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2.ドアの先

 ノブに手を掛け深呼吸するとゆっくりと手に力を入れていったのだけれど、急に掛け金が外れたかのような音がするとノブがそのまま外れた。


「えっ?」


 無言でその取れてしまったノブを見つめしばらく呆然としていると取れた部分から声がしてきた。


「さっさと入ってきなさいな」


 その言葉にカチンと来た私は取れた部分に指をひっかけると強引に開けようと手前に引く。けれど、開かない。今度は奥に押し込む。それでも開かない。しばらくそんなことをしていると指が痛くなってきた。


「なんでこんなことをしているんだ?私は」


 という疑問と共に指を話した瞬間、横にスライドしてドアが開いた。


「引き戸よこれ」


「・・・コントをしに来たわけでないのですが」


「そう?私は楽しかったけど?」


 中から出てきたのは金髪縦ロール。そして如何にも凛々しい顔をしている1人の女性。けれどその見た目とは相反して非常に動きやすそうで質素な服装をしていた。


 カレン・レトリック第2王女。まぎれもなく元レトリック国王の血をひく娘である。本来ならば王都に住み、沢山の人たちに囲まれて国事を行う立場の人物であるが、どういうわけかこんな辺境の地に居てしかもメイドと思われる人物はさっきの女性のみ。


 何よりも不思議なのは師匠と古い友人だということと、私のあんまり会いたくない人リストに入っている人でもある。

 

 部屋は簡素で質素で片ついており、天井まで高さのある備え付けの本棚、それと奥には書き物をするような机。その上にはノートパソコンのようなものが乗せられているがあまり使っている形跡はなさそうだった。


「それで、何の用?」


 カレンはテーブルの上に置いてあった煙草の箱を手に取り、慣れた手つきで一本取り出すと口にくわえて火を付けた。箱を私の方へ見せてきたが「いえ、私は吸わないタイプなので」と断ると残念そうに箱をまたテーブルへと置きなおす。


「お届け物を持ってまいりました」


「知ってるけど?」


「これになります」


 再度リュックを下すと中から箱を取り出し、テーブルの上に置くと持っていた鍵束から一つ選び出して鍵を開けると箱の蓋を開いてカレンへ見せた。


「なるほど、そう来たか」


 中に入っていたのはティアラだった。豪華な宝石が散りばめられているわけでもなく、割と質素な出来映え。師匠の作品。それをカレンは持ち上げて一通り眺めた後、下に敷かれていた手紙を発見する。ペーパーナイフを手に取ると手慣れた手つきで封を切り、読み始めた。


 その様子をしばらく見つめていたが「渡すモノ渡したし、もう帰ろう」と思って軽くお辞儀をし、帰ろうと後ろ脚を引いた瞬間、声がかかった。


「どこにいくの?」


「えっ・・・あ、帰ろうかなと。なにか伝言でもありますか?」


「貴女、今日からここに住むんでしょ?」


「はい?」


「この手紙に書いてあるけど」


 手紙を私の目の間に持ってくるとカレンは文章を読み上げた。


〝カレン、その子。ライズをしばらく預かってくれない?これからこっち、忙しくなるから〟


「だってさ」


「そんな・・聞いてないんですけど!」


「私も聞いてませんのよ」


 カレンから手紙を奪うように手に取ると文章を見つめた。そこには確かにそう書かれているし、きちんと師匠の手で書かれている文字。それは疑いようのない事実だった。


「そんなぁ」


 私が落胆した声をあげると少し面白がってカレンは肩に手を置いて「私は構わないわ。だってこの家、部屋は余っているから」と一言告げる。そうして部屋を出ていくとさっきの女性を連れて来た。


「この人は使用人。まあ、現代風というか分かりやすく言えばメイドさん。名前はユイ。これから仲良くね」


「ちよっ・・と待ってくださいね」


 慌てて胸ポケットからスマホを取り出し、師匠に電話を入れる。そして師匠は電話に出るなり間髪入れずに「そういうことだから、よろしく!あ、あとこれから私、忙しくなるから。落ち着いたら電話するわ」と言われ電話を切られた。


 膝をついて手を床に置き、ショックを受けているとカレンとユイがひそひそ話を始めた。


「そんなに嫌なもんかね?」


「きっとカレン様が嫌いなんですよ」


「・・・あんた、それでもうちのメイドなわけ?」


「ええ。きちんとカレン様のメイドです」


 ただお使いに行けと言われて辿り着いた場所でこんなことになるとは思ってもいなかった。・・・のだけれども師匠がそういうなら仕方がない。しばらくすると私の中で覚悟が決まったのかもしれない。立ち上がるとカレンの方を見つめた。


「・・・あら、いい心がけね」


 頭を下げる。そんなに得意ではない相手ではあってもこの人はこの国の第2王女。私の事を含めて〝権力でどうにかできてしまう〟くらいには力を持っている。それにこのユイという人。この人もただのメイドではない。


 王族に仕える使用人もまた激しい競争を経てここに居る。であれば相当な人物であることは簡単に想像できる。


「まあ、顔をあげなさいな。そんなに固くなることはないわよ」


 カレンは咥えていた煙草を手に取ると灰皿で火を消し、そのまま窓の方に行くとカーテンを開けて窓を開けた。心地よい風が私の頬に到達する。


「都を離れてここでしばらく住むって言うのも悪くないわよ。あんたの・・・ライズの知らないこともあるでしょうし・・・ユイに案内してもらうといいわ」


「わかりました。今夜はどうしましょう」


「・・・客間が空いてるでしょ?どうせ誰も来ないんだからそこをライズの部屋にすればいいわ」


「分かりました。それでは行きましょうかライズさん。案内が終わりましたら集落を少し案内いたします」


 そうして私は客間に案内されることになった。




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