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3.ユイの案内

 言われた通り客間に案内されることになった。自分がこれからここに住むことになったことを意識させられると、さっきまで見ていた景色が変化する。とても不思議なことだ。建物は確かに古めではあるが清掃が行き届いており、とても綺麗で清潔感がある。


「こちらになります」


 ユイは持ってきた鍵束の中から一本選んで鍵を開ける。これまた古くて重そうなドアがゆっくりと開くと、中にはスッキリとしたシンプルな配置の家具が置かれた部屋が目に飛び込んできた。


「電気のスイッチはここです」


 スイッチが入ると天井に取り付けられていたライトに灯りが灯り、はっきりと部屋の状況が分かるようになった。ベッド、クローゼット、机。王都にあるような現代風の家では無いため全ての家具が備え付けではなく、なんというか買ってきておいてある感じがするのだけれど、その一つ一つが洗練されて高そうな雰囲気を醸し出している。


「布団は後から持ってきます。・・・荷物を置きましたら集落を案内させていただきますので、玄関に来ていただけますか?」


 そう言い残すとユイは立ち去ってしまった。


 ベッドにリュックを下すとそのまま腰掛け、手で顔覆ってため息をついた。「どうしてこうなったのか?」と考えるのだけれど答えは見つからない。取り合えず今の状況を整理したい気持ちもあったのだけれど、仕方がない。やってきてしまった現実を受け入れるしかない。


 気を取り直して立ち上がり、玄関へ向かった。


「お、おまたせしました」


「それでは行きましょうか」


 さっき来た道からもう少しだけ奥に続く道へ案内される。

「集落とは逆方向になるのですが、この先、小高い丘になっています。まずは全体を見ることが出来る場所からということで」


「はぁ」


 流石、王族のメイドといったとこなのだろうか?ただ単に案内すればいいのに見晴らしとかそういうのも気にするのかな。と思っていたのだけれど、その疑問は直ぐに晴れることになる。


 少し歩くと確かに木の数が減って、開けた場所に出た。そこにはキチンとフェンスというか手すりのようなものが作られており、展望台のようになっている。私は案内されるがままにその場所に立つと景色を見渡す。


「・・・凄い」


 山間にある谷間というか盆地のような場所に、来たときには気が付かなかったほどの家や建物が立ち並んでいる。そうか、なるほど。これを見せたかったんだ。


集落の中心地へ進むにつれて地面は土から石畳に変化し、家の数は増えていく。建物の屋根には太陽光パネルや風力発電の風車。道には車やバイクがとまっているし、何ならコンビニっぽいのも存在するのが見える。


「思っているよりも栄えているんですね」


「そうですね。流石に地方都市とまではいきませんが近いものが有るくらいに建物も人もそして職業も存在します」


 王都から離れた場所。言い方を変えれば田舎である。どこの国にも田舎というのは存在するのだけれど、この国の田舎っぽい場所には必ず有る者が集まっている。


 それが「竜の守り人たち」である。


 この国の起こりは歴史書によると初代レトリック王を含む何名かの英雄と呼ばれる人物たちがこの地を切り開き、現在の王都や地方都市を作り上げたとされている。


 その時、外側へと追いやられたのが竜を含む多数の在来生物たち。竜に限らず彼らは個々に強かったが、人は時間をかけて彼らを理解し、その特性を生かしながら彼らを制御していった。そして制御が出来たら今度はそれを利用し始めることになる。


「この集落には竜や生物を基にした産業があったんですよね?」


「はい、そうです。ライズさんも歴史の授業で習ったと思うのですが、かつてこの国、レトリック王国は生物産業で一時代を築いた国。その最前線がこういう集落だったのです」


 言わずもがな生物から採取した物が人に与える利益は数多くある。こうやって着ている服から始まって、日々食べている物。それ以外にも沢山あるが、とりわけ時代に合った価値を出した生物がいる。


それが竜。そして〝竜の守り人〟とは竜産業に関わる人たちの事である。


「竜の牙や爪などが武具に使用できるのは当然ですが、それ以上に彼らのみが持っていた有る特性を生かすことで、とんでもない兵器になったのです」


「特性・・・ですか?」


「・・・まあ、ここら辺は私よりもカレン様の方が詳しいので後程聞いてみてください」


「はあ・・・それでその竜が必要と無くなった今でもこうして守り人はここに残っているということなんですか?」


「そうですね。一部の人は高齢ですが残っていますし、もちろん子孫も住んでいます。時代が変わり、テクノロジーが進化すると戦車や戦闘機、戦艦などが開発されて次第に竜は必要なくなっていきましたからね。一時的に各地に存在したこういう集落も衰退したんですよ」


元々あった産業が衰退すればそこに従事していた人たちも徐々に別の場所へ移ってくのは世の常である。というのはわかる。けれど、それにしては住んでいる人の数が多い気がする。


「今度は集落の中を案内いたしますね。ついてきてください」


「あ・・・はい」

 そうやって連れてこられたのは屋台広場と言われる場所らしい。確かに数多くの屋台が色々な食べ物を提供しているのが見える。


「お腹、空きましたでしょう?私のおすすめがあるのです」


 言葉を残したユイは小走りになり、とある屋台へ近づいて行った。その速さにびっくりして危なく見失いそうになったのだけれど、彼女が付けていた銀のカチューシャが目印となって何とか追いつくことに。


「はぁ・・はぁ。急に走らないでくださいよ・・・!」


「あら、すいません。でも、ほらおいしそうでしょ?」


 どうやらユイは食べるのが好きらしい。私が何も言っていないのに勝手におススメを店主に注文した。目の前で煮えている2つの大きな鍋。片方には大量の野菜と魚のアラが、もう片方にはスープのようなものが入っている。店主は慣れた手つきで麺を湯がき、それらを1つの器に合わせたあと、大きなジョッキに入ったジュースのようなものをユイに渡した。


「はい、どうぞ」


 私の手元に器が渡されると自然とその香りをかいでいた。この土地は夏と呼ばれる期間が無く、年中冬のような気候が続くためなのかこのような屋台飯が発達しているらしい。・・・なんでわざわざ寒い外で食べなければいけないのかわからなかったが、とにかくお腹が空いていた私は食べることにした。


「・・・おいしい」


 長時間煮込んだ野菜とアラから出たダシが何とも言えない、どこか懐かしい気持ちにさせるのを感じた。


「ユイさんは毎日これを食べているんですか?」


「出来る限り食べるようにしていますよ。おいしいですからね」


 正直な人・・・なんだと思う。カレンもうそうだけれど、何となくユイという人物も私の中ではあまり見ないタイプの人。分かるようになるには時間が掛かるのかもしれない。


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