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10 カッコ仮って、何なんだよ

 ……おれの耳元みみもとで、大音量だいおんりょう目覚めざまし時計が何個もっている。寝ぼけまなこめようとするのだが、手が届かない。

「わかったよ! もう起きるよ!」

 自分の声で目がめた。

 大音量でひびいているのは、もちろん目覚まし時計ではなく、非常放送だった。

《緊急事態発生! 緊急事態発生! 敵の攻撃に備え、総員そういんただちに戦闘配備につけ! り返す! 緊急事態発生……》

「やっぱりやられたのかよ! きっとあいつのせいだな!」

 先が長い旅になるからと、早めに人工冬眠コールドスリープカプセルに入ったことを後悔したが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 おれは非常用の宇宙服を着用し、操縦席コックピットのある司令室コマンドルームへ向かった。

 通路は赤い非常灯ひじょうとう明滅めいめつし、非常放送もずっと続いている。コマンドルームの扉は非常時は手動しゅどうでしか開かないため、おれは取っ手をつかみ、全身の力をめて横に引いた。

 が、ロックは掛かっておらず、スルッと開いた。

「どうした! ドクター三角みすみの破壊工作か!」

 そのドクター三角がおれの真正面にいた。青い顔をしている。

 いや、その左右に並んだ荒川氏もシャロンも青い顔をしている。

 さすがに顔色までは変わらないプライデーZは、いつものはしゃぎぶりがうそのように悄然しょうぜんとしている。

「え? どうした? 何があった?」

 そのおれの問いに、コマンドルーム前方のスクリーンから返事があった。

《ふん。ようやく船長キャプテンのお出ましか。では、そいつに回答してもらおう。今すぐ裏切り者のドクター三角こと、三角呉左衛門くれざえもんを引き渡せ。さもなくば、おまえたちの宇宙船ごと宇宙の藻屑もくずに、いや、星屑スターダストにしてやる。さあ、どうする?》

 状況がわからず、おれは改めてスクリーンを見た。

 そこには、デパートなどで昔よく見かけたような、何故なぜか外人っぽい顔の男のマネキン人形が立っていた。服は着せられておらず、ツルンとした薄桃色のはだが丸見えになっている。

「はあ? そんなこと言うなら、ちゃんと本人が顔を見せろよ。わりにはだかの人形を置いとくって、失礼だろ」

 驚いたことに、そのマネキンの口がパクパクと動いた。

《そうか。おまえにはまだ説明していなかったな。わたしは海賊ギルドの大幹部だいかんぶ、プラスチックボーイだ。宇宙旅行が開始された当初、少しでも比重を軽くするために、全身をプラスチック製の人工臓器に変えたのだ。おかげで不老不死となったわたしは、宇宙無双むそうの存在となった。まあ、そんな自慢話じまんばなしはいいだろう。言っておくが、おまえの船はわが方の戦艦バトルシップ三十せきに上下前後左右を囲まれ、光子魚雷砲でロックオンされている。さあ、今すぐ決断しろ!》

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなことすぐには決められないよ。うーん、せめて、十分じゅっぷんくれ」

一分いっぷんだ。六十、五十九、五十八……》

「くそっ。プライデーZ、音声を切れ」

「アイアイサー、キャプテン」

 心なしか元気のないプライデーZの返事と共に、カウントする声が消えた。

 パクパクと口を動かすマネキンを後目しりめに、おれはドクター三角をにらみつけた。

「おれの考えは決まっている。おれたちには、おまえを助ける恩も義理もない。あのマネキン野郎に身柄みがらを引き渡すぞ。いいな?」

 ドクター三角は青ざめた顔のまま、皮肉なみを浮かべた。

「ぼくを差し出したとして、あの冷血なプラスチックボーイが、きみたちを無事に逃がすと思うのか?」

「うーん、じゃあ、逆におまえを人質にして……」

 ドクター三角は鼻で笑った。

「ふん。同じことさ。ぼくを渡せというのは、スターポールにどこまで秘密をしゃべったか、拷問ごうもんでもして聞き出そうとしてるんだろうが、渡さなければ、後腐あとくされがないよう、皆殺みなごろしにされるだけさ」

「だったら、どうすりゃいいんだよ! 原因はおまえじゃないか!」

 他人事ひとごとのような態度に腹を立て、思わず大きな声が出た。

 と、プライデーZが意外に冷静な声で「あと三十秒」と告げた。

 おれはあせりといかりを極力抑おさえつつ、荒川氏に「何か方法ないですか?」と聞いてから、ハッと思いついた。

「そうだ! 今こそ遮蔽しゃへい装着を使いましょうよ!」

 が、荒川氏は悲しげに首を振った。

「無駄じゃよ。たとえ見えなくなっても、物理的にはその場所にいるんじゃから、遮蔽した途端とたん、集中砲火ほうかを浴びて一巻いっかんの終わりじゃ」

「後二十秒」とプライデーZ。

「ええっ、ど、どうすりゃいいんですか?」

「まあ、瞬間移動でもせんことにはのう……」

「後十五秒」

 すると、ずっと黙っていたシャロンが「だったら、あるわ」と言ったのだ。

「えっ、ホントか?」

「ええ。ただし、ボタンの説明文には瞬間移動装着(仮)って書いてあるけど」

「八、七、六……」

「それでいい! 押してくれ!」

 シャロンはクイズ番組で使うような赤くて丸いボタンに手を掛けた。

「いい?」とシャロン。

「いいとも!」おれ。

「三、二、一」プライデーZ。

 一瞬、目の前が暗くなり、ああ、はかない人生だったなあ、などと思ったが、どうも死んだような気がしない。

「あれ? おれ、生きてる?」

 途中から目をつぶっていたらしいドクター三角と荒川氏もお互いを見て、「おお」「ああ」などと言い合っている。

「やったぜ! おまえにしては上出来じょうできだよ、シャロン!」

 ところが、シャロンは浮かない顔で、いつものおれのようなことを言った。

「イヤな予感がするわ。プライデーZ、周辺を探査たんさしてちょうだい」

「アイアイマム。ですが、調べるまでもありません。たった今ナビゲーションシステムから通知が来ました。周囲一億光年には、宇宙船はおろか、恒星も惑星も遊星もありません。つまり、われわれは宇宙の超空洞ボイドのド真ん中にいます。最寄もよりの銀河系まで、最高速度の時速一光年で進んでも、到着まで約一万二千年かかります」

 ど、どうすりゃいいんだよ~。

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― 新着の感想 ―
総攻撃を受けて死ぬことは回避できたものの、生きているだけになったということなのでしょうか(;''∀'') もう一回ボタンを押せば、元に戻るとか? でも一億光年という途方もない場所を往復するということは…
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