13 紫ローブの憎いこンちくしょう
「一体何がどうなってるんだ!」
現状を見て、フェイル王国辺境の国境の町、その冒険者ギルドのギルド長は驚愕した。
冒険者ギルドの入り口に、ワイバーンを二匹もった、変わった甲冑姿の白いやつがいる。
白甲冑は窓口にいるタークを見た。
「更新手続き終わりましたか? あとこれ買い取って下さい」
「あんた〈猫の目〉の人かよ! あの黒いのに乗ったカオリコさんは……?」
「私ではこれ以上どうにもできないと思って、一旦こちらに来ました。リーダーはやく合流しましょう」
奈々美はアシャールを見る。彼はゆったりと頷いた。
「どんな状況ですか」
「森から大量のワイバーンの団体が現れました。群れてるおかげで、香子さんのスキルで一網打尽です。でもその後、二団、三団と発生してる状態です」
奈々美はびしっびしっと手を出して、タークに冒険者証とワイバーンの代金を急かしながら報告する。
町の外壁の警備を担当する自警団からも人がきて、ギルド長に確認した。
「おい、あの黒い魔物に乗ったのは、あんたが派遣した冒険者か? とんでもない傑物だぞ。この辺境にどうやってあんな高ランク冒険者を」
「みゃあっ!」
「キーーーット!!」
ミケ子とシロが突然鋭く鳴いた。
アシャールは奈々美にミケ子を渡す。
「香子が攻撃を受けました」
「!!!」
「主の加護により無事ですが、迎えに行きます。奈々美さんは、ゆっくり来てください。ワイバーンの代金を忘れ無いように」
「……わかりました」
相手を絶対殺す。アシャールの顔には、明確にその意思が表れていた。
その少し前。
森は森ではなくなっていた。
突然森の約半分の地帯の木々がなくなり、それにより足場として脆くなった地面で慌てふためく者達がいる。
「あっらー」
ビンゴだったわ。本当に人為的なものだったじゃない。
とりあえず近づいて、何やってんのか聞いてみよっかな。
「クロ、よく見えるとこまで近づいて」
「キトキトッ」
「撃てーーーー!!!」
号令が聞こえた瞬間、炎の塊が目の前に迫った。
「げほっ、かほっ」
炎と魔力は自動採取されていったけど、煙とか一緒に舞い上がってきた土や埃なんかは、貫通してきた。
おのれ、お前らも素材にしてやんよ。
煙や埃も全部素材収集して、まとめて返してやる。
炎の攻撃は続けてやってくる。わたしは攻撃を採取しながら、パナマ草を出してクロの口に入れた。自分の口にも葉を数枚入れて、噛む。魔力と体力の回復だけじゃなく、煙の有毒物質からも守ってくれるはず。
わたしは服の上から、ライ様の加護付きネックレスに触れる。
ほんのり、奈々美さんの治癒を受けた時のような、神聖な魔力を感じる。この加護、今発動してるんだ……。わたしとクロを守ってくれてる。
こういう攻撃って、魔物相手にするものなんじゃないの? 人に向かってなんて、マナーがなってない。
「はあ……」
思い出しちゃったわ。旅の途中でアシャールさんに聞いた、あの国が勇者召喚をしてた理由。
表向きは魔物の討伐。
だけども実際は、こっそり大量の魔物に他国を襲わせる。その国で対処できなくなった時に、勇者を派遣して恩着せがましく魔物を討伐。何も知らない民衆が勇者を讃えはじめたタイミングで国を乗っ取り、国土を広げてきたという……。つまり自作自演ね。
もうマナーとか悠長に言ってちゃダメよね。
向こうの攻撃が途切れた。
魔力が尽きたのだろう。
わたしは採取しておいた煙を、彼らの足元に出現させた。
「ごほっげほっ、なんだこの煙は」
慌てふためく彼らの中に、見覚えのある紫ローブのちょび髭を見つけて、わたしは決心した。
人も素材にしよう、と。
いける? スキルちゃんや。
《もう少し近づいてー》
「おい! 魔導具の充填はまだか?! 敵が近づいてくるぞ」
勇者君の話を聞いてから、時々考えてた。他人のスキルだけを、素材として採取できないか。
スキルちゃんの答えは、『スキルは素材』。
それからずっと、イメトレしてたのよ。
