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ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


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15/19

15 なんか増えた

 「この度は助けていただいて、ありがとうございます。工藤春臣と申します」


 元勇者君は、きれいな土下座をした。


 キトキトコンビのような草食魔物やミケ子のような神獣がどうやってレベルアップしてるのか気になったから確認してみたら、質の良いご飯を食べることでステータス値が上がってるのが判明したのよ。それとともにミケ子の〈飼い主の元に絶対帰還スキル〉のレベルがアップして、自由移動可能になってたのよね。


 それでミケ子に勇者君を誘拐してもらいました。

 そんで即行勇者スキルを採取しましたよ。


 一応そこら辺の事情は、お手紙に書いておいたの。

 これでこれ以上の心臓の魔石化は止められたし、奈々美さんの治癒魔法で進んだ分の魔石化も回復できたので。一安心。


 「春臣君……春君で良いかな?」

 「あ、はい!」

 「ちょっと待ってください、香子(かおりこ)


 今まで大人しくしていたアシャールさんが、手を挙げた。


 「はいどうぞ、アシャールさん」

 「春臣を春と呼ぶ前に、私をアシャと呼ぶのが先でしょう!」

 「じゃ、次回から気が向いたらアシャさんね。はい、次どうぞ」


 私は挙手してる奈々美さんを見た。


 「私達てっきり春さんは男子校生だと思ってたんですけど、合ってます?」

 「すみません。僕コスプレイヤーなんです。あれ、上着着てるからいけると思って衣装のままでした。正体は二十四歳社畜です」

 「……それでもやっぱり歳下」


 奈々美さんがぼそっと呟く。きっと歳上だからしっかりしないととか思ってそうなお顔だわ。


 「あらじゃあ、春君じゃなくて春さんね」


 わたしも認識を改めた。まあ、あの一瞬じゃそこまでわからないわよね。


 「あの、皆さんの年齢もお伺いしても? その、せっかく知り合えたわけですし?」


 「こちらはうちのパーティのリーダー、フェイ族の神官、アシャールさん推定六百歳です。ミケ子は大体生後三か月、あと生後数週間くらいのキトキトコンビがいて、わたしは猫柳香子(かおりこ)四十六歳です」

 「「ええ?!」」


 春さんと奈々美さんが同時に驚いた。


 「てっきり香子さん、三十半ばから四十手前くらいかと……」

 「あ、僕もそのくらいかと……」

 「中身が幼いからねー。美魔女と違う意味で年齢不詳ってよく言われるの」

 「……香子さんは、中身もしっかりとした素敵な大人ですよ。私は紡木奈々美、二十六歳です」

 「やった! 褒められちゃった。奈々美さんはやさしいな」

 「事実ですから」


 わたしと奈々美さんが、きゃっきゃうふふしてる横で、割と真剣な顔でアシャールさんは春さんに圧をかけた。


 「香子は私の妻です。まずそのことを心得ておくように」

 「え? はい。あの、そういう心配は無用です。ここではどうか知りませんが、僕らのいた世界では、香子さんと僕の歳の差は親子ほどなので、一般的にお互いそういう関係の対象にはなりませんので。はい」


 わたしも頷く。まあ世の中例外もあるだろうけど、わたしはそこ、一般的な方ですよ。


 「わかりました。では奈々美さんですが」


 私ですか? と奈々美さんは自分を指差す。


 「彼女は私と香子にとっては娘のようなもの……。不埒な目的で近づこうとするならば、わかりますね?」


 アシャールさんはそう言って、親指で首を落とすジェスチャーをする。

 わたしと奈々美さんはポカンとして目配せし合った。

 わたしは普通に奈々美さんのこと、歳の離れた友達だと思ってるんですけど?

 だって勝手に自分の子の様になど、ここまで立派に育てた日本の親御さんのことを思ったら、図々しくて言えないわ。奈々美さん本人の気持ちもあるし。


 でもアシャールさんはそんな風に思ってたのか! さすが図々しさが天元突破したイケメン!


