表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜  作者: 天三津空らげ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

10 素材にできない!!

 菅笠と猫ケージの次に、スキルちゃん達が作ったのが、歯ブラシや下着類。それからシャベル、手袋、水筒、靴、靴下、脚絆、鶴首スポイド……などなど。


 いつのまにかバイオプラスチックを製造するようになった生活魔法スキルちゃん、続けてアルコールスプレーや化粧水など、どんどん作って行く。そしてテントとテントに敷くマットレスもなのです。

 アシャールさんもテントを持っていたが、そちらのテントは、交代で身体を洗う時に使うことにした。


 沐浴用の桶は、前の貸家で新品を用意してもらったので、失敬してきました。一応その分の代金は……というかそれも貰った支援金からだけど、置いては来た。だからお風呂ほどではないけど毎日身体を洗えるし、洗い立ての服に着替えられるし、結構贅沢な旅路になっているのよね。


 洗い物は、わたしの頼もしいスキルちゃんの空間に収納すれば、随時素材収納してる水や日光と、汚れ具合によってちょっとの洗浄素材を使えばあっという間に乾燥までできるし。



 わたし達の旅は、今のところゆっくりとした徒歩だ。


 日中アシャールさんはホーンラビットが出ると、奈々美さんに弓の使い方を教えながら狩りの指導もしたりする。

 わたしも体力をつけないといけないので、午前と午後に可能な限り歩いてから、リアカーでドナドナされる。わたしが歩く間は、ミケ子も隣を付いて歩くようになった。かわゆい。かわゆす。


 しかし、どんなに歩けるようになっても、速度が……と言われて、わたしは奥歯を噛み締めちゃうよ。


 奈々美さんもスキルを使いこなすため、日中は足だけ〈外殻装甲〉してすごし、暗くなったら、フル装甲でアシャールさんと鍛錬をしている


 「まずは完全に回避することを覚えて下さい」


 アシャールさんが植物性の染料(わたし製)で先を濡らした枝を持ち、白いヒーローボディの奈々美さんを軽く打ちつけていくのよ。当たれば色が着くので、どこらへんが死角になってるのか、わかりやすい。

 日を追う毎に、色がつかなくなっていくのも、見ていて楽しいのだ。


 回避を覚えると、受け身の取り方、魔力の扱い方とアシャールさんの授業は進んでいく。そして。


 一カ月もすれば、奈々美さんは森のなかでも自由に駆け、枝に飛び乗ったり飛び降りたり、そしてとうとうホーンラビットと余裕で対戦できる、立派な狩人になっていた。


 手からビームではなく、魔力の矢を幾つも降らせながら。


 スキルレベルが上がり、奈々美さんのヒーロー姿も装甲が増えレベルアップしていた。カッコいい。そのうち空も飛ぶかもしれない。

 わたしは見学しながら拍手を送って、スマホで撮った動画をライふぉする。ライふぉは主神ライフォート様に、画像や動画を送れるアプリ……普段はミケ子を送ってるけど、たまには良いよね。


 そうして過ごすある夜、とうとう二つの森のたまごが孵化したのよ……。


 真っ白だけど、脇から背に向けてホワイトオパールのように色んな色をゆらめかせる飾り羽がある子。漆黒の中に、鴉のように光の加減で青や緑の色が煌めく飾り羽がある子。

 四つ足で馬に似ているけれども、身体に鱗があり、ふわふわの鬣。尾っぽも先がふわふわ。頭頂から後頭部に向かって先端が下向きにカーブした短い一本角の先に丸みがあり、全体が頭部と同じ短い毛のある皮に包まれている。黒い子の方は角が枝分かれしていた。

 知っている幻獣に例えると、麒麟によく似ているかも? いまいち自信がないのは、二匹とも脇の羽に羽毛だけじゃなくて、妖精のような薄い羽根も混ざってて、角の根本には、金色の紋様があるのよ。お顔には毛が生えてますしな。それにそんな厳ついお顔はしていない。なんか可愛いのだ。


