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ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


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18/19

18 イスタリオ

 アオリハの神殿は、グランヒュームのそれに比べて、荘厳かつ清冽な雰囲気があった。ここは主神ライフォート様だけを祀る神殿とのこと。

 大神官様は眉間に皺を寄せた。


 「お前が結婚するなど、生きて帰ってきたことより信じられんわ。一体何の冗談だ」

 「主がわたしの元に運命の相手を導いて下さっただけですよ」


 アシャールさんはさも当然のように言うけど、いや、ライ様もそんなつもり無かったと思うよ。全然。


 わたし達はまず、ライフォート様にお参りさせてもらうことにした。大神官様自らが案内してくれる。

 ミケ子やキトキトコンビをはじめとする魔物達が付いて来るので、神官さん達の視線で穴があきそうなのだわ。可愛いから見ちゃう気持ちわかるけど。


 この神殿のライ様は立派な石像で、どこぞの崩壊した神殿と違って掃除が行き届いているわ。それだけでこの神殿の好感度だだ上がりよ。

 わたし達は全員、手を合わせて祈りを捧げた。


 「ブハハ! 香子、君本当にやってくれたね!」


 あ、この笑い方。ライ様ですね。


 「キトキト!」

 「キトキト!」

 「ピホウ!」

 「ムきゅう!」


 森のたまご出身者が、こぞってライ様を取り囲む。


 「はいはい。皆んなちゃんと加護をあげるからね」


 「ここは……、まさかイスタリオ?!」


 大神官のお爺さんが呆然と呟いた。

 ライ様が大神官様とアシャールさんをみる。


 たまご出身者達は、ライ様から加護をもらうとささっと、わたしのところに戻ってきた。現金やね。


 「こうやって会うのは久しぶりだね。アシャールにゼニアスよ」

 「主よ。御身の加護と香子に引き合わせて下さったことに感謝します」


 アシャールさんが跪くと、大神官様も同様に跪く。


 「再び御尊顔を拝謁する栄誉を賜わり、恐悦至極にございます」

 「まあそんな堅苦しいのは、よそうか」


 ライ様はうんうん頷き、それから奈々美さんを見て、にこりと笑う。


 「さあ皆んな、遠慮せずに腰掛けるが良い。香子はわたしの隣だ」


 それ、ミケ子狙いですよね。

 たまご出身者と違い、ミケ子はしっかりわたしに抱っこされている。


 いつもの白いテーブルセットにお茶が用意されている。わたしはもうご理解していた。紅茶だと思ってたあれ、パナマ草茶なのだわ。


 「…………そういう訳で香子と奈々美は、アシャールを救っただけでなく、フェイル王国を救い、今代の勇者を救い、ひいてはグランヒューム王国が齎すはずの蹂躙戦争の手段を無くしてしまったのさ」

 「香子さんのスキルがすごいので……」

 「皆んなが一緒にいて支えてくれたおかげよ。ライ様に頂いた加護にも助けられたの。ライ様本当にありがとうございます」


 これは本当に。ミケ子がいないと異世界で生き抜く覚悟は出来なかったし、奈々美さんがいてくれたから、心細くはなかった。アシャールさんがいなければこんな順調に旅は出来なかっただろう。そしてキトキトコンビ、この子達がいなければ、ワイバーンの団体相手に優位に立つことは出来なかったんだから……。

