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ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


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7 まーぜーてー?

 「ライフォート様眼鏡が素敵です。ライフォート様笑顔素敵です。ライフォート様渋カッコいい。ライフォート様とにかく素晴らしい……」


 早速推しを讃えはじめた奈々美さんの横に、そっとパナマ草茶を置いて、わたしはミケ子を抱えてベッドに横になった。

 ミケ子が枕の方へ移動したので、わたしはいつものように手足を上げて、ぷるぷる振って身体をほぐす。

 獣人の変装を解いたアシャールさんが、ライ様像の横にランプを移動させて、当然のようにわたしの隣のベッドに横になった。


 わたしはそのままゆっくりと呼吸を意識する。すってーはいてー。すってーはいてー。

 この簡単な瞑想はここ数十年寝る前に続けている入眠習慣だった。眠れなくても、脳を休ませるようにしとけば最低限なんとかなるだろうと。

 すってーはいてー。すってーはいてー。

 いつもやる気に満ちて働いてくれているスキルちゃん達にも、休息は必要に違いない。

 すってーはいてー。すってーはいてー。のリズムに合わせて、スキルちゃん達を意識する。そしてスキルちゃん達がお湯に浸かってリラックスしている様子をイメージする。すってーはいてー。

 良いなーわたしもお風呂入りたい。

 それから推しパティスリーのケーキやパフェをイメージしてスキルちゃん達をおもてなしする。明日もよろしくねーと声かければ、任せてーと返ってくる。

 スキルちゃん達ときゃっきゃうふふしながら良い感じにうとうとしてきたところで、「まーぜーてー」と知らない子がやってきた。


 だれ???


 本能的にスキルちゃんではないことはわかった。

 脳内のイメージスキルちゃん達は、円い身体に手足のついた無邪気な妖精さんといった風情だが、突然現れたこの子は、とにかくキラッキラである。形のない透明なキラキラの光に小さな手足があるようなイメージだ。


 「だれー?」とスキルちゃんが可愛いらしく首を傾げて聞くと、キラキラのそれは、両手を上に広げて「アシャールの魔力でーす」と言った。


 なにゆえ?!

 わたしはとっさに目を開けて、アシャールさんを見た。


 「どうしましたか?」

 気配を感じてアシャールさんも目を開け、わたしを見ると、小さな掠れ声で囁いた。

 わたしも、奈々美さんの邪魔にならないように声を落とす。


 「魔力を不法侵入させてこないで下さい」

 「不法侵入? いえ、聖婚の呪文を唱えた際にお互いの魔力の一部を交換しているので、不法侵入ではありませんよ。愛の証です。フェイ族にとって伴侶の決め手は魔力の相性。お互いの魔力を受け入れるのは究極の愛の行為です」

 「そんなドラマチックな瞬間どこにもなかったし、愛(魔力)が枯渇してんのになにやってるの」

 「ええですから、確実に成功するよう逃げる隙も与えず素早く狩りを行いました。私も必死だったのですよ」


 薄暗がりの中、アシャールさんの神々しい美貌がわたしを見つめている。


 ……あそこにこういうポーズでミケ子を添えると、すごく映えなんじゃないだろうか。脳内でいろんなミケ子を添えてみる。わたしのミケ子姫の魅力を引き出す男……許す。


 でもここで一応言っておいた方が良いかしら。


 「アシャールさん、わたしもう子供が産めるような身体でもないのに、なんで結婚なんて無茶をしたんですか」

 「おや、そうなんですか? でもわたしの目的は香子であって、繁殖は二の次ですので」


 繁殖……言い方ぁ……。


 「二の次で良いんですか、繁殖……」

 「ええ、私の姉はどうせお前は結婚できないだろうから、その分自分が子供を産むと、初婚合わせて三人の男性と結婚して、五人の子供をもうけました。だから私は繁殖するもしないも自由なのです」

 「良いお姉様ですね」

 「ええ、主と香子の次に、唯一頭が上がらない人ですね」

 「そこは、わたしより上にしてあげましょうよ」

 「いいえ、香子は唯一無二の伴侶ですので……」


 もう少し色々聞きたい気がしたが、半分くらいねむくなってきて、目を開けてるのがしんどくなってくる。

 わたしはゆっくりと重たくなった瞼を閉じて、もう一度スキルちゃん達の様子を見に行った。


 アシャールさんの魔力はスキルちゃん達と一緒に温泉リゾートしてた。

 仲良くなったのか……。まあわたしの中でケンカされても困るしな。それにわたしの存在に気づいて、しゅしゅしゅとそばに来てぴたっと寄り添う。あざとい魔力やわ。


 それはそうと素材収集スキルの方は抽出やら合成やら色々派生スキルが増えて幼稚園の先生みたいになってるの。全部合わせて素材利用スキルとかにならん? なんか良い感じに。

 派生スキル達は集まって、うーんと力むとぽぽぽぽと統合されて、〈活用スキル〉としてじゃーんと生まれ変わった。

 アシャールさんの魔力ちゃんがパチパチ拍手する。


 つまりわたしのスキルは〈素材収集〉〈活用〉〈鑑定〉〈空間収納〉の四つに整理された。

 おや、もしかして。鑑定と活用も統合できん? だって二つとも、わたしが生きる活動をするための必須スキル……と思ったら、しゅるっとなぜか〈空間収納〉も含めた三つのスキルが統合されて、〈生活魔法〉スキルになった。


