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ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


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16 キトキト馬車

 完全に日が落ちる前に、搬送隊と合流してテントをたてた。

 ついでにその横に、おトイレも。


 これは、馬車につけてって言ったら、アシャールさんが興味を持って、あの場でおトイレだけ造ってみたのを設置。

 水洗でなく燃焼式……洋式便器に専用の紙を敷いて、用を足した後は紙ごと下部の燃焼用ボウルに落として、汚物をごわっと焼却するシステム。換気や排気も含め魔導具としていい感じにできてしまった。

 もちろん専用紙とトイレットペーパーを作るのはわたしのスキルちゃんですよ。


 アシャールさんは紙を入れて置けば、使用後自動でセットしてくれる仕組みも作ってくれました。わたしの簡単な説明だけで大体の仕組みを理解して、完璧なものを造りあげたのだから、ガチで仕事出来るイケメンだわ。


 そしてプライベートが守られるよう、背の高い囲いと施錠出来るドアも設置。

 これで穴掘りがめんどくさくて、トイレを我慢することもなくなったのだわ。


 「ご褒美をいただけますか?」


 なんて言われたら、わたしはもう素直に自分の魔力を差し出すしかない。アシャールさんは今や、わたしの贅沢生活に欠かせない存在なのだ。そっと手を握る。


 毎日向き合うおトイレの清潔具合は、一日の気分に直結するし、安心で安全な排泄は、大切な贅沢だ。


 そうして安心して眠ったわたしの脇の下に、翌朝これまた見知らぬ魔物がいるワケですよね。今回孵化はやくないです? わたしのレベルが上がったからかな?

 アシャールさん、今回もわたしの寝起きの写真を撮ってライふぉに上げるのやめて。


 「ピホウ」

 「ムきゅーぅ」


 両脇からの鳴き声も気になるが、まずは頭の上に手を伸ばし、ミケ子を撫でる。獣の序列、大事ですよ。

 古参の方が立場が上になるワンちゃん社会と違って、猫ちゃん社会は新人の方が偉くなるからね……ちゃんとミケ子優先を心がけてあげないと。


 「みゅう」

 「おはようミケ子。今日も可愛くて偉いわ。……今回は小鳥さんですか。ていうかまだひよこね。もう一匹は完全に知らない魔物だわ。この子らも餌はパナマ草かしら?」


 光の加減で金や青や緑に見える羽根に、胸の下からお腹が赤いカラフルひよこと、謎の白い羽根のある魔物の子は、まだ横になっているわたしのお腹に、よじよじ登ってくる。

 わたしは存分にミケ子を撫でてから、他の子を撫でる。どの子もまあ、とても良い触り心地ですね。なでなで。

 奈々美さんは鑑定図鑑を捲った。


 「鳥さんの方は〈ピホウオウ 仲間は襲わない賢い魔物。美しい羽根を持ち沢山卵を生む。その卵は不老長寿の霊薬の元にもなる。スキルを持つ希少な魔物……と、神の設計図にはあったが、実際この世界に生まれたのははじめて。美味しいパナマ草しか食べない超希少魔物〉だそうです」

 「パナマ草大人気だわ」

 「こちらの白い牛に似た魔物は〈スラビカーマ〉という魔物ですね。この子もこの世に初めて生まれたライ様設計超希少魔物ですよ。えーと〈純白の牛のような身体に竜のような顔と角、鳥の様な翼を持ち、尾は孔雀。良い香りを発し、他者を傷つけることのない大人しい性質。特殊ドラゴンの一種。あらゆる生命を育む乳を生み出すように、所有者の願いを叶え無尽蔵の富を与える。美味しいパナマ草しか食べない超希少魔物〉だそうです」

 「本当にパナマ草大人気ね!!」


 とりあえずわたしは起き上がって、名前を考える。


 「シロはもう居ますよ」

 アシャールさんが囁いた。


 「分かってます」


 わたしはまず、カラフルひよこを両手で持ち上げた。あらかわいい。シマエナガみたいなぽやっとした可愛いお顔だわ。

 それから特殊ドラゴンの子……ウロコは無く、全身天鵞絨のような毛に覆われて、言われなければドラゴンに見えないわ。お顔も。大きな瞳に白い睫毛がびっしり。しかしその下腹部には、牛のようにたわわな乳房四つ。花のような乳のような甘く良い香りがする不思議で神秘的な子です。


 わたしは意を決して、ピホウオウから名付ける。


 「ピホ」

 まあ鳴き声ね。

 「ピピホウ」


 それからスラビカーマを見た。


 「そして、ムウです」

 だって鳴き声が。

 「ムぅう?」


 ピホはともかく、ムウはどのくらい大きくなるんだろう。心配になってもう一度鑑定してみたけど、今の成猫ほどの大きさから変わらないみたい。良かった。いざとなったらバッグインね。

 まさか人の数より魔物の数の方が多くなるとは思ってみなかったわ。


 さてここで思いもよらぬことがおこりましたよ。

 わたしがおトイレに入ると、ミケ子とムウが扉をカリカリするの。

 そしてわたしが用を足して扉が開くと、すすっと入って来ましてね。ミケ子さん、なんと人用のおトイレでご立派になさいましたのよ! 尻尾をぴんと立てて自慢げにムウに「みゅ」と鳴きます。ムウも「ムきゅ」っと応えておトイレで。ちゃんとみんな尻尾が便器に入らないように気を使ってるのよ!

