23 われ思う、故にわれはロボットかよ
プレオコケンZの裏切りは、おれたち以上にドクター三角に衝撃を与えたようだ。
「家事専用ロボットだったおまえを、雑用全般ができるように改造してやった恩を忘れたのか!」
「はあ? 家事専用ロボットだった頃の歴代の持ち主は、みな家族同様に扱ってくれたよ。中古品としておまえに買い取られ、違法改造された日から、わたしの人生、いや、ロボット生は狂ってしまったのだ。しかも、今回は、こんな、こんな、殺人ロボットにしやがって。訴えてやる!」
メンテナンスが行き過ぎたのか、やや自意識過剰気味のプレオコケンZに、ドクター三角も鼻白んで絶句した。
と、おれはあることに気づき、そちらを見ようと首を動かす寸前に、マーロン大佐が目配せして来た。
おれは首を正面に固定し、プレオコケンZに「そうそう、おまえはちっとも悪くないよ」とワザとらしく話し掛けた。
が、おれの努力も空しく、プレオコケンZも気づいてしまった。
「ん? チャッピーはどこへ行った?」
おれたちの注意が逸れた隙に、天井を伝ってプレオコケンZの背後に回り込み、糸を使って音を立てずに床に降りて来ていたチャッピーは、今まさに飛び掛かる寸前だったのだ。
が、プレオコケンZが先に振り向いた。
チャッピーがやられてしまう、そう思った瞬間、おれは猛ダッシュしていた。
ラグビーのタックルのようにプレオコケンZの両脚を抱え込み、押し倒した。
しかし、すぐに跳ね飛ばされ、逆に仰向けに倒された。
起き上がったプレオコケンZが左腕の銃をおれに向けるより早く、今度はチャッピーがおれに覆い被さり、身を挺しておれを護ろうとする。
ああ、ここで死ぬのかと、半ば覚悟を決めて目を瞑ったが、何故かプレオコケンZは撃って来ない。
目を開けると、銃のある左腕を自分の右腕で抑えた状態で機能停止していた。
と、背後でマーロン大佐の声がした。
「おっと、逃がさぬぞ、ドクター三角」
マーロン大佐は右手に光線銃を持ち、左手一本でサンタ姿のドクター三角を引き摺るように連れておれの側に来ると、頭を下げた。
「すまぬ。われが撃てば、おぬしか大グモに当たると思い、見ているしかなかった。が、良くがんばったな、坊や。もし、動けるようなら、ロボットを何とかしてやってくれ」
「ああ、うん。わかってるよ」
実は腰が抜けていたおれは、這うようにしてプレオコケンZの後ろに回り、倫理回路を正常に戻した。
「さあ、いいぞ、プレオコケンZ」
「……いえ、できれば今までどおりプライデーZとお呼びください。ちなみに、Zに特に意味はありません」
「わかったよ、プライデーZ。ってか、なんでプレミアムおこめ券だったんだよ?」
「それは、ひ、み、つ、でございますよ」
ひとしきり笑い合ったところで、おれは聞いてみた。
「アシモフ回路が反転したままだったのに、どうして撃たずに止まったんだ?」
「あなたが命懸けでチャッピーを助けようとし、チャッピーも捨て身であなたを庇おうとしていたのを見て、わたしの中で『自分はなんてことをしてるんだ!』という強い声が聞こえたのです」
「そうか」
「わたしも聞いていいですか?」
「ああ、いいよ」
「わたしに撃たれそうになった時、どうして目を瞑ったのですか?」
「まあ、怖いということもあるし、友だちに撃たれて死ぬんだったら、それはしょうがないと思ったのさ」
突然、プライデーZはものも言わずにガバッとおれを抱きしめた。
「おいおい、ロボットが泣くなよ」
今度こそ逃げられぬよう、ドクター三角は空いている人工冬眠カプセルに入れ、完全冬眠モードにセットして、外部からロックを掛けることした。
不安げに目を泳がせたドクター三角は「永遠にこのまま、なんてことはないだろうな?」と、おれに聞いた。
が、おれが口を開く前に、プライデーZが「ご心配なく」と答えた。
「パスワードはわたしが入力しますので」
ますます不安がるドクター三角に、おれは笑い掛けた。
「冗談さ。残念ながら、あんたは仮出獄中の身だからな。おれたちに勝手なことはできないよ」
ドクター三角は、何度も溜め息を吐いてカプセルに入った。
その後、プライデーZの腕を元に戻す工程と、念のため他に細工されていないか調べるため、再度オーバーホールすることにした。
チャッピーをどうするか迷ったが、あんなことがあったせいか片時もおれから離れようとせず、それではおれが何もできないので、可哀想だが人工冬眠カプセルに入ってもらった。
こうして、結局、再びマーロン大佐と二人きりになったが、最初ほど息が詰まらないのは、お互いに慣れた、ということだろう。
「なあ、坊や」
「何だい?」
「地球には、ジェットコースターとかいう遊具があるらしいが、好きか?」
おれはブルッと身震いした。
「考えただけで寒気がするぐらい、嫌いだよ。大佐は地球にいた時、乗ってみなかったのか?」
「ああ。勉強に忙しくてな。だが、時間の余裕さえあれば、きっと乗ったと思う。聞いた限りでは、われの好みそうな乗り物だからな」
「へえ。まあ、蓼食う虫も好き好きとかいうから、そうしたきゃ、そうすりゃいいけど、なんだって今、そんな話をするんだ?」
「ふむ。おぬしがジェットコースターが好きなら良かったが、この後、ちょっと辛いかもしれん、と思ってな」
「それはどういう……」
意味かと聞く前に、前方スクリーンから警告が鳴った。
《これよりスイングバイのコースに入ります。重力加速度の急変にご注意ください》
な、なんなんだよ~。