 それもこれも。


 「ライ様、見守ってくださっていて、感謝いたします」


 大人なのでなんかいい感じにまとめましたよ。大人なので。


 そして交渉に入ります。わたしは気づいてしまったのだ。


 「ライ様、こちらのパナマ草他便利そうな草花を採取させて貰っても?」

 「ブフフ、そう来たか。いいよ別に。どうせ香子のパナマ草農園も『ここ』にあるしね」

 「え? スキルちゃん農園、ここに繋がってたんですか?!」

 「そうだよ。一応香子と奈々美はここ国籍だからね。使って良いんだよ。でもいやー本当、香子は楽しいね。空間収納スキルで農園作ろうなんて、普通はやらないよそれ」

 「だってスキルちゃんが、ららんとはじめちゃったから……」


 ま、いっか。結果オーライよ。

 許可もいただいたし、スキルちゃんはスキップしながら遠慮なく素材採取していく。

 足元の緑がすっと無くなったが、またサァと緑が戻っていく。


 それを眺めながら、優しい奈々美さんが、心配そうに尋ねた。


 「あの……ライ様、元勇者君はスキルもなく、一人で大丈夫なのでしょうか?」

 「うん。彼もいまや憐れな迷い子だ。折をみてスキルを与えようと思う。心配いらないよ」

 「ありがとうございます!」


 ほっとした奈々美さんが笑顔になる。


 「さて、では香子」


 ライ様が両手を差し出した。こちらもニッコニコの顔で。


 「猫ちゃんは大きな声は嫌がりますから、優しくそっとですよ」


 わたしは抱っこしていたミケ子を、そっとライ様に渡す。

 ライ様はミケ子を抱っこしてそっと撫でて吸う。

 あら、大神官様の目が点になったわ。


 ライ様がミケ子を堪能している間に、わたしは奈々美さんと鑑定図鑑を確認する。

 イスタリオ原産の植物、という項目が増えている。

 皆んな大好きパナマ草も、洗浄に使用してるサボン草も、イスタリオ原産植物は採取スキルを持つ者が採取して、ようやく真価を発揮する草花らしい。他にもいま採取した十種類程の草花は、地上では既に絶滅してしまったものとのこと。

 スキルちゃんは、るるんからららんで早速農園に植えて増やしていく。農園が増えたよ!

 

 すっかり猫ちゃんを堪能したライ様は、ツヤッツヤの顔をして、お次は森のたまご団を撫でている。そんで抜け目なくムウの乳を搾って飲みましたよ?


 「んー美味い!! これは素晴らしい出来だよね。しかし森のたまごには極稀に私が設計した魔物が生まれるようになってるんだけど、どうして香子はそういうのばかり引き当てるんだい?」

 「ライ様がわからないなら、わたしにもわかりませんよ。強いて言うなら、皆んな主食がパナマ草だからじゃないんですか?」

 「なるほど。この子達の生きたいという強い想いが香子を引き寄せたのかな」


 ライ様のその言葉に、わたしは雷に撃たれたような衝撃を受けた。


 「……わたしが死んだら……、この子達は餓死してしまうんでしょうか……?!」


 今まで考えずにいた事実を突きつけられたわ。

 生物の死亡率は百パーセントだ。どんな生き物にも寿命はある。

 しかし、寿命を全うするのと、餓死するのでは確実に違う。主にわたしの気持ちの上で!


 「大丈夫だ。君の死後は、神獣たる猫ちゃんに、そのスキルが引き継がれるようにしておこう。この子達にも、猫ちゃんと同じ帰還スキルを与えておいたから、迷子や誘拐の心配は要らないよ」

 「助かります」


 ミケ子はライ様の加護を持った神獣だから、きっと長生きするだろう。それにこの子達がいれば、きっと寂しくないはずだ。


 「ところで香子、君の素材採取スキルのレベルは今どのくらいだい?」

 「えーと、確かSSSー二です」


 大神官様が、お茶を噴き出した。


 「パナマ草の採取はBー五から可能なんだよ。君が召喚された時点で与えたスキルのレベルはCー壱だったんだ」

 「え? じゃあどうして……? わたしはじめっからパナマ草採取してましたよ??」


 ライ様は堪えきれず、ブフフと笑った。


 「初手でアレの採取に挑戦したから、レベルが一気にBー八まで上がったんだよ! 失敗しても多少は経験値になるからね」


 あー、アレ。確かにアレは高経験値素材ですね。


 「与えたスキルを信頼して挑戦してくれたんだ。私にとってはこれ以上ない喜びだよ」

 「特に怪しむところのない、一般的なスキルだったお陰です。スキルちゃんも生きが良かったですし」


 ライ様はまた爆笑した。




 わたし達がライ様の領域……イスタリオから戻ると、大神官様は長く息を吐いて、近くの椅子に腰掛けた。


 「イスタリオにお招きいただくことなど、もう二度とないと思っておったが……」

 「三度目を目指して長生きして下さいね」


 その言葉に大神官様は、察したようだ。


 「アシャール、シュベルクランへ戻るつもりか? 帰るところもないだろうに」

 「帰るところを作りに行くのですよ。家とパナマ草農園が欲しいと妻が望みますので」

 「お前若い奥さん貰って、年甲斐もなく浮かれとるな」


 若い奥さんて、わたしのこと?

