27 がっかりだわ
「そこの鉄鉱山は近年発見されたばかりでな。それなのにちょっと掘ったらワラワラとアイアンリザードが出てきて採掘が出来なくなったんだ。その上行方不明者も出るわで、ギルドに駆除依頼が来た」
眼鏡のギルド長さんの説明に、わたしは嫌な想像をして確認する。
「行方不明者って……肉食なの? アイアンリザードって」
「いいや。奴らが食べるのは鉄や岩だ。だが縄張りを荒らすやつには容赦ないんだ。行方不明者は鉱山夫や鉱山の所有権を持ってた商人とかだな」
奈々美さんの索敵スキルで安全な場所を見つけて、キトキト馬車を停める。アイアンリザードが根城にしている鉱山より高い場所なので、鉱山の様子がよく見えるわ。
というか、あれ。
クレーターのように綺麗に円形に掘られた周囲に岩がぐるりと取り囲んでいる。
その中でたくさんのアイアンリザードが活動しているじゃない。
「アイアンリザードの村かなにか?」
思わずわたしは、アシャールさんを見た。
「いえ、彼らにそこまでの知能はありませんよ。しかし妙ですね……随分と濃い魔力を感じます。残り香のような感じですが」
アシャールさんの言葉に、奈々美さんは少し不安そうにした。
「索敵にはアイアンリザード以外は引っかかっていないんですが……」
アシャールさんは一瞬思案し、「とりあえず初めの作戦通り行きましょう」とわたしを見た。
わたしはムウを撫でてから、そっと空に放つ。
あのアイアンリザード村(仮)にいるのは20体ほどかしら? 想像してたより個体の大きさは大きい。尻尾合わせて縦に畳二畳ほどない?
ムウは十分な高度を保って、ぽた。ぽた。と乳を落としていく。
乳を吸ったむき出しの大地は甘い芳香を放ち、アイアンリザードたちは地面に鼻を擦りつけて舐めている。やがて後ろ足で立ち上がって空を眺め、その口をぱかりと開けて乳が落ちてくるのを待ち始めた。
「いい感じですね」
アシャールさんが満足そうに頷く。
「あいつらがあんな風に立つなんて、初めて見るぞ」
眼鏡のギルド長さんも驚いて観察している。
奈々美さんは静かに深呼吸して、手をさっとかっこよく動かすとスキルを解放した。
変 身 ポ ー ズ !!!!
スキルさんがうるさいってそういうこと?
白い外殻装甲を纏った、かっこいい奈々美さんの姿に、ワクワク興奮してるわたしと対照的に、眼鏡のギルド長さんは仰け反った。
「お……俺はいま、何を見せられてるんだ」
それは貴重で気難しい特殊スキルさんですよ。
そのまま奈々美さんは、狙いを定めて光の矢を上空に放つ。それは綺麗にカーブして枝分かれしていき、アイアンリザード達のお口に見事に吸い込まれていった。
ドスン、ドスンとアイアンリザード達が一斉に倒れる。うまく殲滅できたみたい。
「すごいわ、奈々美さん!!!!」
わたしはめちゃくちゃ拍手しちゃうよ。
その時急に空が翳り、ムウが絶対帰還スキルで瞬時にわたしの側に戻ってきた。同時にアシャールさんが、わたしを強く抱き寄せ……。
砂埃を巻き上げて、強風が通り過ぎる。
「ノクレイドラゴン……!!」
アシャールさんの呟きに、わたしも振り返る。奈々美さん無事。ムウも無事。ギルド長さんも地面に伏せてるけど無事。馬車もキトキトコンビも無事。よし。
そしてドラゴンだ。
ワイバーンより大きく立派な体格で、銀色にメラメラ輝くドラゴンが、アイアンリザードを掴んで噛み砕いた。わたしの金属素材が!!