 わたしが便座周りをスキルで造ったウエットテッシュで拭き上げ、排泄物を焼却用ボウルに落とすレバーを引いて焼却ボタンを押すと、ムウは心得たという顔で頷いた。

 まさか……理解したと言うの……? ムウさん貴女、生後数時間ですわよね。


 そしてそれを、キトキトコンビがジーッと見ていた。


 「いや、だめよあんたらは。サイズ的にダメだからね」


 そんなしゅんとした顔されても、ダメなものはダメなのです。


 その後もムウは、朝食時にわたしのコップの上に跨って、シャーッと……お乳を……ええ? 生後数時間!

 生後数時間が、乳を出して、飲めという圧でわたしを見ている。


 「おそらく……その初乳を飲むことが、所有者契約となるのではと……」


 アシャールさんが厳かに言った。


 「そうなのかも知れなくても、今のはちょっとびっくりしたわ」


 わたしは勇気をだしてドラゴンの生乳に口をつける。

 お。これはだいたい牛乳。イケる! 昔北海道旅行で飲んだ牛乳みたいに濃厚で甘味があって美味しい!

 わたしの身体がぽわっと光った。

 わたしとムウとの間に、何かしら特別な繋がりが出来たような気がする……。


 そしてわたしは食に走った。実は乳製品大好きなのよ。


 「ムウちゃんや、わたしのスキルで身体に負担がない範囲で常時搾乳させて貰ってもいい?」

 「ムきゅ」

 「辛かったり、嫌だったりしたら、ちゃんと言ってね?」

 「ムきゅきゅう」


 わたしは特別にスキルちゃん農園のパナマ草をムウに与えた。ムウの尾羽がふわぁと広がり、わたしの素材収納空間に、大量の乳が齎された。おそろしい生後数時間である。


 その間ピホの方は、わたしの肩の上でのんびりしている。この子は大人しい子みたいですね。


 「魔物が増えているようだが」


 搬送隊の隊長さんが、様子を見にきた。アシャールさんが対応する。


 「昨日、この子達が拾って来ましてね」

 「皆んなアンタの奥さんに懐いて害はなさそうだが、見たことのない珍しい魔物ばかりだ。今日はこの地点で休憩するから、その間に冒険者ギルドでさっさと登録して来な」


 隊長さんは地図を広げて、アシャールさんに見せる。


 「ご配慮感謝します」



 わたしはアシャールさんから、隊長さんの配慮をきいて、休憩時間にパナマ草茶を飲んでもらう為に、スキルちゃんにウォータージャグを造ってもらう。

 砂糖か蜂蜜があれば、スポドリにしたんだけどね……。最近暑くなって来たから。残念ながら砂糖は切らしている。この国の王都で売ってると良いんだけど。



 早速休憩時に、わたし達は冒険者ギルドに向かうことにした。

 その前にテーブルに、パナマ草茶入りウォータージャグを用意して、隊長さんに声をかけておく。


 「こちら良かったら自由に飲んでください」

 「悪いな気を遣って貰って」

 「こちらこそ、うちの子達に配慮いただいてありがとうございます」



 そんでもって町の冒険者ギルドにさっそく登録しに行った。

 アシャールさんはギルド前でキトキトコンビを見てくれている。


 中に入ると、刺さるような視線にさらされる。きっと女性の冒険者は珍しいのね。そういえば今までの冒険者ギルドでも見てない。

 いや待って、それよりこの魔物達で警戒されてるんだわ……。


 「要件は?」

 「魔物の所有者登録をお願いします。あと素材の買取も」


 わたしは冒険者証を渡して、まずピホを魔導具に乗せる。それからムウのお手手を。


 「よし、登録は終わったぞ。買取はあっちの窓口だ」

 「ありがとうございます」


 奈々美さんが収納リスト片手に、依頼掲示板から完了になりそうな採取系の依頼をいくつか選んで持って来てくれた。


 「あ、すみません。この依頼の薬草たち、手持ちがあるのでパーティで依頼完了ってことにしてもらって良いですか?」

 「ああ、その分の薬草はこっちに頼む」


 窓口のお兄さんは、奥で作業しているお姉さんを呼んで、薬草のチェックを頼む。


 「少し時間かかるから、買取窓口いってていいぜ」

 「じゃあ私がここで待って、手続きしておきますので」

 「ありがと。お願いね、奈々美さん」


 わたしはとりあえずサンドハウンドと熊を引き取ってもらおうかと考える。ここまでの道中で出たものだから、怪しまれることもないと思って。


 「どれも状態が良いな。内臓……しかも心臓がこんな採れたての鮮度を保ってるのは初めてだ。毛皮なんかもこんなにキズが少ないのは珍しい」

 「包み紙には鮮度保持の効果があるものを使ってるので」

 「んじゃ紙ごと買い取って良いか? 当然その分上乗せすっから。この紙いくらだ?」


 スキルちゃんや、これおいくらダルにする?