 「まあまあ、それで春さんは今後どうしていきたいの?」

 「どうもこうも、スキルも何にもない状態だしね。かと言って腐ってもられないし、冒険者ギルドがあるなら、ここで冒険者からはじめるかな」

 「わたし達と来ない?」


 春さんは首を横に振った。


 「無理。きっと僕、助けてもらっておいて、香子さんたちを恨んでしまうかも知れないから。同じ召喚者なのに、なんでこんなに違うんだろうって」

 「そっか……立場が逆だったら、きっとわたしもそう思っちゃうかもね……」


 春さんは何も悪くない。ただ運悪く勇者というハズレに選ばれただけだ。

 同じ境遇でハズレとアタリが居れば、比べてしまうのは当然で。潔い判断だと思うけれど、やっぱり心配になっちゃう。


 わたしは空間収納から、造りたてのボディバッグを出す。


 「これは餞別。マジックバックよ。中にテントとか手袋や短剣とか細々としたもの入ってるから。このロゴマークに魔力を流したら、春さん専用になるからね」


 グランヒュームの宰相さんから貰った支援金も少し入れておく。


 春さんは大切に受け取ると、泣きそうになりながら笑顔を作った。


 「ありがとう。僕を見捨てずにいてくれて」



 翌日わたし達は王都へ向かい、春さんは冒険者ギルドでまず一歩、自分の運命を切り開く為に歩きだした。



 「キトキト」

 「キトキト」


 やめて。

 キトキトコンビはほんの一日二日会えなかったのが、よほど寂しかったのか。二匹の胴でわたしを挟むようにくっついて周り出した。それからドスンと伏せると、じっとわたしを見つめてくる。


 「キトキト」(乗って)

 「キトキト」(乗って)

 「ごめんね。わたしの身体はひとつしかないのよ」


 キトキトコンビは、罪人を搬送するための馬車や、旅の荷物の積まれた馬車を見て、アシャールさんをじっと見た。


 「なるほど。リアカーを引きたい……と」

 「やめて下さい、夫よ。リアカーはアシャさんが引くのだけで充分です。乗り心地はシロやクロの方がよっぽど良いので」

 「さんは要りません。是非アシャと呼び捨てにして下さい」

 「わたしは今まで誰かを呼び捨てにするような環境に居たことが無かったので諦めて下さい」

 ずっとぼっちだったのでね。学生時代の友人も、ちゃん付けだったし。


 わたしは前回クロに乗ったのを思い出して、シロに乗った。ミケ子もわたしの前に、ちん、と乗る。アシャールさんがその後ろに乗った。

 必然的に奈々美さんがクロに乗り、わたし達は出発したのだ。


 さて、出発前にアシャールさんに注意された事がある。わたしの自動採取から魔物を除外しておくことよ。

 わたしが居るだけで、魔物に襲われ無いと知られると、誘拐されますよと脅されましたよ、はい。大人しくします。


 まあ実際にはスキルちゃんは抜け目なく、欲しい魔物素材は先に採って、残りを対象外にしているようですね。素材収納に知らない蛇とか増えてますよ。

 わたしは大人しく、シロの上で春さんに渡したテントの代わりをスキルちゃんと作る。今度のテントはワイバーン皮製よ。


 道中心配することなく、ホーンラビットや、土属性のスキルを持つ犬型の魔物、サンドハウンドや熊の魔物なんかとは、ちゃんと遭遇した。


 同行の冒険者さんや自警団の人達がいるので、討伐には余裕があった。ただ熊が二体同時に出た時は、一体を奈々美さんが討ち取り、同時にアシャールさんが素手でもう一体の熊の首を絞めて落としたので、わたしが素材にしました。


