20 犯人はおまえだ、っておれも言いたいよ
シャロンはコマンドルームのホワイトボードに、意外にも達筆な文字で越冬隊のメンバーを書いた。
【科学者五名】
四処内造:惑星物理学者。隊長。
アリエラ・ダヴィード:宇宙生物学者。唯一の女性隊員。
イエロー・ストローハット:異星人類学者。北欧出身。
フォード・セダン:星間歴史学者。北米出身。
モーエー・ヤン:超時空物理学者。アジア出身。
【冒険家四名】
マック・マックンロー:クロマメン星人。爬虫類系。
エッグ・プチプチスキ:カズノコシア星人。両生類系。
コレモ・トトカイナ:カマボッコ星人。魚類系。
ヤー・クルリンパ:ダテマッキー星人。鳥類系。
マーカーを置くと、シャロンは振り向いておれたち三人を見回した。まるで先生気取りだ。くそっ。
「いい? 一人ずつ解説するわね。質問は後から聞くわ……」
……まず、隊長であり、今回の越冬隊の言い出しっぺでもある四処博士。
彼が胡散臭い人物なのは、さっき荒川のおじさまが言ったとおりよ。自信があった日本勃然がケチョンケチョンに貶されて、相当に捻くれちゃったみたい。
次に、あたしの従姉のアリエラだけど、まあ、あたしに引けを取らない天才で美人ってことだけわかってればいいわ。
何よ、文句ある?
で、科学者の三人目はストローハット教授ね。彼は詩人としても知られる人格者よ。でも、マザコンとしても有名で、二言目には「ママ~、ママ~」と言うのが口癖らしいわ。
四人目のセダン准教授は頑固者という評判よ。年齢は四処博士の次に高齢なのに、性格が災いして教授に上がれないそうなの。
科学者最後のヤン氏は研究職、つまりポスドク(=ポストドクター)よ。若い天才らしいけど変わり者で、学会の異端児と呼ばれてるわ。
どう、わかった?
何よその顔。あんた現役の大学生でしょ。これぐらい覚えなさいよ。
じゃあ、続けるわよ。
冒険家の一人目は、マックンロー氏ね。爬虫類系のクロマメン人で、冷酷と言われてるわ。顔の見た目は黒コブラみたいよ。
二人目は、とても珍しい両生類系のカズノコシア人のプチプチスキ氏。星連加盟の二十の惑星のうち、支配的知的生物が両生類なのはここだけよ。性格は、そうね、ヌルッとしてとらえどころがない感じ。顔の見た目はアマガエルっぽいわ。
三人目は、これも比較的珍しい魚類系のカマボッコ人のトトカイナちゃん。メチャメチャ若いけど、水中の冒険では断トツの成果を上げてるわ。でも、男女の性別は成長してから決まるらしくて、この子だけ、ちゃん付けでごめんなさい。
冒険家の最後は鳥人クルリンパ氏。ダテマッキー人は全体に冒険家が多いんだけど、特にクルリンパ氏は遠くの辺境惑星まで行ってるの。あだ名は、宇宙の渡り鳥、ですって。
さて、これで犯人がわかったらいいんだけど、さすがのあたしも現場を見ないと何とも言えないわ……。
「……ああ、そうそう。元子お姉さまから聞いたかもしれないけど、最後の定時亜空間通信の際に『……十人いる!』という謎の言葉を残した人物については、標準宇宙語でしゃべっているのは確かだけど、ノイズが多すぎてまだ誰か特定できていないそうよ。ただし、声質は男性のようね。以上で、何か質問はある?」
いきなり大量の情報を浴びせられて、おれは質問どころではなかった。
荒川氏も口をへの字にして考え込んでいる。
と、マーロン大佐が小さく手を挙げた。
「質問ではないが、良いか?」
「もちろんよ。どうぞ」
「うむ。実は、クルリンパという男には面識がある。如何にも軽佻浮薄なお調子者だが、何故かわが主君モンブラン陛下に気に入られ、皇帝宮殿への出入りが許されておった」
「へえ、そうなの。それは知らなかったわ。彼の書いた旅行記は十二冊全部読んだけど、クリキントン帝国に関する記述はなかったはず。うーん、怪しいわね」
おれも何かしゃべらないと、延々と二人で話しそうだ。
「あのさ、わかってる九人のことも何だけど、十人目って誰だよ?」
おれの言葉で荒川氏が、ポンと自分の膝を叩いた。
「密航者じゃな!」
言下に「有り得ないわ」とシャロンが否定した。
「星連宇宙局肝煎りの越冬隊に、部外者が入り込むなんて無理よ、荒川のおじさま」
「そうじゃの」
簡単に言い負かされてショボンとする荒川氏を見て、おれの方が腹が立った。
「そんなのわかんないだろ。実際、ジュピター二世号にはドクター三角が密航してたじゃんか」
「はあ? クジラとメダカを比較するようなものよ。いえ、メダカ以下のミジンコぐらいね」
「ミジンコを馬鹿にするな! 金魚の生餌には抜群なんだぞ!」
荒川氏が苦笑しつつ「これこれ」と割って入った。
「趣旨がズレておる。まあ、密航はないとして、後考えられるのは何じゃろのう?」
おれは「あっ」と声を上げた。
「先住民じゃないですか? オランチュラみたいな」
シャロンがバンとミーティングテーブルを叩いた。
「馬鹿じゃないの。全球凍結って意味、わかってる?」
「ああ、わかってるさ! でもな、雪だるまみたいな生き物が居るかもだろ?」
「いたとしても微生物だし、そもそも雪だるまは生き物じゃないわ」
睨み合うおれたちと困り果てた荒川氏。
と、マーロン大佐がまた手を挙げた。
「生命がいるかどうかはともかく、まったくの全球凍結ではないのではないか?」
荒川氏はホッとした顔になり、「そうなんじゃ」と頷いた。
「表面上は全球凍結に見えるが、太陽系のエウロパ同様、内部には液体の水があるかもしれんのじゃ。地球とは岩石と水の比率が違うし、何より潮汐力に差があるでの」
ああ、もう、知らない言葉ばかりで、頭がパンクするよ~。