ここに居るのは、グランヒューム王国の魔導士団。まさにスキルの宝庫。
わたしは彼らのスキルと魔力を、一斉に素材採取した――――。
わたしの素材収納空間に、彼等のスキルはきれいに収納される。
彼らがとんでもない数のワイバーンを用意してくれたおかげで、わたしのスキルレベルもSSー六に上がって、スキルちゃん達もドヤドヤなのです。
〈素材採取〉と〈生活魔法〉のスキルは連動していて、どちらのスキルも同時にレベルアップしていた。
「お前……! その太った身体、あの時の異世界人か!!」
紫ローブのちょび髭が、わたしを指差した。
これでも旅の間に五キロは痩せたのよ。まあお太り様の五キロは誤差の範囲だけども。
「その力はなんだ?! お前ら、あのデブを捕まえろ!」
「無理です!! もう魔力が……」
環境破壊は良くない。わたしは、採取した木々を森に返還しはじめた。外側からじわじわと。当然、暴言への返礼ですよ。
「ヒィぃぃ」
突然迫ってくる森に、魔導士達は驚いていい具合に固まってくれる。位置的にも、動作的にも。
でもわたしも内心、冷や汗をかいてるのよ。
紫ローブの足元にある、菱形の水晶のような魔導具……あれが魔物を大量に出してたのよね? なんだか勇者召喚魔導具と同じ気配がするのよ?
あれ、対戦したら、わたしが寝ちゃうやつでないか?
伝説の魔導具って二つで終わりじゃなかったの?!
毎回対戦後にわたしを支えてくれた、奈々美さんが恋しくなる。けど、人を傷つけるこの盤面に、奈々美さんはいて欲しくないというこのジレンマ!
うーん、どうしよう。とりあえずこの人達は逃しちゃダメだから、体力も素材として収集しちゃおうか? できる? できちゃう? よし、体力は素材。
魔導士達が、ぱたぱたと倒れる。
体力を失ったらどうなるか。まあ、疲労で寝ちゃうわよね。
だけど数人、体力の限界でも起きちゃってる人がいる。ここら辺は個人差ね。ちょび髭紫ローブもいるわ。参ったなぁ、この人達はどうしよう。煙も風で流されちゃったしね。
殺したくはない。
大事な証拠だし、情報も取らなきゃでしょ。
わたしが悩んだ一瞬に、起きている魔導士達は突然激しく怯えだした。
「フェ……フェイ族……!!」
ん。アシャールさん?
振り向くと、予想通りアシャールさんがいた。クロに乗って空を飛んでいる、わたしのそばに。
「生を手放す覚悟はできましたか?」
わたしのそばに。神より神々しく残酷に、冷たい刃のように、アシャールさんはいた。
その背に六葉の翼を広げて。
翼は、天使のように鳥の羽根のように広がっているが、透明な妖精の羽根が幾つも重なって出来ている。それは陽の光を反射して、魔道士達の地面に七色の火焔模様を描いた。
とてもうつくしいのに、とてもおそろしい。
きっとアシャールさんは、顔色ひとつ変えずに、魔導士達を皆殺しにするのだろう。
「ダメよ」
わたしはそっとアシャールさんの手に触れた。
「妻を攻撃されて、無関心な夫ではないのですよ。私は」
すごく険しいお顔だ。アシャールさんのこんな表情ははじめて見る。悪くない。
わたしはアシャールさんの手を引き寄せて、もう片方の手でふわふわとその手の甲を撫でた。
アシャールさんは虚をつかれたように目を見張ると、小さな声で囁いた。
「そんな風に宝物のように大切に、私に触れる人はいなかった……」
そうなん? 長く生きてるから、忘れてるだけじゃないんかな。まあ、わたしもね、大切にしますよ。アシャールさんはわたしを大切に扱ってくれる人なので。
それから、頼りにもする。
「アシャールさん、あの人達は殺しちゃダメよ。悪事の証拠が無くなっちゃうから」
わたしはそのままアシャールさんの手に、空間収納から取り出した、大量の縄を掴ませる。魔物の毛とか素材にして編んだ、丈夫な縄を。
「わたしはアレと対戦するから、あとはよろしくね」
にっこり笑って。
わたしの目はアシャールさんを離れて、魔導具を見た。
対戦、お願いします――――!
