19 Gランク
イスタリオから帰った夜、ピホは卵を産んでいたの。その数二十。サイズはお馴染みの鶏卵のMからL。羽根の色によく似た、光の加減で青にも緑にも色が変わる綺麗な卵ね。
ひよこのくせに何故そんな沢山生むんよ。そもそもその身体の大きさと卵の大きさと数が合ってないじゃないと心配になったけど、元々鑑定に沢山卵を生むとあったわ、そういいえば。わかんないけど、そういう生態なのね! 謎多し! 思考放棄!
しかもピホは生んだ卵をせっせとわたしの……わたしのですね、素材収納空間に収めていたのですよ。わたしの寝てる間に勝手に! なにそれ。
《本鳥に快く提供いただいきましたので、自動採取対象となりました。ららん》
ほか、ほうか。
まあ何にしても最終的にそうなっただろうからいっか。もうスキルちゃん達の善きにはからえ。
《わーい♪ るるん。ららん》
因みにピホウオウは繁殖はせず、死んだらまた新しい特別な卵から復活できるらしい。確率で発生するその特別な卵を得る為に、毎日沢山卵を生むようだ。
特別な、中が空洞の金の卵。
その数だけ長く生きられる。
スキルちゃん達はそれを見つけたら、厳重に保管する体制に入っていた。
普通? の卵の方は食卓を潤してくれる大事な食材です。美味しいよ!
「そろそろ冒険者ギルドに行って、普通に依頼受けてみたいんですけど……」
奈々美さんが朝食のスープを飲み干してから、そう言った。
寝泊まりは馬車でしてるけど、食事は神殿の食堂にお邪魔してるわたし達。アシャールさんが厨房を使うので。
神官さん達はとにかくわたし達の会話に耳をそばだてて、アシャールさんがどんな行動予定なのかを探るのに必死だ。なにせ早朝にそっと数人の神官さんがわたしのところにやって来た。皆さん膝をついて。
「アシャール神官を連れ去って下さるそうで、奥様には一同深く感謝申し上げます」
と、頭を下げられたのだ。
夫が、予想はしたがパワハラ上司確定したときの妻の気持ちを答えよ、だわ。
きっと春さんもね、アシャールさんと上手くやっていけないと思って一緒に来なかった部分、かなりあると思う。
因みにわたし達の冒険者ランクは最底辺のGのままだ。フェイルの冒険者ギルドでランク上げるか聞かれたけど、まだ冒険者を続けるかどうかもわからないし、高ランク冒険者になったら、国の依頼を受けたりもしなくちゃいけないそうだから。
「あ、そうだわ。ワイバーンも売らなきゃ。それにお金が手に入ったら、色々お店とか覗いて見たかったの」
売ってるかどうかわかんないけど、金属が欲しい。錆びないステンレスの道具が欲しいのよ。おそらく無いからスキルちゃんに作ってもらうことになるかな。
しかし今のところ、植物や魔物素材はあっても、手元の金属素材は少ないのよね……。
キャンピング馬車を造るアシャールさんの空間収納には金属素材があるのかも知れないけど、既に色々造ってもらったり食べさせて貰ったりしてるので、無心したくはないのよねぇ。素材も財産だもの。
アシャールさんも奈々美さんの意思を尊重してくれたのか、頷いた。
「では今日はまず冒険者ギルドへ行きましょうか」
「馬車で行っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。大きな街なので普通に馬車は利用されてますし、冒険者ギルドにも停める場所はありますので」
という訳で、ワイバーンを買い取ってもらいますよ〜。
キトキト馬車は当然注目を集めた。
空は飛んでなくても、キトキトコンビは珍しい魔獣だからね。
今回馬車の中にミケ子とムウは残ってもらう。馬車には盗難防止の魔法が付与されてるし、皆んないざとなったら、自力でわたしの所まで帰還できるスキルを持った子達だが、念の為馬車内で造っていた立札を立てておく。
『うちの魔物と馬車に勝手に触ると、攻撃魔法が発動します。ここで告知させていただいたので、何かあれば相応の措置を取らせていただきます。 パーティ猫の目』
そしてピホに見張り役を任せた。
フェイル王国の冒険者ギルドで馬車を造った時点で、馬車はパーティの所有物として登録してある。
冒険者ギルドに入って、わたし達はまず買取窓口に言った。
