19 日本勃然って、いつの時代の映画だよ
その後、荒川氏から何度も謝罪されたが、同じ被害者だからと逆に慰めた。
それにつけても、赦し難いのは元子である。
「あんなヤツをメンバーに入れれば、こうなることはわかりそうなもんじゃないか」
「何か別の目的があるんじゃないの?」
よく聞きもせずに反論して来たのは、もちろんシャロンである。
非常事態発生ということで、一旦全員起こしてコマンドルームでミーティングすることになったのだ。
ただし、オーバーホール中だったプライデーZの組み立ては間に合わず、チャッピーもそのまま寝かせて置くことになったので、集まったのは地球人三人とクリキントン人一人の計四人である。
ちょうど寝入り端だったらしいシャロンは、殊の外ご機嫌斜めだった。
寝てる途中で起こされるなんて、おれはしょっちゅうだぞと思ったが、これ以上シャロンの機嫌を拗らせると厄介なので黙っていた。
「うむ。そのことなんじゃが……」
言いにくそうに荒川氏が口を開いたので、おれはハッとした。
「やはり、何か裏の事情があるんですか?」
荒川氏がマーロン大佐の顔色を窺いながら、「もう言った方がいいかのう」と自分に問いかけるように呟くと、むしろマーロン大佐の方が身を乗り出した。
「われもチームの一員だ。隠し立てはやめてくれ。それに、直接帝国の利害に関わること以外なら、守秘義務は堅持するぞ」
そう言われて余計に迷っている荒川氏に、シャロンが「もしかして、四処博士のことじゃない?」と尋ねた。
荒川氏は驚いた表情になり、それで図星を指されたのがミエミエになったため、諦めたように吐息した。
「そうじゃの。シャロンちゃんは、当然越冬隊の名簿を記憶しておるんじゃな。ならば、この際、越冬隊のそもそもの始まりから話さずばなるまいの……」
……中野くんは、『日本勃然』という映画は知っとるかね?
そうか、まあ、知らんじゃろうな。おおよそ五十年前の映画じゃからの。
当時は相当にヒットして、その後、テレビドラマにもなったが、実は、原作となったのは、とある学術論文だったんじゃ。
それは、マントル対流により日本が勃然と隆起して、富士山がエベレストより高くなるという、今考えればトンデモ論文であったが、それを書いたのが、当時新進気鋭の地球物理学者であった四処博士じゃった。
ちなみに、現在は地球に限定せず、惑星物理学という学問分野になっておるがの。
さて、知ってのとおり富士山はちっとも高くならず、まあ、数センチは高くなったらしいが、日本勃然は眉唾ものの学説として非難され、数年後、四処博士はその当時教授職を務めていた首都圏の国立大学から去って行った。
それ以来、ほとんど世捨て人のように暮らしておったらしいが、三年前にゴエイジャーが発見された際、是非とも越冬隊を送るべきじゃと、なんと星連の宇宙局に直談判したんじゃ。
しかも、既にそのための財団を立ち上げておった。
財団の資金は、『日本勃然』の映画やドラマの著作権料を地道にコツコツと運用して殖やしたという。
その時にもっと調べておけば良かったんじゃろうが、最初の探検隊が着陸できずに戻って来た後だったために、宇宙局はこの案に飛び付いたんじゃ。
タイミングよくアルキメデス航法の改良もあって、プラスチックのボディーに拘らなくても良くなったしの。
計画そのものは立派なもので、チタン合金製の宇宙船の設計図も、クルーメンバーの選抜基準も、申し分なかったよ。
ただし、四処博士本人を同乗させるのが絶対条件じゃという。御年八十二歳という年齢じゃが、現在の宇宙旅行は高齢者にも優しいでの。
まあ大丈夫じゃろうということで、残る四人の科学者と四人の冒険家が選抜された。これは宇宙局が実施した厳正なものじゃから、問題はなかろうと思う。
問題は、やはり四処博士本人じゃ。
越冬隊と連絡が取れなくなり、宇宙局が手がかりを捜すうち、どうも博士の財団のバックに、反社会勢力がいるのではないかとの疑いが出て来たんじゃ。
ハッキリ言えば、海賊ギルドじゃよ。
それで調べてみると、博士が地方へ移住した際、臨時講師をしていた博多産業大学の教え子の中に三角呉左衛門の名前があったんじゃ。
三角呉左衛門ことドクター三角こそゴエイジャーの第一発見者であり、知っての通り海賊ギルドの一員であった男じゃ。
星連が発見者として登録した際にはもちろん本名で、肩書も博多産業大学名誉教授となっていたらしい。ドクター三角が海賊の一味だとハッキリしたのは、その後だったんじゃ。
そこで、今回の救出ミッションが決まった際に、仮出獄中のドクター三角の同行が決まったんじゃよ。
ただし、本人がどの程度関与しているのかは判然としない。
おそらく海賊ギルドとしては、自分たちが直接拠点にするにはリスクが大きいと考え、ある程度基地などが出来上がってから奪う算段じゃったんじゃろう。
わしの方も意図的にドクター三角に近づき、それとなく探ってみたが、今回の事件そのものは海賊ギルドにとっても想定外じゃったかもしれぬ……。
「……じゃから、現地に到着して海賊ギルドの関与の有無が判明するまでは、ドクター三角には協力してもらわねばならんのじゃよ」
「ちょっと違うと思うわ、荒川のおじさま」
異論が出る話とは思えず、荒川氏だけでなく、おれもマーロン大佐も驚いてシャロンを見た。
「あたしの従姉のアリエラ以外の科学者三人と、冒険者四人については、もう一度調べ直した方がいいと思うの。犯人は、きっとその中にいるわ」
名探偵かよ~。




