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ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


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2/14

2 聖女とは……?

 幸いわたしは翌日の昼近くに目を覚まして、直ぐに猫ちゃんの安否を確認した。


 わたしに貰われたばかりに、異世界猫になってしまった憐れな仔猫ちゃんだが、ものおじしない性格なのか、箱座りではなく丸まってすやすや寝ているので、ひと安心。

 長毛の丸い顔に、ブルー、クリーム、白の三毛猫の女の子なので、名前はミケ子と決まっている。


 あの紫ローブの人体実験を阻止してくれた人は、この国の宰相様だったよう。わたしが目が覚めたと報告を受けて、今後の説明を兼ねて昼食に同席して下さった。もちろん、もう一人の召喚女性も一緒だ。


 「希望するなら私が後見人となり、この城で生活を続けることも可能だ」


 宰相様は穏やかにそうおっしゃった。

 顎にお髭を生やしたダンディで、そういえば紫ローブも鼻の下にくるりんと巻いたちょび髭があった。そういう文化なのだろうか。わたしは正直、お髭があまり好きでないので、内心ため息なのです。


 そしてわたしは煮込料理のお肉を良く噛んでる途中だったので直ぐに返事はできないのだが、隣に座っている女性……紡木奈々美さんは思い悩んだ顔をしている。

 因みにわたしはSNSで使用していた「やなぎ」という名前で押し通した。猫柳のやなぎ、我ながら単純な命名だわ。でもこの国から出ていく予定だから、本名は言わない方がいいかなって、なんとなく思って。


 やっとお口の中が空になったので、わたしは返答した。このお肉固かったなー。


 「王城のように広い所だと、連れている動物を籠から出してあげることも出来ません。できれば安くて安全な貸家のようなところで自立した生活を目指したいです。できればその……支援金のようなものをいただけると助かります」

 「なるほど。そういうことなら、家もこちらで手配しよう。働き口も斡旋することができるが?」


 これは悩む。四十半ば過ぎのこの歳になって、異世界で就活できるとは思えないので。でもこの国出る予定なのよね。


 「…………この国に、図書館など書籍の読めるところはありますか? まずはこの世界の常識など身につけてから、働き口を探したいのですが。その時に改めて、宰相様を頼りにさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 「であれば、教師を派遣するとしよう」

 「あの紫ローブの人みたいな方は遠慮させて下さい」


 宰相様は苦笑いした。


 「ナナミ殿は如何するかな?」

 「あの……私……できれば、やなぎさんと一緒に生活したいです……」


 不安そうにしている奈々美さんを見て、わたしは頷いた。


 「わたしもそうして貰えると、心強いです」

 「よろしくお願いします!」


 奈々美さんはほっとした顔で頭を下げたが、宰相様は眉間に深く皺を刻んだ。


 「いや、ナナミ殿の身の安全を考えると、王城にいた方が良いかと思うが」


 「どうしてですか?!」

 奈々美さんは青ざめていた。


 あー、うんわかる。

 お一人様でお太り様の四十代オバであるわたしはともかく、どう見ても二十代の、しかも地球の優秀な美容技術や美容品で磨き上げられた奈々美さんは、率直に言ってこの城の姫より美人だった。


 あーうん、わかる。宰相様の言いたいこと何となくわかる。


 この国、そういう治安なのかー。もしかしてライ様が空間収納スキルをくださるって言ったのも、そういう理由ありきと思った方がいいかな。スリとか盗難防止とかそういう、ねぇ。

 なにせわたしは、喋りさえしなければ、大人しく人が良さそうに見えると定評のある鈍臭いおばさんだ。カモにされるに違いない。


 「ナナミ殿はその、とても平民とは思えぬ美しさなので……よからぬ輩に目をつけられるかと」


 宰相様の言葉に、奈々美さんは目を見開いて驚くと、一瞬思案してから言った。


 「では髪を切って男装します」




 そうして奈々美さんは、本当に男装して、宰相様が手配してくれた家に一緒に来てくれた。

 元々背が高くスラリとした美人さんなので、女性の姿も美しかったが、男装も素敵なのだわ。


 ありがたいことに家の掃除等は、宰相様の使用人の方々が済ませてくれていて、直ぐに暮らせるようになっている。

 市場などの中心部にそこそこ近く、しっかり戸締り出来る、平民が住むには少しばかり贅沢な家。


 ただし水は井戸で汲んで、おトイレはボットンだ。おそらく水洗トイレしか知らない奈々美さんは、トイレを見て固まっていた。わたしもうっかりミケ子が落ちないように、気を遣わなきゃだし、トイレットペーパーがないことに、二人で泣いた。