 まあ六百歳からしたら四十代は若いわね。うん、数字の上ではね。


 「帰還の手続きは若いのにやらせよう。お前がここを去ると分かれば、迅速に動くだろうし。それまで主の客人方も遠慮なくこの神殿にご滞在下され」

 「主の客人だなんてとんでもない。でも滞在許可は助かります。何か注意が必要なことはありますか?」

 「そうだな……そこら辺はアシャールがよく分かっているだろう。カオリコさんとおっしゃったか、貴女もお連れさんも可愛らしいので、街へ行く時には必ずアシャールを連れて行くように」


 か……可愛らしい??


 これはアレね。わたしの場合は顔立ちが良いって意味じゃなく、わらびしい(幼くみえる)って方の意味ね! 実際四十過ぎてからよく言わるようになった!

 それによく見ると大神官様お耳長く尖ってた。フェイ族程でもないけど、そこそこ長命って習ったエルフ族ね。長命種族の感覚だと、まだ十分若く見えるものなのかしら?


 「ありがとうございます。十分気をつけるようにしますね」


 大神官様には笑顔を返して、アシャールさんの神官服の袖を握った。外出時にはこの人持参。

 アシャールさんは、なぜかとても上機嫌になった。





 大神官様には全部バレしてしまっている。わたしは滞在許可の御礼に、素材をいくつか寄進していくことにした。


 この神殿にはアシャールさんが作った品質保持機能付きの魔導貯蔵庫があるというのだから、安心して生乳とかクリームとかチーズとかバターとかも置いていけるのよ。もちろんパナマ草やサボン草に普通に流通してる薬草達。メイン食用肉のホーンラビット他魔物素材達……。


 「いやぁ、待った、待った。流石にこれは貰いすぎだわ」

 「なーん、ですよ。なーん。わたしの素材収納空間にはまだまだ在庫ありますからね」

 因みになーんは、全然大丈夫とかの全然って時に使うお国言葉ね。


 「そのかわり、今後またこの国に来た際には友誼をはかってくださいな」

 「ははっ。そんなことはお安い御用だよ。イスタリオの国民を無碍にする神官はおらんからな」


 わたしも大神官様と一緒にあははと笑って、ワイバーン五体分をさらに置いた。


 「オイオイ……」

 「まあまあ良いじゃ無いですか。こんな素敵な貯蔵庫があるんですから。腐る心配もありませんし。それに生きていれば天候が悪かったり、なんやかんやとあるもんでしょう? その時にはこの神殿が首都の皆さんの助けになるんじゃ無いんですか?」


 大神官様はへにょりと眉を下げた。


 「アシャールのやつと離婚したくなったら、私を訪ねてくるがいい。フェイ族の聖婚だとて、私が主に奏上して離縁できるようにとりはかろう」


 今まで大人しく棚に素材を収めていたアシャールさんが、殺気を込めて大神官様を見た。


 「ほれ、こういう奴だから」

 「なーん、ですよ。きっとそんな用事で大神官様を訪れることはないです」


 おやおや、アシャールさん、手足が止まってますよ。


 「わたしが、ライ様からいただいたスキルちゃん達に絶対的な信頼をおいているように、何故かアシャールさんがわたしにメロメロなのは絶対だと理解しましたからね! 大事にしてもらいますよ!」


 「はっは!」

 大神官様は大爆笑した。


 「流石は大きな戦争を食い止めた英雄だ。アシャールの手綱をうまく握っててくれ」

 「いえいえ、わたしはただのおばさんですよ」


 ライ様から、英雄の称号欲しい? って聞かれて、しっかり辞退させていただいたので。


 猫柳香子は、スキルちゃん達と仲良しな、唯の平凡な猫好きもふもふ好きのおばさんなのです。

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