「ワイバーンの素材を買い取って欲しいんですけど」
「ワイバーン? あんたみたいな女が、なんでワイバーン素材を持ってるんだぁ?」
一瞬不穏な空気を纏ったアシャールさんの袖口をぎゅっとにぎる。どうどう。
「収納スキルを持ってるからです」
採取したで信じて貰えそうにない感じよね。とりあえずそう言っておく。
「運び屋か。とりあえず見せてみろ」
今までの冒険者ギルドも窓口にいるのは口が悪いか強面のお兄さんばかりだったけど、ここも負けじと筋肉ムキムキのおじさまだわ。やっぱり乱暴な人達の対応が多い職場だからかしら。
「ここでですか?」
「ああ」
とりあえずワイバーン一体分の素材だけ、カウンターに所狭しと並べていく。
いや乗らない、これ。翼とか大きな部位はカウンター前に立てかける。
「オイオイ、こいつはもしかして、一体分丸ごとか? 鑑定魔導具持ってこい!」
存分に鑑定してください。ドヤ。
鑑定魔導具を持って来た眼鏡のおじさまが、確認しながら唸る。
「……こいつはとんでもないことだ。どれも完璧な処理をされた最高級品だ。しかも内臓が揃ってる。脳と心臓もだ。この包み紙は鮮度保持の魔導具か……」
「いくらぐらいになりますか? そして何体分買い取って貰えますか?」
「は?」
筋肉おじさまの方は、何言ってんだこいつ見たいな顔をしたが、鑑定をしたおじさまの方は、眼鏡がキラリと光った。
「群生地に出くわしたのか?」
「そんな感じですけど、全部素材にしたので心配はないです。それにフェイル王国でのことです」
「なんだそうか」
眼鏡のおじさまは明らかにホッとした。
「では君達はパーティ猫の目のメンバーか? フェイルの国境の町の件は、こっちにも情報が渡ってきている」
わたし達は黙って頷いた。
「……この品質と同等のものを百体分買取たい。この包み紙込みで一体、二千五百万出す」
二千五百万? あれ? フェイル王国より二千万も値上がってない??
え? 合計いくらになるん? これ雑収入として確定申告しないとあかんやつ??
頭がぱやんとしちゃってるけど、とにかく取引しないと……!
「わ……わかりました。どこで渡せば良いですか?」
「第三倉庫へ来てもらおうか。カラック、ここにある分もそっちに運んでくれ」
カラックと呼ばれた筋肉のおじさまは頷いた。
すかさず奈々美さんも動く。
「手伝います」
「頼むわ」
アシャールさんはリアカーを出して、奈々美さんと二人で手際よくワイバーン素材を乗せていく。
「あんたらもしかして、全員収納スキル持ちか? 珍しいな。だったらそうやってパーティで活動してるのは正解だな」
リアカーを引くカヤックさんに付いていく。
「そうなんですか?」
奈々美さんが聞き返した。ええ、わたしは付いて行くのに精一杯なので、話す余裕はありませんよ。皆んな足速い。
「どこの冒険者パーティも、荷物運びに収納スキル持ちを雇いたがるんだけどよ。いざ戦闘になると、見捨てていく奴らも多いんだ。あんたらも気をつけろよ」
「はい! ご忠告ありがとうございます」
広い倉庫にワイバーンを納品して、一旦ギルド内に戻る。数や品質の確認作業と、買取金の準備があるので、番号札を持って待っていて欲しいとのこと。
一時間程かかりそうとのことなので、後からもう一度来てもいいと言われたのよね。なので、依頼を物色することにしたのだ。
冒険者ランク毎に依頼の掲示板は分れれていて、D、Cランクの掲示板の人集りが一番多い感じかなぁ。
「一応ランク毎にどういう依頼があるのか把握したいから、全部の掲示板見てみても良いかしら?」
「そうですね。わたしも気になります」
わたしと奈々美さんは、一番人が居ないAランクの掲示板を見に行った。
「商人の護衛依頼だわ。きっと魔物だけじゃなくて、盗賊とかの対応をしなくちゃ行けないのよね。なるほど、ベテランのお仕事だわ」
「依頼者もきっと大きな商会ですよね。三パーティくらいの人数を募集していますよ。この街にAランク冒険者って、どのくらい居るんですか?」
奈々美さんはアシャールさんを見た。
「さて。わたしも詳しくは知らないのですが、そんなに多くは無かったと思います。それに殆どがこういった長期の依頼で不在にしてる事が多いはずです」