『我が餌場を荒らした不埒者は、貴様らか!』
ノクレイドラゴンが、こちらを見た。
外皮が神聖なる銀と呼ばれる、鋼より強く銀より輝く魔力の強い金属でできたドラゴンで、アイアンリザードが好物……スキルちゃんの解説に理解しました。
というか、言葉を喋るの……。かなり高位の魔物よね、きっと。
『お……おお……おお……』
攻撃されるかなと身構えたが、ノクレイドラゴンの瞳の色は青いままだ。
わたしの方をじっと見て……そんなわけないわ。ムウを見てる。ムウを見てプルプル震えてるわ。
まさかムウちゃん、強いの?!
『なんという、芳しい香り! なんという愛らしいメス!!』
おう……恋なん? まあうちの子可愛いちゃ。しゃーないわ。
一緒に来たいって言われたらどうしよう……あんな大きなドラゴンの躾って出来るものなのかしら……でもムウが一緒にいたいと思うなら、引き剥がす訳にもいかないわ……。
でもでも餌場って言ってたわよね? 養うにはやっぱりアイアンリザード村が必要ながけ? ワイバーンのお肉じゃだめかしら……。
『来よ! さっそく交尾いたそうではないか♡♡』
ノクレイドラゴンは翼を広げて立ち上がった。股間の生殖器と思われるモノからギロンと輝きが放たれる。
わたしとムウの顔が、シワッとなった。
次の瞬間、ノクレイドラゴンの巨体は、円形の光に包まれ消えた。もちろん、わたしが素材採取したのだ。
あーもう、巨大ドラゴン養わなきゃいけないかと気を揉んで損しちゃったんやわ。アイアンリザードの数も少なくなったし、がっかりやちゃ本当に。
「ムウ、怖かったよね。馬車の中でゆっくり休んでて。手伝ってくれてありがとうね」
わたしはムウを撫でて、額にちゅっとしてからパナマ草を与えた。ムウの孔雀のような尾がふわぁと広がり、嬉しさにゆさゆさ揺れる。
いくらムウが生後数時間でお乳を出した早熟なドラゴンでも、あれはないわー。
「なんだ?! なんでノクレイドラゴンが突然消えたんだ??!」
眼鏡のギルド長さんが驚いているが、わたしはそっと庇ってくれたアシャールさんを抱きしめ返してから、奈々美さんのところへ向かった。アイアンリザードの残り、全部素材採取しなくっちゃ。
その後はアシャールさんとギルド長さんに任せた。二人でシロとクロに乗って、他にアイアンリザードが隠れていないか確認し、行方不明になっていた人達の遺体や遺品と思われるものを調査している。
「お帰りなさいアシャールさん、シャワー浴びる?」
「ええ、そうさせていただきます」
「それじゃあアシャールさん、ギルド長さんも一緒にお願いします。使い方わからないと思いますので」
奈々美さんが有無を言わせずギルド長さんを押し付けた。まあ確かに一人で使わせて、設備を壊されても困るものね。
「脱いだものは洗濯しておきますので、ごゆっくり」
まあ、シャワーでゆっくりも何もないけど、他に言葉が思いつかなかったので。
二人ともシャワールームに入ったのを確認して、脱衣籠の中の物を空間収納に仕舞う。いつもより短時間で洗濯が終わってしまった。あのノクレイドラゴンのおかげでまたレベルが上がったからよね……ドラゴン、良いレベリング素材だわ。
シャワールームから聞こえる騒がしい声に鼻歌を合わせながら、仕上がった洗濯物を置いておく。冷たい果実水を用意して、わたしは奈々美さんのところに戻った。
「何これ。なんで俺の髪はこんなサラサラで服から良い匂いがするんだ……」
「スキルちゃん特製洗剤ですからね」
頭を抱えるギルド長さんに、わたしは胸を張って答えた。
「奥さん生産系のスキル持ち?」
「というか、生活全般に関係するスキルかしら? お料理はアシャールさんに任せてるけど」
「なるほど、よくわからん」
行きはギルド長さんに見向きもしなかったミケ子達だが、うちの洗剤の匂いがするようになったからか、ギルド長さんの周りをすんすん嗅いで回っている。
「ああそうでした。神聖なる銀を少しいただきたいのですが。鱗五枚ほど」
「じゃあ十枚入れておきますね」
あのノクレイドラゴンは二階建ての家一軒分くらいの大きさだった。鱗も大きく、一枚1キロほどの重さかな。
「はっ!! 待った。ノクレイドラゴンが出たのは夢じゃなかったんだな。どこに消えたんだ?!」
「わたしの素材収納空間にです」
「……は?」
「わたしの素材採取スキルで採取して、素材になって素材収納空間に収まってます」
ギルド長さんは、テーブルに突っ伏した。
大丈夫? 眼鏡危なくない?