 しかも二匹とも、成猫ほどの大きさで、わたしの両脇でわたしの腕に顎をのせてすやすやねておる。手足伸ばして。これやばくない? 野生捨ててない? スキルちゃん、わたしこの子達素材にするの多分無理……。

 スキルちゃん達も慌てて緊急会議をはじめたわよ。


 アシャールさんは枕元にあるわたしのスマホを手にすると、頭にミケ子、両手に謎魔物を抱えた、まだ寝起きでぼーっとしてるわたしの写真を撮ってライふぉする。


 やめたまえ、それは神に捧げて良いもんじゃないがやよ。


 「おはようございます……香子さん、もふもふが増えてませんか?」


 起き出した奈々美さんも、さっそく鑑定図鑑をめくる。


 「えーと、〈キトキリン 人や他の魔物を襲わない温厚な魔物。騎獣に最適で背に乗ったものを決して落とすことはない。スキルを持つ希少な魔物。幸運を運んでくれる……と、神の設計図にはあったが、実際この世界に生まれたのは、この二匹がはじめて。美味しいパナマ草しか食べない超希少魔物〉だそうです」

 「これは、たまごガチャで大勝利したと受け取っていいのかしら?」


 便利なパナマ草がまた消費されしまう。どこかにパナマ草農園を作るしかなくない?

 わたしは密かに異世界でも、日本での普通の生活のような便利で贅沢な生活をしたいと思ってるのよ。それにはお金を稼ぐ手段が必要だけど、パナマ草は今のところお金を稼ぐ手段に直結しない。

 だが、わたし達の生活の質を上げることにパナマ草は不可欠なわけなのだよ。


 たとえばわたし達は朝起きたら、それぞれ別々の場所に向かう。おトイレのためにね。

 物陰になるような所に穴を掘っておいて、用を足してパナマ草の茶殻入りチリ紙を使って拭く。それを穴に一緒に入れておけば、どういうわけか土に還るのもはやく臭いもしない。

 ついでに手洗いの代わりにこれまたパナマ草紙と殺菌効果のある薬草のエキスを使って作ったウエットティッシュで手を拭いて一緒に穴に捨てる。立ち去る時には、穴を埋めておけばいい。


 月のものの時も、このパナマ草紙をうまく加工して、使い捨ての経血を吸い取るパットを作ることができた。大きめに作って、ミケ子のトイレの底にも敷いている。

 これを使うと生理痛も軽くなると、奈々美さんから大絶賛だ。

 わたし? わたしは二年前から止まってるから気楽なもんよ。はじまるのも早かったから、終わるのも早かったんだ。

 はじめは更年期障害のことを考えて不安になったりもしたが、そんなことより毎月の言い尽くせぬ諸々の煩わしさから、解放された喜びと快適さの方が大きかった。健康診断で貧血判定されることもなくなったしね。

 

 うん、これはもうパナマ草農園を作るしかないわ。

 となると、土地が必要よねぇ。異世界の地価ってどんな感じなのかしら。


 とりあえず三人と一匹集まって、朝のパナマ草茶にする。わたしはもうわざわざ鍋を出さなくても、スキルの空間の中でお茶を製造できるようになっていたので、各自のコップに注ぐだけなのです。

 今日は森の一画をキャンプ場にしていたので、緑の中で一服する。

 雨が降りそうな時は、町のなかの宿をとるときもあるが、これからしばらくはあまり雨が降らない時季らしく、キャンプ生活が続きそうだった。


 森のたまごから生まれた魔物達は、においを嗅ぎつけたのか、テントから出てくるとわたしの足元に額を擦りつけておねだりして来た。そう……パナマ草な。


 どれだけ食べるんだろう……。


 わたしはとりあえず一掴み分のパナマ草を少しずつ与えてみる。わたしから奪い取るようなことはせず、二匹は大人しく、しかし真剣にパナマ草を食べはじめた。


 「新種の希少魔物ですか……」

 「やっぱり問題ありです?」

 「珍しいものを連れているという点では、ミケ子さんがいるので、今更ですが、私も自然に発生した新種の魔物は三百年くらい見ていないので、珍しく思っているんですよ。よく食べますね」


