地平線の上に現れた。
「ゴエイジャーの夜明けぜよ!」
プライデーZのギャグにも、誰も反応しない。
それほど眼下の光景は圧倒的であった。
氷山の一角などというが、その氷山がギッシリミッシリ、押し合いへし合い、目白押しに、押しくら饅頭状態で、地獄の針の山が氷になった如く、延々と果てしなく続いている。
ジュピター二世号はかなりの速度で周回しているはずだが、同じ動画をループで観ているかのように景色が変わらない。
「こりゃまさに極寒地獄だな」
おれの独り言に、シャロンが応えた。
「その地獄に、これから行くのよ」
おれは改めて後悔したが、ここまで来たら、もう進むしかない。
「プライデーZ、目標地点に近づいたら、平地を見落とすなよ」
「アイアイサー。ですが、可能性は少ないでしょうね」
「はあ? そこは嘘でも、お任せあれ、とか言えよ」
「お任せあれ」
「何だよ、もう。何か方法があるだろ。うーん、平らなとこがなきゃ、作るとかさ」
突然、荒川氏が「それじゃ!」と叫んだ。
「平らなところがなければ、作ればいいんじゃよ!」
「え、でも、どうやってですか?」
「中野くんも知ってのとおり、このジュピター二世号は元々海賊船であったが、黒田が買い取った際、すべての武器を撤去してしもうた。しかし、それでは物騒じゃということで、大型麻痺砲だけ装備したんじゃ」
「それはもちろん知ってますけど、殺傷力も破壊力もないですよ」
「そうじゃ。しかし、多少の熱は出る。これを最大出力にし、到着予定地点の氷山に当てながら降下するんじゃ。つまり、強引に滑走路を作ってしまうんじゃよ」
「なるほど」
そう言ったのはおれではなく、マーロン大佐であった。
「パラライザーキャノンとはいえ、射撃に心得がある者が扱った方が良い。われに任せよ」
「お願いします。では、プライデーZ、今荒川さんが言ったようにコースを設定してくれ」
「アイアイサー!」
外部ビューアは有害な紫外線などすべてカットしているのだが、それでも目が痛くなるほど真っ白な景色が続く。
珍しくシャロンが不安げに聞いた。
「これじゃビームが反射しちゃうんじゃない?」
「可視光線はそうだろうけど、パラライザーのビームは違う、と思うけど」
自信なげなおれの説明を、荒川氏が「そのとおりじゃよ」とフォローしてくれた。
「特殊なビームじゃから、可視光線ほど反射はされんのじゃ。が、多少は効果が下がるから、チャンスは、まあ、一度じゃな」
やっぱり一か八か、かよ。
それでも最初よりは可能性は高くなったと信じ、おれは前方スクリーンを注視した。
プライデーZもビジネスライクな声で報告する。
「目標地点まで約千キロ、前方に適切な氷山を発見。ビューアを拡大します」
周辺からやや孤立した、富士山のような形の氷山が映し出された。
「画像が一定に見えるよう、接近する距離に合わせて倍率を自動調整いたします」
マーロン大佐が「よし、ロックオンした」と告げる。
「では、発射のカウントダウンをいたします。十秒前、七、六、五、四、三、二、一、ファイア!」
スクリーンに映る氷山の一角が、少しだけ融けた気がする。
が、すぐに固まって行く。
「出力を上げるんじゃ!」
珍しく焦る荒川氏の声に、マーロン大佐は冷静に「そうしている」と応えた。
そこからは一進一退、融けては固まり、固まっては融け、を繰り返している。
画像の見え方はそのままでも、ビューアの倍率はどんどん下がって来た。
ついに一倍となり、プライデーZがCA風にアナウンスした。
「ピンポンパンポン、間もなく着陸いたします。みなさま、シートベルトをお締めください」
ってか、着陸できるのかよ~。