 因みにお城にもなかった。

 お城ではどうしてたかって? 木のヘラを渡されたわ……。あと古布。

 ここもちゃんと古布を置いてくれてある。でも布は無限にあるわけじゃないのよね……いつかは無くなる。


 「ミケ子、お外はあぶないあぶないだから、絶対一人で出ちゃだめよ」

 「みゃう」

 「ミケ子ちゃん、絶対言ってることわかってますよね? それにこんな瞳の色の猫ちゃん初めて見ます」


 家の戸締り確認をしてくれた奈々美さんに、お茶を渡す。

 ミケ子の目の色は澄んだブルーだが、外側が若草の緑だった。たぶんライ様の加護の影響だろう。元々は金目だったのだから。


 「これ、なんのお茶ですか?」

 「よくわからないけど、スキルで採取した草のお茶だから大丈夫。今朝から飲んでみてるけど、なんともないし。普通の白湯も用意してあるけど、そっちにする?」


 奈々美さんは首を横に振って、ナゾの草茶を一緒に飲んでくれた。


 「美味しい……! 紅茶と蓬茶のブレンドみたいな……食事にも合いそうですね」


 家の周りを散歩した際に、美味しいお茶が欲しいなと思ったら、スキルが発動したのよ。

 辺りに円形の光がいくつも見え、近づくとこの葉があった。一つ一つ摘んでると腰が痛くなったので、おかしくない? 素材「採取」スキルなら、採取まで自動でしてくれて良くないか? と思ったら、できてしまったのです。

 視界で光ってるナゾ草が、一気にそのまま売りに出せるほど綺麗な状態で、手の中に収まっていたのだわ。


 そしてわたしは思った。青い空を見つめながら。


 大量に採取できるのに、それを最良の状態で収め保管できるところがないのは、おかしくないか? と。


 そしたらまあ、スキルのレベルが上がって、素材収納空間というのが派生してしまった。ただしあくまで素材しか収納できないスキル。

 悔しいので、採れる素材を片っ端から採っていったのだ。


 どうやらスキルは使っていくと、関連するようなスキルが派生スキルとして身につくみたい。これはちょっと楽しい。


 そんな話を交えながら、わたしは奈々美さんに異世界に来てからこれまでにあったことを話した。


 「ということは、最終的にこの国を出るつもりなんですね」

 「そうなの。奈々美さんはどうする?」

 「もちろん一緒に行きます! お願いします、連れて行ってください。異世界だなんて本当に不安で……、負担に思われるかもしれませんが、私やなぎさんと離れたくないんです。日本の話もできるし、やなぎさんとミケ子ちゃんを見てると、ほっとするんです」

 「負担なんてことはないわ。わたしも奈々美さんが一緒にいてくれると心強いもの。二人と一匹で、ほどほどに頑張っていきましょう」


 わたしがそう言うと、泣きそうだった奈々美さんが、目を見張った。


 「ほどほどに……、ですか?」

 「そーよ。頑張りすぎずにいきましょう」


 奈々美さんは、クスッと笑った。


 「よかった……一緒にいてくれる人がやなぎさんで」

 「あ、わたしね本名は猫柳香子(かおりこ)というの。この国にいる間はやなぎで通すつもりだから、よろしくね」

 「そうか、名前……私馬鹿正直にお城の人に本名名乗ってました……」

 「わたしも確かな理由があってそうしたわけじゃないの。だから、何か影響がありそうだとわかった時には、その時考えよ? どうせまだ戸籍みたいなものが登録必要かもわからないんだし」

 「そうですよね……。あの、それに私もまだ話てないことがあって……聞いてもらえますか?」


 もちろんわたしは、頷いた。


 「私、自分のステータス画面が見えるんです」


 (……!!!!)


