17 寝ては夢、起きてはうつつ幻の、って落語かよ
ほとんど一日がかりでコース設定が完了した。
後はもうジュピター二世号のメインコンピューターに任せるしかない。
ゴエイジャーに到達するまでクルー全員が起きているのは酸素と食料の無駄だから、交替で監視業務に当たり、残りのクルーは人工冬眠カプセルに入ることになった。
「問題は、どういうワッチ体制にするか、だな。船長としてのおれの考えは、一人ずつ順番に……」
「そんなのダメに決まってるじゃない!」
頭ごなしに反対して来たのは、もちろんシャロンである。
「あたしや荒川のおじさま以外のメンバーを、一人にできると思う?」
一人にできないメンバーにおれ自身が含まれいるのは心外だが、確かにドクター三角やマーロン大佐を一人にはできない。
「それじゃ、逆に一人ずつ寝て……」
「バカじゃないの? それじゃ、全員起きてるのと大して変わらないわ」
「だったら、どうすりゃいいんだよ!」
と、意外な人物から提案があった。
マーロン大佐である。
「ワッチの基本は確かに一人ずつだ。しかし、われが言うのもおかしな話だが、この顔ぶれで一人は難しかろう。コンビ、もしくはトリオで良いのではないか?」
突然、薄気味の悪い笑い声が響き、ギョッとしてそちらを見ると、ドクター三角だった。
「おいおい、みんな何をおかしなことを言ってるんだ? 寝なくてもいいメンバーがいるじゃないか。ぼくらはみんな寝て、そいつにワッチさせりゃあいいだけの話さ」
言われておれもハッとした。あまりにも人間的な振る舞いに、いつの間にかプライデーZも眠る前提で考えてしまった。
ところが……。
「ひどい! ひどすぎます! それはロボット虐待ですよ。労基署に訴えてやる!」
いつものように、荒川氏が「まあまあ」と割って入った。
「この際、分解修理してもいいじゃろうし、そこまではせんとしても、定期メンテナンスは必要じゃろう。消費電力の節約にもなるしの」
プライデーZが「はいっ」と手を挙げた。
「賛成ですっ! あ、でも、分解はちょっと怖いわ、怖いわ、怖い、わ~」
ドクター三角はフンと鼻で笑った。
「相変わらずのアホロボットだな。まあ、それならそれでいいが、逆に、クモの化け物は、ずっと寝てりゃいいだろ?」
自分のことを言われたとわかるのか、チャッピーはヒシとおれに抱きついて来た。
飼い主として、おれが反論する前に、今度はシャロンが割り込んだ。
「あら、チャッピーちゃんは変温動物だから、そもそも基礎代謝が低いのよ。食事だって、野菜ジュースを舐める程度だし。それに、感受性が豊かで異変に逸早く気づくから、あんたよりよっぽど優秀よ」
「何だと、小娘!」
またしても荒川氏が「まあまあ」と仲裁に入ったが、それに被せるようにマーロン大佐が「キリがないな」と苦笑した。
「見ていてわかったが、そのギョロ目の男は老師と組み、お嬢はロボットと組み、坊やは大グモと組むしかあるまい。で、われは、そうだな、戦力的に坊やとクモのチームが弱いから、そこに入ろう。どうだ、これでバランスが取れたろう?」
「なんだよ、それ。船長はおれだぞ。だいたいだな……」
だが、おれの反論は誰も聞いておらず、すでに三つのチームが確定したように動き始めていた。
あれよあれよという間に、シャロンとプライデーZが第一班、荒川氏とドクター三角が第二班、おれたちが第三班となった。
「あのなあ」
文句を言おうとするおれを、マーロン大佐が「良いではないか」と宥めた。
「先はまだ長いのだ。今後、おぬしの活躍する場もあろうさ」
「だと、いいけど。まあ、今度こそゆっくり寝て、英気とやらを養うよ」
……おれの耳元で目覚まし時計が鳴っている。寝ぼけ眼で止めようとするのだが、手が届かない。
「今度こそ騙されないぞ! おまえは目覚まし時計じゃなくて、非常放送だろ!」
自分の声で目が醒めた。
鳴っているのは、非常放送ではなく、人工冬眠カプセルのアラーム音だった。
「なんだよもう、って怒るのも変か。これが普通だもんな」
独り言をいいつつ、今回は普段用の船内服に着替え、指令室に向かった。
「おはようございます、荒川さん。引き継ぎ事項は……」
ありますかと聞く前に、当の荒川氏が猿ぐつわを咬まされ、後ろ手に縛られているのが目に飛び込んで来た。おれの顔を見て、必死で首を振っている。
「ああ、おはようさん、小僧。ゆっくり眠れたかね?」
そう言いながらおれに麻痺銃らしきものの銃口を向けているのは、もちろんドクター三角だった。
「ど、どういうことだよ?」
ドクター三角は唇を歪めて笑った。
「決まってるだろう、復讐さ。ああ、パラライザーをどうやって持ち込んだか知りたいようだな。残念ながら持ち込みはできないよ。だが、船内の色んな箇所から部品を少しずつチョロマカして、自分で組み立てたのさ。はあ? チョロマカすってのは、くすねる、って意味で、はあ、それもわからんのか。つまり、盗んだ、ということさ」
「ドロボー! ドロボー! ドロボー!」
おれはワザと大きな声で叫んだが、どこからも反応がない。
「ふふん。いくら騒いでもムダなことさ、小僧。第一班の小娘はコールドスリープ中、アホのロボットはオーバーホールでバラバラに分解中、第三班のイガグリ大佐と化け物グモはアラームを止めたよ。さあ、覚悟してもらおうか?」
なんの覚悟だよ~。