 「えーと二千ダルです」

 「なんだと? 安かねぇか?」

 「そ……そうですかね?」


 熊は二体で十万ダル。サンドハウンドはホーンラビットとほぼ同じで一体一万ダル。五体いるので、熊と合わせて十五万ダル。そして包み紙二千ダル。


 あれこれ包み紙全部合わせて二千ダルのつもりだったのに……?


 買取明細には一枚二千ダルで合計十四万ダルになってる。こわい。これで安いって思われてるの? 紙の物価怖い。


 多分今売った魔物より市場に出まわることがないのよね、紙……きっと。


 とにかく素材そのものの代金は、仕留めた奈々美さんとアシャールさんに渡し、わたしは包み紙の代金の半分を猫の目貯金にして、残りを懐に納めた。


 しかしうちのパーティはこれらの獲物、難なく仕留めてるけど、普通はそうはいかないわよねぇ。

 仮にホーンラビットを一日一匹仕留めても日給一万ダルにも満たない上に生活しながら装備を整えたりしないといけないんだから。春さん本当に大丈夫かしら……。

 わたし達も落ち着いたら、何か仕送りしようかしらね。保存食とか。日用品とか。

 まあ、そういうのができる状況になればなんだけど。


 「香子(かおりこ)さん、買取終わりました? こっちは済みましたよ」

 「買取の方も終わったわ。アシャールさんと搬送隊の人達も待ってるだろうし、はやく戻ろうか」

 「香子さんムウさんの抱っこ変わりましょうか?」

 「ありがと。ちょっと腕が疲れて来ちゃった」


 ミケ子とピホは仲良く鞄に入ってるけど、ムウは甘えん坊で抱っこの方が良いらしい。

 そうやって冒険者ギルドから出ると、アシャールさんがキトキトコンビと出迎えてくれる。とても良い笑顔で。

 大きな馬車を背に。


 「まさかここで造ってたの?」

 「大体の設計は頭の中でできていましたので」

 「キト!」

 「キトキト!」


 キトキトコンビが馬車の前で鳴くと、自動的にハーネスが現れて、装着される。

 わたしと遠巻きに見学していた人達は、思わず拍手をした。


 「さ、乗って下さい」


 ステップはわたしの足の短さを考慮されていて、涙が出そうになった。

 内装はまさに想像していたキャンピングカーそのもので、エアコンまである。そしてトイレとシャワールームに歓喜しかない。

 ちゃんとキッチンスペースや、冷蔵庫代わりの貯蔵庫もあるし、リビング側の前方とベッド側の後方をカーテンで仕切ることもできて、着替えも快適。奈々美さんオーダーのキャットウォークもあるのよ。


 「すごいわ! アシャールさん」


 一応本人の要望で、アシャさんと愛称で呼んでたけど、やめた。今なら許される気がする。


 「もっと褒めてくださっても、構いませんよ」

 「アシャールさんと結婚して良かった!!」

 「そうでしょうとも!」


 わたしがアシャールさんを褒め称え、そのアシャールさんの様子を奈々美さんが生温く見守っている間に、キトキト馬車は動き出した。


 奈々美さんが窓の外とアシャールさんを交互に見て慌てる。


 「あの、馭者、は?」

 「心配いりませんよ。シロとクロは賢いので、馭者がいなくても目的地までちゃんと運んでくれます」

 「あのでも、空飛んでません? この馬車……」

 「飛ぶでしょうね。シロとクロが飛びますから。ちゃんとそこも考えて造ってあるので、心配いりませんよ」


 アシャールさんは奈々美さんの驚きに、当然のようにそう返す。


 しかしわたしも訳がわからなくなってきた。

 引っ張り上げられているような違和感、感じなかったわよね? なんかとてもスムーズに動き出しましたよ?


 「あれ、でもなんでキトキトコンビ、馬車まで飛ばせる……の」

 「今朝特別なパナマ草を食べさせませんでしたか? 香子」


 食べさせました。不公平にならないよう、ムウ以外にもスキルちゃん農園のパナマ草を。

 あれで、レベルが上がったのか――!

 まあいいかな。成長するのは良いことだよね。


 その後ムウから一日大体三十リットルの生乳が採取できることが判明した。

 いやその小さい身体から出していい量じゃなくない?

 世界の謎がまた一つ増えた。

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