「つまり奥さんは、魔物をそのまま素材にできると……?」
わたしは頷いた。
「素材採取スキルでそんなこと出来るなんて、聞いたことねぇよ」
「でも出来ちゃいましたから」
「……はあ、うちにも神聖なる銀買い取らせてくれないか」
「ワイバーン100体買った後なのに、大丈夫なんですか?」
「ちょっと待ってろ」
ギルド長さんは通信魔導具を使って、どこかに連絡を取りはじめた。
その隣で、アシャールさんがわたし達のために説明をしてくれる。
「神聖なる銀という金属は、ノクレイドラゴンを討伐するか、その巣の付近で少量しか取れない極希少な金属なのですよ。その帯びた魔力は邪を退ける神聖を持っています」
あんな変態だったのに?!
「主な使用用途は何になるの?」
「武器や防具、そして装飾品ですね」
「アシャールさんもそれで武器を?」
「いいえ。私はこの馬車のグレードアップですね。軽くて薄く加工できますが、最後の仕上げで何より固くできるのです。腐食にも強いので幾つかの部材をノクレイに入れ替えようかと」
「という事は、家の設備にも使えるわよね」
よし、沢山売りに出すのはやめよう。
「決まった。奥さん、ノクレイの鱗、一枚2000万で三枚買い取らせてほしい」
「わかったわ。ギルドに戻ってからよね」
それからアシャールさんは、いかにも高価な細工の金のペンダントを取り出し、さらさらと書いた手紙を結び付ける。
「それは……?」
「行方不明者と思わしき人たちは、殆ど白骨化していましてね。これは上半身だけ残っていた骨男性が大事に握り締めていたものです」
アシャールさんはペンダントの蓋を開けた。ケモリアの王城で見た、美しい第四王女様の精密画が出てくる。
わたしと奈々美さんは、静かに手を合わせた。
「ピホさん、これをケモリア王国まで運んでくれますか?」
「ピホ」
ピホは小さな嘴でネックレスを咥えると、金色の光を放って消えた。
ケモリア王国では、罪人を捕らえた薄暗い牢屋の前に、場にそぐわぬ淑女がいた。
その手に牢屋の鍵を持って。震えながら。
「ほ……本当に、私をアオリハまで連れて行ってくださるの?」
「もちろんだとも。さあ、はやく鍵をあけろ!」
牢の中にいる男の、チョビ髭が揺れる。
とその時。金色の光と共に、ひよこのように丸くて美しい鳥が現れた。
「あなたは〈猫の目〉さんの……。これは?」
王女はピホからペンダントを受け取り、添えられた手紙を読んで、ふらついた。
「うぅ……そんな、まさか……ああああああ」
王女の叫びに、牢番達が気づいてやってくる。
「あの太った女の鳥か! ここでも邪魔しおって」
チョビ髭は王女が落とした鍵を拾おうと必死に手を伸ばす。
「ピオウ!!」
ピホは容赦なくチョビ髭の額を蹴った。
「がっ」
そのまま後ろの壁に吹き飛んで、チョビ髭は意識を失った。
その後、彼は生きている間に牢から出られることはなかったという。
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