4.買い物
「さて、行きましょうか」
空の器を店主に渡し、立ち上がるとまたユイに付いて行くことになった。
「ここら辺は物が売ってたり、修理が出来たりします。バイクからカバンまで色々直せますよ」
やってきたのは集落の商店街らしい。確かに軒先に所狭しと商品が並んでいる店舗がいくつもあり、分解途中の自転車やバイク、靴や傘まで置いてあり、路地裏からは子供たちの声が聞こえてくるし、建物の2階では洗濯物を干している女性もいる。
「なるほど」
案内される場所は何の変哲もない地方都市の風景と違わなかった。戸惑いが少しあって、私が教えられていたり、思っていたりした集落とは全く違っていた。それと、最も気になっていたのはここが「竜の守り人たちが集う場所」であるということ。ということはどこかに竜が居るはずである。
「あの・・・聞きたいことがあるんですが」
私はユイに質問してみることにした。
「はい、なんでしょうか?」
「ここには今も竜がどこかに居るんですか?」
「・・・・」
ユイは立ち止まって黙ってしまった。というよりも考えているのかもしれない。少しの沈黙が続いた後、口を開いた。
「そうですねぇ、多分、カレン様に聞いた方がより詳しく知れるのですが・・・その質問に端的に答えると、竜はもちろん居ます」
やっぱりいるんだ。産業としてはほぼなくなりかけてはいる様子だけれど、いるんだ。
「ですが、多分ライズさんが想像している感じではない・・・のかもしれませんね」
「・・・そうなんですか?」
「ですがそれはゆっくりと知っていけばいいと思います。貴女には貴女が考えることがありますからね。貴女の師匠、ミレーアさんがどうしてここに送り込んだのかを」
確かにそうだ、忘れていた。ユイの言葉が私を冷静にさせたのだけれど、師匠がどうして急に私をここに住まわせるようにしたのか、そしてそれを受け入れたカレンの意図も分からない。それに私はここで何をしたらいいのか、全くわからなかった。
「着きましたよ」
気が付くと目の前に少し古めのお店が出てきた。
「ディスカウントストア・・・リリック・・」
看板にはそう書かれている。
「かっこよく言えばディスカウントストア。まあでも、雑貨屋です」
正直なことを言いながらユイは店舗の奥の方に入っていくと店員を連れてきてくれた。
「こちら、店主のリリックさんです。他の店と違って彼は色んな物を王都や他の国から取り寄せてくれます。ルートは不明ですが。あと、彼女はいません。独身です。この間長年付き合っていた彼女とは別れました。原因は彼にあります。リリックさんは仕事ができる反面、靴下を片方常に無くします。それで喧嘩になりました」
全部言うじゃん、ユイさん。
「なんでそんな初対面の人にそんなことを・・・どうも初めまして、店主のリリックです」
「あ、どうも。私はライズといいます」
お辞儀をして挨拶をしてくれたリリックという好青年。さっきの話が気になって足元を見てみるとサンダルを履いていて靴下は着けていなかった。反省の意味を込めてこうしているのだろうか?
「彼女は・・・ライズさんはどこから来たの?」
「あーっと・・・」
どうしよう。一応、王都から来たのは確かなんだけど、端っこに有る場所から来たというのもあるし、それにこれを言っても大丈夫なのかどうなのか分からなかった私は直ぐに答えることが出来なかった。すると隣に居たユイが一言。
「彼女、ミレーアさんのお弟子さんです」
「あー・・・。なるほど。それは・・・それは、お気の毒に」
あなたの師匠は誰ですか?と聞かれて、ミレーアの名前を出すとほぼこの反応が返ってくる。まあそれほどに師匠は有名なのだけれど、それ以外にも彼女の元にやってきた人が弟子になるために試験を受けて、それに合格する前にみんな逃げ出してしまって噂が流れているせいでもある。
「で・・・ウチの店に何の用です?」
「このライズさん、本日からカレン様の屋敷で住むことになりまして。必要なモノを買いに来たのですよ」
「あー・・・カレン様にミレーアさん・・・・」
リリックはまたもや気の毒そうな顔を私に向けて来た。どちらか片方に関わることですら大変な事なのに、この2人に関わることはそれ以上に大変なことである。ということを知っているからこそだろう。
ユイは日用品コーナーを指さし「ここら辺に必要なモノは有りますのでかごに入れてください」と言って私にかごを手渡してきた。
その言葉のままに私は歯ブラシとかそういうのを放り込んでいくことにした。
「結構品揃えいいんですね」
棚に入っている商品を手に取ってリリックに話しかけた。
「ここら辺に住んでいる人たちは元々王都に住んでた人たちも多いんです。それなりの種類の物を用意しないと通販で買われちゃうもので・・・。そうそう、欲しいものがあったら連絡してください。注文から取り置きまで出来ますから」
リリックは名刺のようなものを手渡してきた。
「あ、どうも」
軽く頭を下げた後しばらく名刺を見つめていたが、しばらくして日用品をかごに入れる作業へ戻った。