「確か一ランク上の依頼まで受けれるはずだから、Aランクの方がいなくてもBランクの方が依頼を受けられるのですよね」
「そうです」
流石商業が盛んな国なだけあって、商団の護衛依頼は多い。Dランクくらいまでしっかり護衛依頼が混じってる。
《ソワソワ ソワソワ》
おや、スキルちゃん達が、なにやらソワソワしてるわ……と思ったら、掲示板の依頼にロックオンしている。わたしの目にはその依頼書が淡く光って見えた。
あああああああ! どうしよう。どうしよう、これ。
わたしはアシャールさんの袖をぎゅっと握って、もう片手で恥ずかしさに顔を隠した。
「香子?」
わかってるんです。一ランク上の依頼までしか受けれないことは。わかってるんです。
「アシャールさん、わたしあの依頼受けたい……」
わたしはもう真っ赤になってですね、指差しました。Bランクの掲示板に貼ってある、アイアンリザード駆除依頼の依頼書を指差しました。
「いや、あんたらGランクだろ。Bランクの依頼なんか持ってくんじゃねーよ。馬鹿なのか」
ソウデスヨネー。
窓口のお兄さん、お口が正直すぎるわ。
「どうしても駄目ですか? では場所は覚えましたし、ギルドの依頼と関係なく行ってきますか」
「あ、なるほど」
「待てよ! ギルドがBランクって判断したんだ。あんたらはパーティランクだけじゃなくて、個人のランクもGしかいねぇじゃねえか。無理なもんは無理だ。舐めてっと、死ぬぞ!」
おっしゃる通りだわ。お口が正直なお兄さん間違ってない。ので、一応確認しておく。
「アイアンリザードって、ワイバーンより危険ですか?」
「ワイバーン程じゃないが危険に決まってるだろ」
さっきから、くすくすどころか、ゲラゲラ笑い声が聞こえる。よっぽどの常識外れをしちゃったのね。
「これだから女はよ」
「大人しく飯でも作ってりゃ良いんだよ」
「馬っ鹿、冒険者になるような女が、まともに結婚出来るかよ」
ぎゃはははと笑い声を聞きながら、なるほど、これがこの世界、もしくはこの国の当たり前なのかと思う。まあ月のもののある女性が、環境や衛生用品の整ってない状況で、遠出やらはやっぱり辛いわよねと考えながら、我が夫の手をね、そっと握るわたしである。
だってアシャールさんの魔力ちゃんから、タレコミがあったので。
《本体がこの人達の股間を蹴り上げて、唐辛子油を下着の中に流し入れようとしてますぅぅ!!!》 って。
やめて。そんな地獄絵図はやめてね。粘膜に唐辛子油ってどんな拷問なの。
「だったらその依頼、俺らが受けるてやるよ。あんたらパーティは荷物持ちで同行するのはどうだ? アイアンリザードは重いしな。収納スキル持ちなんだろ、あんたら」
若い冒険者君達が声を掛けてくれた。
そしてアシャールさんがばっさり切った。
「お断りしますね」
「おい。せっかくこっちは親切で言ってやったのに……!」
「お気持ちはありがたいのですが、報酬や待遇で揉めることがありますので、他のパーティの方とは組まないことにしてるんですよ。うちは女性もいますから」
「ちっ」
舌打ちして若い冒険者君達が去って行く。
なんだろう? アシャールさんはおかしなことは言ってないと思うんだけど……。外面は良い方なので。
あ、きちんとしたこと言われて嫌だったのかな? なんかナアナアにして自分達の得するようにしたかったのかしら。
でも。
「今の子がリーダーさんだったのかしら? 奈々美さんよりレベルは低かったけど」
「え?!」
奈々美さんが驚いた顔をした。
「そうですね。一緒に行けばとんだお荷物でしたよ。あの装備でアイアンリザードとどう戦うつもりだったんでしょうかね」
「いやそういうお前らもどうするつもりだったんだよ……アイアンリザードは鱗は錆びない鉄で物理攻撃も魔法攻撃も通さないんだぞ」
窓口のお兄さんがツッコミをいれる。
「物理攻撃も魔法攻撃もダメって、じゃあこの依頼、誰が受けれるんですか?」
奈々美さんも冷静に聞き返した。
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