第10話 自動書記の力で疫病の危機を回避したら、大臣にも認められました
国の隅々から、胸が締めつけられるような重い報告が次々と舞い込んできた。
「謎の熱病が猛威を振るい、村人たちが次々と倒れている」――そんな不安の声が、ルキの耳に繰り返し届く。
彼女の胸は張り裂けそうだった。
「このまま放っておくわけにはいかない……誰かが立ち上がらねば」
机の上に広げられた自動書記のノートをじっと見つめ、震える指でペンを取る。
「この疫病の正体は何なのか……どうか教えて」
筆は揺れながらも滑らかに動き出し、たちまち文字が浮かび上がる。
《原因は一つ。国東部にある水源が何者かに汚染され、そこから病が広がっている》
その言葉に、ルキは息を呑んだ。
「水源……そんな身近な場所に原因があったのか」
彼女はすぐさま古文書や現地からの報告を調査し、被害の深刻さに胸を痛めた。
村の泉は異臭を放ち、住民の多くが高熱と激しい咳に苦しんでいた。
慌ててエルディン大臣の執務室へ駆け込み、息を切らしながら切迫した声で報告する。
「大臣、この疫病の根本原因は水源の汚染です! 一刻も早く対策を!」
エルディンは深刻な表情で頷き、ルキのノートに視線を落とした。
「よく見つけてくれた、ルキ。即座にその水源の封鎖と浄化作業を命じ、衛生管理の徹底を図る。
さらに国民への注意喚起も忘れてはならぬ」
「はい。自動書記の導きに従い、薬草を調合し治療薬の開発も進めます」
その時、ノイル皇太子が静かに近づき、決然と告げた。
「ルキの導きは正しい。すぐに医療隊を派遣し、物資輸送を滞りなく行おう」
ルキは皇太子の言葉に背筋を伸ばし、力強く頷いた。
「ありがとうございます、殿下。必ず国を守り抜きます」
彼女は薬草の香りに包まれた薄暗い調合室で、何度も試行錯誤を繰り返した。
冷たい水に指先を浸し、慎重に薬草を刻みながら、緊張の糸を張り詰めていく。
人々の苦しむ顔が脳裏に浮かび、胸は締めつけられる。
だが、決して諦めず、使命感に燃えていた。
数週間後、状況は徐々に好転し始める。
熱病は収まり、倒れた者も回復していった。
村には再び笑い声が戻り、安堵の空気が広がった。
ある日、エルディン大臣が静かにルキの元を訪れ、優しい笑みを浮かべる。
「ルキ殿、君の努力がこの国を救った。心から感謝している」
ルキは照れくさそうにしながらも、真摯に答えた。
「大臣様の迅速な判断と支援があったからこそです。これからも尽力いたします」
ノイルも彼女の肩に手を置き、力強く言葉をかける。
「君の力は、この国に欠かせない。共に未来を築いていこう」
ルキは静かに頷き、胸に新たな決意を固めた。
(どんな困難でも、私は乗り越えてみせる――この国と人々のために)
それが、彼女の新たな物語の幕開けだった。