 そうやってスキルの整理をして、きっと魔力的なものを消費したのだろう。わたしはそのままぐっすり眠った。

 アシャールさんがそっとわたしのベッドに手を伸ばしては、手を握ろうかと戸惑いながら、片手をふらふらさせていたことなど、全然気づかずに。




 翌朝、奈々美さんは無事〈治癒〉と〈浄化〉のスキルを得ていた。


 「すごいわ奈々美さん」

 「努力の対価が実感できるって良いですね! 少し横になって良いですか?」

 「どうぞどうぞ」


 ずっと座っていたのだから腰も足も辛かろう。わたしは自分が使っていた枕を奈々美さんの足の下におく。

 アシャールさんは長い金髪を三つ編みにしているところだ。


 「わたしパナマ草の在庫を補充したいのだけど……」

 「では近くにいい感じの森がありますから、午前中はそちらに行ってみますか?」


 まるで散歩に行くような気軽さで言われたので、わたしは頷いた。


 「待ってください、私も行きます。一人にしないで下さい」


 奈々美さんが切実に訴えながら、ベッドから起きあがろうとする。

 確かに異世界で一人おいて行かれたら、不安だもんね。朝食後に皆んなで森にいって、帰りにそのまま冒険者登録に行くことにした。



 ところでこの世界は自動車もなければ電車もない。異世界モノのお約束通り移動は徒歩か馬車。

 近くの森と言っても町の囲いの外……それなりに距離がありましてね。


 そんなところを若い子や長身の男性と一緒に、マイカー通勤デスクワークで週末はぐったりしてる初老のおばさんが歩けばどうなると思います?


 当然早々に根をあげますよ。心臓きっつぅ。てきなぁ。ばくばく言ってる。あ、「てきない」はうちのお国言葉、つまり方言よ。しんどい、つらい的な意味。

 レベルが上がって、パナマ草茶も飲んでるのに、わたしのステータスはなぜか体力値を置き去りにして魔力と処理能力値ばかりがあがってんのよ?


 「大丈夫ですか? 香子(かおりこ)さん。少し休みましょう」

 「ご……ごめんねぇ……体力無くて……」


 ふーふー息切れしてるわたしを気遣って、奈々美さんは覚えたての治癒スキルを使ってくれた。すう、身体が楽になる。


 「すみません、妻の身体を慮るのは、夫である私の役目でしたね。しかし治癒は一時しのぎでしかありません。根本的な問題の解決を考えましょう」

 「根本的と言っても、体力が今すぐつくわけじゃないし、どうすれば……」


 わたしの問いに、アシャールさんはまるで世界の真理でも語るような様子でおっしゃった。


 「ええ、もちろん体力は無理につけようとずれば、逆に身体を壊したり疲労が蓄積されたりと健康上良くありません。これは今後無理せず頑張っていきましょう。今解決すべき問題は、香子の歩幅が私達に比べてかなり狭いことですね」


 わたしはスンとした。


 「あの……香子さんは私達より背も小さいし、仕方ないですよ……」


 背は小さくても、小柄ではないわたしである。

 しかも事実とはいえ、言外に足が短いと言われれば、スンとなってもしょうがないじゃありませんこと?


 「というわけで、こちらを使いましょう」


 やめて。

 なんとアシャールさんは、空間収納からリアカーを取り出した。


 「どうぞ、お乗り下さい」


 やめて。それ人を乗せるものじゃないでしょ。

 わたしがリアカーを見つめて固まっていると、アシャールさんはすっと距離を詰めてきた。


 「ああ、この高さだと、香子が跨いで乗るのは無理そうですね」


 おのれ、ここでも足が短いと? どうせわたしの足は短いですよ。自分が長いおみ足をお持ちだから、きっと足の短い人間の気持ちなど、これっぽっちもわからないに違いない。

 などと考えるいる間に、背中からアシャールさんの手が回される。


 「どうぞ、ミケ子さんを落とさないよう、こうやって抱えていて下さい」


 神々しい美青年(六百歳)に後ろから手を回され、ドキドキするどころか、肩にかけてたミケ子が入った鞄を持たれて、別の意味でドキドキした。

 この鞄、上部の中心をスナップボタンひとつで閉じてあるだけなので、驚いたミケ子が鞄の中から飛び出したら大変だ。わたしは慌ててミケ子(鞄)を抱え直した。


 「ふぇっ?」


 突然身体を持ち上げられて、当然わたしは声を上げるわけでして。

 わたしは人生初のお姫様抱っこをされて……、リアカーに乗せられた。

 やめて。

 まさかやっぱりこれで運ばれるの?


 超美形の兄さんが引いてるリアカーに人が乗ってるって、明らかに様子がおかしくて、めちゃくちゃ注目の的じゃないの。


 そのままわたしはドナドナとリアカーに乗せられて、そして……。


 町の門番さんに職質をうけた。

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