 アシャールさんがその細腕で、熊を素手駆除しちゃったことに、周囲が騒ついたので、やっぱりこの人といると目立つわね。


 そして道中の魔物討伐が順調だったので、予定時間より早く野営場所についてしまった。

 ミケ子はこれからが遊びの時間だし、キトキトコンビはまだ運動したりないようなようす。


 「アシャさん、わたしキトキトコンビに運動させてくるついでに、奈々美さんと沐浴済ませてくるわ」

 「でしたら私もご一緒します。少し待っていて下さい」


 アシャールさんが搬送隊の隊長さんに許可を得て、わたし達はキトキトコンビを空へと走らせた。


 キトキトコンビはわたしが存分に素材採取出来るよう、近くの森の上を周回し、沐浴用のテントが張れる場所を見つけてくれた。

 透き通るような美しい湖と草花がある絶景だ。わたしと奈々美さんは、まず写真を撮りまくった。


 奈々美さん、わたし、アシャールさんの順に沐浴をすることにして、奈々美さんが沐浴しているあいだに、わたしは素材採取よ。

 まずはお水。鑑定にスキルで採取すれば飲料可能と出たので、たっぷりいただいていく。水草とか、中にいる貝も食用みたいなので。


 ここで、わたしが驚く事件がおきた。

 キトキトコンビが湖で水浴びをはじめた……のを見て、ミケ子が湖にドボンしたのだ!


 ネコ ミズ ニガテ。の筈?


 わたしが毎日沐浴後のお湯でミケ子を洗っていたからか、余裕で猫かきでキトキトコンビに向かっていく。良かった!!!

 わたし泳げないからどうしようかと思った! 良かった!! ライ様万歳!!

 わたしはスマホを取り出して、ビデオ撮影のボタンをポチッとしましたよ。


 せっかく景色の良いところに来たので、沐浴が終わるとそのままそこで、お茶と夕食にした。


 「馬車をね、作るのはどうでしょう」


 おもむろにアシャールさんがそう言った。


 「キトキトコンビが引きたがるから?」


 わたしは自然な流れでキトキトコンビに目を向けて、そして目を見開いた。

 あいつら湖の中から何か拾って来たわよう?

 しかもそれをミケ子の前に恭しく差し出してる。これミケ子や、そんな目でわたしを見るでな……あっ、あっ、めっちゃかわいい♡


 「みゅ」

 「え? 温めろっていうの?! その卵も」


 わたしは諦めて卵を一旦採取して(こうしたら、汚れとか色々とれるのよ)、いつもの鞄に入れて膝の上に置いた。今回も二つある。更にミケ子も膝に乗って卵鞄にくっつく。


 「シロクロが引きたがるのもそうですが、そろそろ奈々美さんは流出の時期が来ますよね。今みたいに大勢と行動するならその方が良いかと」


 流出……フェイ族流の月のもののことね。前回はリアカーと悩んだけど、結局クロに乗って貰った。リアカーは揺れがひどいからね。それでもぐったりとしんどそうだったもの。


 「あ、そうね! キャンピングカーみたいな馬車ってできる? 寝るとこやトイレや身体を洗うとことかあるやつ。車体重くなってだめ?」


 わたしは前のめりになった。


 「軽量化の魔法も使えば大丈夫でしょう。腕がなりますね」

 「あのね、おトイレはこんな感じにしたいの……、あ、奈々美さんも遠慮なくオーダー出しておいた方がいいわよ」


 わたしは元の世界で使ってた手帳と万年筆を取り出して、簡単な図を描きながらアシャールさんに説明する。

 奈々美さんは、はっとして言った。


 「キャットウォークが欲しいです。できれば透明な……。あ、でもそれよりもまず、その子達が生まれてからにしませんか? 必要なものが増えるかも知れませんし……」


 奈々美さんはわたしの卵バッグを見た。


 「湖の中で拾っても、〈森のたまご〉なのね」


 わたしはぽつりと呟いた。

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