第3話 薬を忍者に託して唯一の味方だった皇太后様へ届けたいんです。
「……できた」
昨日、アルヴィナ王国の皇太子ノイル様に保護されたルキは
早速、自動書記の力を使って薬を作っていた。
小さなガラス瓶の中で、青く透き通った薬液が揺れている。
ルキの指先は、薬草の香りに包まれながらもまだ少し震えていた。
アルヴィナ王国の王宮、借りた台所の片隅で、手に入る素材だけで仕上げた薬――。
それは、自動書記の力で導かれた“特別な薬”だった。
「君、本当に不思議な力を持ってるね。手が勝手に動いて……まるで神話のようだ」
ノイル皇太子が、驚きと尊敬が混ざった表情でこちらを見ている。
ルキは照れ隠しに笑いながら、瓶の蓋をそっと閉めた。
「普通の人には見えないって言われてたんです。でも、ノイル様には……ちゃんと見えるんですね。不思議です」
「それもきっと、何かの縁なんだろうね。……その薬、誰のために?」
「……隣国、ソレイユ王国のカミラ皇太后様へ。あの方だけは、最後まで私を信じてくれた人です。今も重い病で倒れていて……どうしても助けたいんです」
ルキの声が少し震えた。
「分かった。僕の忍びに託そう。彼らなら国境を越えても、誰にも気付かれずに動ける」
静かに現れた黒衣の忍びが、ノイルの前でひざまずく。
「殿下、ご命令を」
「この薬を、ソレイユ王国のカミラ皇太后に。安全に、確実に届けてほしい」
「はっ」
忍びは薬の瓶を丁重に受け取り、ルキに静かに一礼して、闇の中へと消えた。
――これで、少しはカミラ様の力になれるかもしれない。
「ありがとうございます、ノイル様……」
こみ上げてきた涙を慌ててぬぐう。ノイル皇太子は優しく微笑んだ。
「礼を言うのはこちらだよ。君の薬が、きっとカミラ様を救ってくれる。……君の優しさが、僕には何より嬉しい」
ルキは小さくうなずいた。
――夜の静けさの中、ルキは小さく祈った。
(どうか……カミラ様、ご無事で――)