 二匹とも一掴み分はとっくに食べ終わって、三掴み目に突入している。

 気のせいじゃなければ、ちょっと大きくなってないかなー? 君達。

 ちょっと撫でようかと手を伸ばすと、キトキリン達は嬉しそうに寄ってくる。やっぱりこれは素材にできんちゃねぇ。


 《抜け毛や抜け鱗など常時採取対象にします》


 そかそか。それでいこう。


 「キトキトー」

 「キットキトー」

 「鳴き声がそうなんだー。そやねぇ君達きときとやちゃ。……海鮮市場にでも来た気になるわねぇ」

 「きときとって、方言ですか? どんな意味ですか?」

 「新鮮で生きがいいことを表す方言よ」

 「きときと、私も覚えます! 美味しいパナマ草しか食べないって、香子さんがいないと生きていけない魔物ですね……」


 奈々美さんがもう一匹を撫でながらそう言う。


 「……ここから鱗になってるんだ。私魚の切身以外で鱗のある生き物に触るの初めてです」

 「そうね。わたしも爬虫類系の鱗は初めて触るけど、恒温動物に鱗って大丈夫なの??」

 「鱗の部分はひんやりしてるんですね……」

 「謎ね」

 「謎ですね」


 わたしは適当な入れ物に水を入れてやる。二匹はガブガブ飲みだした。


 「うーん、シロとクロでいいかしら」

 「全員毛色が名前ですね」


 さりげないアシャールさんの言葉に、わたしは一旦考え直した。


 「じゃあ、シオとコショウにする……?」

 「私はシロとクロでいいと思いますよ。全員毛色で良いじゃないですか。覚えやすいですし」


 奈々美さんの援護で、シロとクロに名前が決定した。

 気づけばミケ子が私の膝の上で、シロとクロを見下ろして、余裕の顔を見せている。まだ幼猫なのに、お前達わたしの下僕と言っているような貫禄があった。



 


 アシャールさんが朝食をつくり始めたので、わたしは朝の散歩兼素材採取に出かけることにした。

 パナマ草茶を飲み運動し休息をとる。体力作りにはまあこの地道な習慣よね。


 「ミケ子、奈々美さんをよろしくね」

 「みゅ」

 「……こんなにのんびりで良いんでしょうか……」

 「そゆこと気にしないで楽に過ごして。アシャールさんもそう言ってたでしょ。じゃあウォーキングしてくるから」

 「いってらっしゃい。気をつけて」


 奈々美さんは二日前に月のものが始まったのでなるべく身体を休ませるようにしてもらってる。

 なんでも長命であるフェイ族の女性は半年に一度しか生理がなく、期間中は魔力も乱れるし血の匂いで寄ってくる魔物もいるので、繭宮という保護結界のある施設に集めて、家事も仕事も休んで貰うそうだ。

 そういうコミュニティで育ったからか、本人よりアシャールさんの方が奈々美さんの休息に積極的だった。


 「何せ流出期間(毎月ある訳じゃないので、フェイ族ではこういうらしい)中に効く薬はないと昔から言われていますからね」


 んあああ。この世界、鎮痛剤とかそういうのなかったりするのかぁ。


 という訳で、ホルモンバランスを整えたり期間中の諸症状に有効な素材も見つけたい。あとビタミンC豊富な果実とかもね〜。

 歩きだしたわたしの後を、シロとクロが付いてくる。

 うん、この子達もミケ子も、わたしより足が短いのに、なんでわたしより足が速いかね。まったく世界は不思議だらけだわ。

もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