12 情けは人の為ならず、ってどういう意味だよ
ここは船長として、おれが対応せざるを得ないだろう。
おれは猶も甘えて来るチャッピーに「向こうに行っておいで」と告げ、イガグリのようなマーロン大佐に向き直った。
「ああ、うう、おほん。おれがこの遊覧船ジュピター二世号の責任者の中野伸也だ。遊覧船だからそもそも武器など搭載していないし、まあ、防御用に大型麻痺砲はあるけど、これには殺傷能力はない。また、きみたちの領域に入ったのは、襲って来た宇宙海賊の追跡を躱すためだ。ワザとじゃない」
遊覧船は嘘だが、後はほぼ事実である。
が、先方のイガグリ大佐は騙されなかった。
《嘘を吐くな。たった今スキャンしたが、貴船の装備はとても遊覧船とは思えない。中にはわれらの知らぬような高度な機械もあるようだ。いや、そもそも貴船の出現の仕方がおかしい。当方の厳重な防衛ラインに引っ掛からず、こんなところに突然現れたことを、どう説明するつもりだ?》
まずいぞ。おそらく、これこそがこいつの本当の狙いだ。
超光速航行が当たり前の時代になったとはいえ、まだ瞬間移動技術は一般化されていない。
軍事大国であるクリキントン帝国にとって、これがいかに魅力的な技術かは言うまでもないだろう。
下手をするとこのまま船ごと拿捕され、おれたち全員みな殺しにされかねないぞ。
そんなおれの葛藤も知らず、プライデーZが「それは簡単なことだよ、ワトソンくん」と言い出したので、おれは焦った。
ところが、それを遮るように、なんとドクター三角がしゃべり出したのだ。
「それはぼくが説明しよう。この船は乗客の安全を図るため遮蔽装置が備えてある。ああ、わかってるさ。それだけならきみたちの監視の網を潜り抜けるのは無理だ。当然、反遮蔽障壁が設定されているだろうからね。だが、お立合い、このぼくは元宇宙海賊なんだ。この近くにある宇宙のサルガッソー海の裏も表も知ってる。きみたちの知らない闇ルートもね」
さすがに元海賊。ハッタリのかまし方が堂に入っている。
が、敵もさる者、イガグリゴリラ。
《あり得ぬ。確かに宇宙のサルガッソー海にはわれらも手を焼いているが、それだけに常時パトロールを欠かしていない。もし、それをすり抜けたというのなら、管轄するわれら第七艦隊の責任問題だ》
あちゃー、藪蛇だったか。
どうしようかと荒川氏の顔を見たが、おれ以上に落ち込んでいる。
と、シャロンが「話していいかしら?」と割り込んで来た。
「いいけど、変なこと言うなよ」
こっそりウインクしつつ答えたが、その意味がわかったかどうか。
シャロンはフンと鼻で笑うと、よそ行きの笑顔を作ってマーロン大佐に話し掛けた。
「ホンの一分で済むから、個人通話に切り替えてくださらない?」
何を訳のわからないことを言ってるんだと思ったが、何故かマーロン大佐はジッとシャロンの顔を見て《ふむ。いいだろう》と告げ、手元の操作盤らしきものに触った。
すると、マーロン大佐の背景が戦艦内部の画像から、どこかの惑星(おそらく彼の母星だろう)の風景の画像に変わった。
《これは大佐以上の階級しか使えぬ特別回線だ。帝国の参謀本部でさえ傍受できぬ。しかし、時間はキッカリ一分間しか与えぬぞ。それ以上は聞く耳持たぬ。さあ、言え》
シャロンは物怖じしない笑顔で答えた。
「一分あれば充分よ。クリキントン帝国のマーロンと聞いて、あたしの記憶に何かが引っ掛かったの。あなた、二十年前に交換留学生で地球に来たフィリペ・マーロンさんじゃない?」
《如何にもそうだ。が、おぬしはまだ二十歳前に見える。どうしてわれのことを知っているのだ?》
「おばあさまの政経塾の卒業生名簿は、一応全員記憶してるのよ」
《やはりそうか。どうも顔に見覚えがあると思ったが、絹代先生の孫であったか。先生は息災かね?》
「ええ。今は星連の難民担当高等弁務官をやってるわ」
《なるほど。絹代先生らしいな。それまでは強さのみを追い求めていたわれに、優しさも大事なのだと教えてくれたよ……》
と、イガグリのようだったマーロン大佐の逆立った体毛がシナシナと柔らかく垂れた。
「ねえ、マーロンさん。お互いに隠し立ては止めましょうよ。あなたも察していると思うけど、あたしたちはゴエイジャー越冬隊の救出に向かってるの。人命救助が目的で、他意はないわ。この際だから、あなたも同行したらいいんじゃない?」
おいおい勝手なことを言うなと思ったが、なんとマーロン大佐は笑い出したのだ。
《血は争えぬものだな。おぬしの言い様は、若かりし頃の絹代先生に生き写しだ。よかろう。惑星ゴエイジャーについては、われらも早急に探検隊を送らねばならんと思っていたところだ。合同調査という名目で、上層部の許可を取ればいいだろう。が、これだけは言って置く。万が一にでもわれらに敵対する素振りが見えたら、たとえ絹代先生の孫であろうと、その場で射殺する。良いな?》
再び逆立った体毛を見ておれは震え上がったが、シャロンはニッコリ笑った。
「その覚悟はあるわ。おばあさまの名に懸けて」
カッコよすぎるだろ、船長はおれだぞと思ったが、正直、ホッとした。
が、実際にジュピター二世号に乗り込んで来たマーロン大佐を見て、おれは後悔した。
身長約二メートル、体重おそらく二百キロ以上、しかもイガグリの如きトゲトゲの体毛付き。
こんなヤツと一緒に旅するのはイヤだあ~。




