18 孫悟空なら、お釈迦さまの手から飛び出せないのかよ
ドクター三角に麻痺銃の銃口を突き付けられながらも、おれは妙なことに気づいた。
「あれは、ええと、あれはどうしたんだよ。あの孫悟空の金隠し」
「緊箍児だ! まあ、喩えだがな。実は、小柳捜査官にあの手錠を掛けられた時、万一外れなくなった場合はどうするんだと尋ねたら、心配いらないと答えた。それはつまり、誰か外せる人間が同行する、という意味だろう。そこでぼくは、それは誰なのか考えた。おまえはそもそも何も知らなかった。小娘やアホロボットには、そんな気配がない。そうなると、可能性は一人しかいない……」
……そこでぼくは、この荒川に接近したのだ。
年齢も同じだし、発明好きだし、昭和のアイドル好きだし、音楽はジャズよりハードロックが好きだし、紅茶よりコーヒーが好きだし、饅頭は漉し餡より粒餡が好きだし、まあまあ、趣味嗜好全般に似かよっていたから、すぐに意気投合したよ。
ある程度親しくなってから、実は自分は金属アレルギーで、手錠のせいで痒くて堪らないんだと愚痴をこぼした。
荒川は同情しつつも、もちろん最初は外してくれなかった。
しかし、何度も繰り返すうち、自分が見ている時ならいいだろうと、パスワードを入力して外してくれるようになった。
さあ、後は簡単なことだ。
少しずつ少しずつ、外した状態に慣れさせ、徐々に油断して来た荒川が目を離した隙に、パラライザーの部品を調達したのさ。
そこへお誂え向きに、今回の班編成による監視業務の話が決まった。
ああ、天はぼくを見放さなかったと、感謝したよ。
しかも、うるさい小娘とアホロボットの次という、願ってもない順番だ。
充分に余裕を持って最後の組み立てを完了し、荒川が妙な拳法を使う暇を与えず、一発で痺れさせて、縛り上げた。
しかし、ぼくの復讐の本命は荒川じゃない……。
「……だから、こうして待っていたのさ」
ドクター三角の話を聞きながら、おれは何とか逃げる方法がないか、コッソリ周囲を見回していたのだが、武器になりそうなものは何もない。今回はカインとアベルもいないし、チャッピーは冬眠状態で、思わぬ助けが来る可能性もない。
おそらく殺されることはないだろうが、パラライザーで撃たれ、抵抗できなくなったところで、多少殴られるぐらいは覚悟しなければならないだろう。
「ふん。やれるものなら、やってみるがいい。おまえの仮出獄が取り消され、刑期がうんと延びるだろうけどな。さあ、撃ってみろよ!」
強がって言ったものの、おれの声は震えていた。
ドクター三角はニヤニヤ笑いながら、首を振った。
「そんなに怖がらなくていい。盗みはすれど非道はせず、が宇宙海賊ロビンソン一味のモットーでね。ホンのちょっとしたイタズラだよ。ぼくの代わりに、これを嵌めてもらいたいのさ」
そう言いながら、ドクター三角はパラライザーを持っていない方の手で、ポケットから手錠を取り出した。
「もちろん、パスワードはもう変えてある。しかも、手錠の設定を逆にしたのさ。『悪いことをしようとすると手錠が掛かって電撃が走る』の逆は何だと思う?」
「うーん、良いことをしないと手錠が掛かって電撃が走る、かな?」
「違う! それじゃ同じじゃないか。逆だよ」
「じゃあ、良いことをしても悪いことをしても、手錠が掛からず電撃も走らない」
「アホか! 手錠の意味がないだろう。答えを言うから、よく聞け。『悪いことをする時だけ手錠が外れ、電撃も走らない』だ」
「ええと、待ってくれ。つまり、どうなるんだ?」
ドクター三角は溜め息を吐いた。
「いいか、簡単に言うぞ。おまえが悪いことをしなければ、ずっと手錠が掛かっていて、その間中ずーっと電撃が走り続けるのさ。つまり、悪いことをし続けるしかない。だから、おまえは今日からぼくの手下になるしかないんだ。なかなか粋な復讐だろ? さて、手を出してもらおうか。言って置くが、素直に従わなければパラライザーを一発お見舞いして、気絶させてから手錠を掛けるだけだぞ。さあ、手を出せ!」
何が非道をせずだ、と文句を言いたかったが、今回こそはおれの運も尽きたらしい。
「待て。撃つな。あの痺れは二度とゴメンだよ。ああ、そうだ。いっそ、おまえの手下になると約束するから、手錠なしにしてもらえないかな?」
「信用できるか。さあ、両手を前に出せ」
信用できないのはどっちだよ、と思いつつ、おれはできるだけゆっくり手を出した。
「小僧、早くしろ!」
「いや、手を出す必要はないぞ、坊や」
突然の声に驚いて入口の方を見ると、なんとあのイガグリ、いや、マーロン大佐が立っていた。しかも、その手には光線銃らしきものを構えている。その銃口は真っ直ぐドクター三角に向けられていた。
「言って置くが、われは、クリキントン帝国主催の射撃大会で金メダルを獲った腕前だ。おぬしが撃つ前に、その腕ごと吹っ飛ぶぞ。パラライザーを静かに床に置け。手錠もな」
顔面蒼白でパラライザーと手錠を床に置き、ドクター三角は両手を挙げた。
「ど、どうして……」
「ふん。どうして目が醒めたかって? われらは軍人として、機械というものは故障するものだと教育されている。よって、人工冬眠カプセルのアラームとは別に、自分用のアラームを設定していたのさ。時間が来ると腕時計から針が出て、チクチク刺す仕組みだよ。まあ、そんなことはどうでもいい。これからゴエイジャーに着くまで、おぬしは独房入りだ。おっと、それでいいかな、船長?」
「い、いいとも~」
おれはその場にヘナヘナとへたり込んだ。




