第1話 追放された元ご神託巫女、森でオオカミに襲われそうになったけど、隣国のイケメン皇太子に助けられました
初めまして、なろう系挑戦してみます!
「……どうして、こうなったんだろう」
森の静けさに呟いたルキの声は、誰にも届かない。
“ミレナ様は本当にすごいのよ”――かつて囁かれていた言葉が、今も耳に残る。
あの人はいつも愛想が良くて、誰にでも感じよく接していた。巫女らしい優雅さを身に纏い、まるで太陽のように輝いていた。
周囲の評判はいつもミレナ様が一枚上手だった。
私が何を言っても信じてもらえず、誰も本当の自動書記の能力を持つ巫女をかばってはくれなかった。
それに、あの殿下までもが、ミレナの偽りに騙されてしまった。
“ルキを追い出したら、この国はだめになるわよ”――優しくも強く私を庇ってくれたカミラ様の言葉は、無情にも届かなかった。
殿下は聞き入れず、私はこの森の片隅に捨てられた。孤独と不安だけが、私の全てになってしまった。
「みんな、何もわかってくれなかったなあ……」
ルキは小さく呟き、震える手で胸を押さえた。
ルキは元々、町の小さな診療所の養女だった。
おばあちゃん医者の優しい手が、今も恋しい。
……あの日、車にひかれてしまうまでは。
(おばあちゃん、ひとりで寂しがってないかな)
思い出したら、胸がぎゅっと痛くなった。
そんなルキが、なぜか異世界に転生して、なぜか「ご神託巫女」として働くことになったのだけど――。
《これがまた、便利な自動書記。筆が勝手に動いて、未来の災厄もピタリと当てる。》
気づけば国の人たちから頼りにされて、たくさんの人を助けてきた。《……つもりだった。》
「うーん、何がいけなかったのかな。
災厄の予言でみんなを救いたかっただけなんだけど……」
呟いたところで、森の木々は風に揺れるだけ。
だれも答えてはくれない。
森の冷たい風に震えながら、ルキの胸には言葉にできない焦りが渦巻いていた。
――このソレイユ王国は、広大な砂漠の真ん中にぽつんと存在する奇跡のような国だった。
かつては渡り歩く遊牧民たちが、命をつなぐためにオアシスを頼りに移動していた。
今、国を支える唯一のオアシスは、しばらくは枯れることはないといわれている。
しかし、この安定は永遠ではない。
「自動書記」にしか答えられない、次の水脈の発見や砂漠の干ばつへの対策――
それを導き出すのが、私の使命だったはずなのに。
この国の未来を守るため、誰よりも頼られた存在だったはずの私が、なぜ追放されてしまったのか。
絶望の中でルキは、再び希望の光を探し求める覚悟を胸に刻んだ。
思えば、この国でルキの力を信じてくれたのは、《皇太子の祖母――皇太后様だけだった。》
「こんなことなら予言なんてしなきゃよかった」
《この国の人たちは、預言者が来たら自分たちが楽に生きられるのが「当たり前」だと思っていたみたい。》
《私は一つも失敗していないのに、今回の災厄の予言が気に入らなかったのか、手のひらを返すなんて――ちょっとひどすぎない?》
「追放だ、だなんて……言い過ぎじゃない? セシル様……」
ソレイユ王国の皇太子、セシル・ソレイユ殿下は、まるでルキの存在なんて最初からなかったみたいに宣言したのだった。
しかも追い出された場所が、隣国アルヴィナとの境界の森。
《野良猫だって、もうちょっといい場所に捨てられるんじゃないかな。》
(さすがに……ちょっと、泣きたいかも)
心細さに加えて、何やら獣の気配まで近づいてくる。
――ガサッ。
小枝の折れる音。ひんやりした空気。
背筋がひやりとする。
ルキはそっと立ち上がり、震える声で森の奥を見つめた。
(お願い、誰か――助けてくれないかな……)
楽しんで頂けると嬉しいです。