 「盲点だったわ。それまだやってない! ステータスって唱えるやつね。ステータス!」


 わたしは意気揚々と唱えて見たが、何も出なかった。


 「……出ない。人によって違うのかしら」

 「そうなんでしょうか……それで私……」

 「うん」

 「〈聖女〉ってなってて」

 「そうなの。じゃあ、この世界で聖女がどういう存在なのかも調べないとね」


 あの召喚後の様子だと、聖女なんて眼中になかったような雰囲気だったし。


 「でもスキルがなんかおかしくて」

 「スキルが?」

 「〈外殻装甲〉ってスキルしかないんです」


 わたし達はしばし沈黙した。


 〈聖女〉って役職か称号みたいなものよねぇ……。その聖女のスキルが?


 「……えーと、なんてスキルだったっけ?」

 「〈外殻装甲〉です……」

 「え? え? 奈々美さん、ロボになっちゃうの?」

 「わかりませんよぉ、私にも。スキルの取説とかないんでしょうかね……」

 「取説かぁ……ライ様の様子だと、スキルは本人の認識次第なところもあるみたいだし……奈々美さんは、外殻装甲って単語に何か思い当たることはあるの?」


 奈々美さんは途方にくれたような顔をした。


 「……とりあえず発動させてみる? スキル」

 「そうですね。どういうものか知っておく必要があると思いますし。あの、スキルの発動ってどうするんですか?」

 「スキル使うって思ったら自然と発動してる感じかなぁ。でもわたしの場合、スキル名で先にどんな現象かイメージできてるからかもしれないし、とりあえずスキル名唱えてみる?」


 「外殻装甲!」


 奈々美さんからカッと光が迸る。驚いたミケ子が、わたしの膝から降りて椅子の下に潜りこんだ。


 「……これは!!」


 奈々美さんは呆然と己の手を見、わたしはエプロンのポケットからスマホを取り出し、写真を撮りまくった。


 奈々美さんは、白のメインカラーに赤いポイントの入った装甲を纏った、特撮ヒーローになっていた。お胸はない。


 「カッコいいわ! 奈々美さん!」

 「これは……この高揚感はヤバいです……! 私……私……ちょっと走って来ますっ」

 「ダメよ。夜の外は危ないわ。腕立てとか腹筋とかにしておきましょう!」


 奈々美さんはそのまま三時間ほど、筋トレしまくった。


 わたしは奈々美さんがトレーニング後にさっぱりできるように、沐浴用の桶にお湯を用意する。そして洗い流さなくても良い、洗浄効果のある草から作った入浴剤を入れる。これもスキルで採取した草だ。石鹸のような良い匂いがするの。

 冷めないように宰相様から貰った保温魔導具も起動しておく。そして酸味のある果汁と塩と砂糖で作ったスポーツドリンクを用意しておいた。


 人生はトライアンドエラーの繰り返しだ。


 検証の結果、わたしのスキルが及ぶ範囲は、視界に収まる程度。

 空気中の水分を採取し、飲料水や生活水に。日光から熱エネルギーを採取し、お湯を沸かすのに使った。

 いちいち井戸に行ってたら、わたしの膝と腰がぁ……ってなるのは目に見えてるもの。


 魔力だって素材だろう。

 だって魔導具が素材だったんだから。


 素材利用していい、不要な魔力がないか家中を確認して、片っ端から採取した。その際、こりゃなんの魔法なんだろうと意識していたら〈解析〉〈抽出〉〈合成〉などという派生スキルを会得してしまって、この家に盗聴の魔法がかけられていたのがわかった。


 素材採取した魔法を、別の魔法に合成しようと思ったら、見事に失敗したのが悔しいところよ。もう何回か挑戦したらコツが掴めそうかも。

 まずは何がなんでもちり紙を作れるようにならないとなのよ!

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