そしてわたしの意識は、眠りの底に沈んだのよ。
「今回は僕の負けだね」
何もない空間で、気怠気に、何もないところに座っている青年がそう言った。
その身体より大きい、背中の十二枚の翼が彼がフェイ族なのだと示している。
そして誰かに……そう、ライ様にちょっと似ている。それにミケ子やアシャールさんと同じ瞳の色。なんだか近親感が湧いちゃう。
彼の下には、五つの魔導具がある。その内二つは影になってよく見えない。見覚えのある二つは砂を固めたかのように、ザラザラで灰色に見えた。
菱形の水晶のような魔導具だけが、現実で見た姿のまま、そこにあった。
「これは魔物を生み出す魔導具だよ」
「生み出してたんだ……どうしてそんな神様みたいなことが」
可能なの?
わたしが呑み込んだ疑問の言葉を、彼は読み取ったようだ。微かに笑う。
「僕の母は、偶然出会ったライフォート様に恋をした。そして聖女となり、神へ祈りと共に恋を語りかけたんだ」
なるほど。ライフォート様の息子さんなんだ。だから?
彼は頷いた。
「僕の話は聞いてるんだろう? 僕の恋人はあの父親と血が繋がってるとは思えないほど美しい人だった。ココがだよ」
彼は自分の胸を指差した。
「そして、強かった。僕をあの国の魔導具造りから解放するために、自ら命を絶ったんだ……。その魔導具は、」
彼は魔物を生み出す魔導具を見た。
「彼女が死んだ後に、世界など滅びればいいと思って、造ったものだ」
そして彼はその魔導具で生み出した魔物に、自分を食べさせたらしい。
その後、持ち主の居なくなった魔導具は、グランヒュームの王宮に回収されて、勇者の侵略行為に利用されていたのだ。
「念入りに解体して素材利用させていただきますので、成仏してくださいね」
多分彼は、魔導具に宿った残留思念のようなものなんだろう。うん、正解。鑑定でもそう出た。
こうやって姿を現したのは、対戦相手としてわたしを認めてくれたからと思っていいのかな。
「さて、世界を救った英雄に名乗らずにいるのは失礼だったね。僕はリシャール。親しみを込めてリシャと呼んで欲しい」
「誰かと同じようなこと言いますね」
名前も似てるんだわ。
「アシャールは僕の双子の妹の子孫だからね。僕の最高傑作の魔導具のうち、残り二つはグランヒュームに囚われる前に造った害のないものだ。もし出会ったら、好きにするといいよ」
「様子を見て決めます」
「そうするといい」
ゆらりと視界が歪む。目覚めが近いのだろう。
「ああそうだ。僕の羽根はアシャールにあげるといい」
最後にリシャールさんは、そう言った……。
素材採取には成功したことはしたけど、どうやら本体の水晶部分と他のパーツを分けた状態で保存してあるだけのよう。
羽根……あの魔導具を素材として更に分解したら出てくるのかしら。
もっとも、それを確認するのは随分後になるのだけれど……。
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