15 不時着するなら、南国が良かったよ
おれはダメもとでプライデーZに聞いてみた。
「どっか不時着できそうな惑星はないのか?」
「近傍にあるのは小惑星か隕石で、とても着陸はできません」
「じゃあ、一番近い惑星は?」
「あっ、自由浮遊惑星が一個ありました! とても大きいです! 距離およそ一光日! しかも、こちらに向かって来ています!」
「よし、そこを目指そう!」
「それはダメだ!」
おれは誰が反対しているのかわからず、キョロキョロしてしまった。なんと、ドクター三角だった。
「プラネターなんかに着陸したら、どこへ連れて行かれるかわからんぞ。それに、無事着陸できても、どうやって離陸するつもりだ」
「それは燃料タンクを修理して……」
そこに荒川氏が割り込んだ。
「中野くん、その前に、まず燃料タンクを切り離すんじゃ」
「ええっ、何故ですか?」
今度はシャロンの声が飛んで来た。
「決まってるじゃない! 爆発するからよ! プライデーZ、燃料タンクを切り離して!」
「アイアイマム!」
ガコンという音が響き、どうやら燃料タンクが外れたようだ。
追い討ちを掛けるように、ドクター三角が皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「こういうことだよ。つまり、燃料タンクを修理することなんかできないのさ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」
今度はプライデーZが割り込んで来た。
「簡単なことだよ、ワトソンくん。予備の燃料タンクがあるところへ行けばいい」
「どこだよ!」
マーロン大佐が笑い出した。
「まあ、落ち着け。幸い、ごちゃごちゃ言ってる間に暗黒小惑星帯を抜けたようだ。メインエンジンを使わず、予備燃料で補助エンジンを少しずつ吹かしながら進めばいい」
「だから、どこへだよ!」
おれとチャッピー以外の全員が声を揃えた。
「惑星ゴエイジャーへ!」
「な、なんだよ、寄って集って。それはそうだろうけど、遠いだろ。どれくらいだ、プライデーZ?」
「補助エンジンのみでは、およそ一カ月ほどかかります」
それを聞いて、おれを責め立てていた四人も黙り込んだ。
プライデーZが「だったら、この前のように瞬間……」と言いかけたところで、シャロンが後ろからガンと蹴りを入れた。
「何か解決する方法があるはずよ」
瞬間移動装着(仮)を隠したい気持ちはわかるが、あまり不自然だと、かえってマーロン大佐に怪しまれるぞ。
それに、あの方法では不確実すぎるだろう。気がついたら別の銀河系ということさえあり得る。
と、荒川氏が「おお、そうじゃ!」と声を上げた。
「スイングバイじゃ。近づいて来ておるというプラネターに向かって飛び、その近くを掠めるようにしてスピードアップするんじゃ。プライデーZ、計算してみてくれぬか?」
「ホンニョゴニョン。およそ一週間に短縮されます」
当初の予定よりだいぶ遅れるが、この際やむを得ないだろう。少しは船長らしことをしようと、おれはみんなに指示を出した。
「よし、それで行こう。みんな、その線で作業を進めてくれ」
すぐにシャロンから「あんたもよ!」と叱咤された。
「わかってるよ!」
みんなで手分けして他に被害や故障がないか調べた後、スイングバイするプラネターの軌道を荒川氏とドクター三角がもう一度綿密に計算し、それに合わせてシャロンとプライデーZが航路とタイミングの設定に集中した。
手持無沙汰になったおれは、纏わりつくチャッピーを宥めながら、仕方なくもう一人暇そうなマーロン大佐に話し掛けた。
「なあ、ゴエイジャーって、あんたらにとって、どういう理由あり物件なんだい?」
マーロン大佐はゴリラめいた鼻の穴を膨らませた。
「ふふん、気になるか? まあ、軍事機密ではないから、話してもよかろう……」
……われらクリキントン人はおぬしら惑星連合より早く宇宙に進出し、母星以外に四つの惑星を支配下に置いてクリキントン帝国となった。
その後も領土拡張を試みたのだが、この領域を含む宇宙のサルガッソー海などに行く手を阻まれ、モタモタしているうちに惑星連合や他の宇宙帝国が成立してしまった。
よって、この辺りに安全な拠点を置くのは、わが民族の悲願なのだ。
そんな中、わが帝国の天文学者が、この領域では珍しく安定した円軌道を廻っている惑星を発見した。
それが、おぬしたちの言うゴエイジャーだ。われらは惑星四一二六号と登録しているが、まあ、わかりやすくゴエイジャーと呼んでおこう。
ゴエイジャーが円軌道なのは、当然、恒星を廻っているからだ。小さな白色矮星で、元は別々にこの辺りを彷徨っていたのだろうが、偶然に出会って奇跡的に安定した軌道に落ち着いたらしい。
ゴエイジャーの際立った特徴は、周辺の暗黒惑星などにくらべ反射率が異常に高いことだ。
これが何を意味するか?
そうだ。おぬしも聞いただろうが、惑星表面すべてを厚い氷に覆われているからだ。
そういう特徴や大きさなども含め、おぬしたちの住む太陽系のエウロパとかいう衛星によく似ている。まあ、木星に当たる位置に白色矮星があるから、こちらは衛星ではなく惑星になるが。
唯一の違いは惑星表面の滑らかさだが、この領域の隕石の多さを考えれば、ゴエイジャーが凸凹なのは仕方あるまい。
ちなみに、水が如何に貴重な資源かは言うまでもない。われらのような有機系の生命は、水なしでは生きられぬからな。
要するに、この領域内では、安定した軌道で大量の水がある唯一の惑星なのだ。わが帝国が拠点を置くならここしかない。
これは、わが帝国の核心的利益である。
そこに、断りもなく、惑星連合が越冬隊を送り込み、あまつさえ基地を造ったのだ……
「……このような暴挙が許されると思うか!」
昂奮したマーロン大佐が、ダーンと床を踏み鳴らした。
すると、「ちょっと待ちなさいよ!」と声がした。あちゃ~、シャロンだ。




