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1.辺境の地

「よいしょっと」


 私が行くべき道に立ちふさがっていた崖。今まさに垂直登坂を敢行しそれを越えようとしている。出っ張っている石のような岩のような物体に手を掛け、足を掛けていく。


「なんでこんなとこに崖が有んのよ」


 文句たらたら。いつもこうだ。私が行く道はいつもこう。一筋縄ではいかない。やっとの思いで登りきると私は両手を挙げて「ふぃー」と声を出し、腰にぶら下がっていた水筒に口を付け、中に入っている水を飲みこんだ。


「・・・さてと」


 目の前に広がるは森、見渡す限り緑に覆われている。かつてここは何かの往来があった場所だろうか。足元の地面は草が剥げて土が見え隠れしていて、それが獣道のように成っていて森の中へと続いているのが見える。


 木を確認。するとそこには何かよくわかんないが黄色い果物がなっているのが見えた。


「あれ、見たことある。ウォーターオレンジだ」


 市場に売られている一般的な果物。果肉には多くの水分が含まれていて、熟す前に食べると水っぽいのが特徴である。


 背負っていたリュックを下すと、近くに手ごろな長さの棒を発見。腰にぶら下げていたナイフを抜いてそこら辺に生えていたツタを切り、棒にナイフを括りつけた。


「よしよし」


 両手でしっかりと棒を掴み、オレンジの根元へ刃先を当てる。縛っているツタが頼りなく上手く力がかからない。それでも何度か突き当てることにした。繰り返しつつくと果物の根元の茎の繊維がほぐれ、そして自由落下。すかさず手を出してキャッチ。


 「やった!採れた!」


 オレンジを食べながら周囲を確認すると森の奥の方から煙が上がっているのが見えた。


「・・・ここらへんであってるはずなんだけど、あそこかな?」


 森の中へ突撃し、けもの道を確認しながらしばらく進むと集落が見えてきた。辺境の地。街の人たちからは「竜の守り人」と呼ばれる人たちが住んでいる場所。


 少しだけ開けた集会所のような場所に辿り着くとそこには何人かの子供たちが居た。彼らは地面に棒で絵を描いたり、縄跳びとかそういうので遊んでいた。よくある田舎の風景。子供たちは楽しそうに笑って遊んでいたのだけれど、私の方を見ると少しだけ後ずさりをした。


「あっ・・・ちがうの。ええと、怪しい人ではありません!」


 と少し大きな声を出して両手を上に挙げてとりあえず笑顔を作った。・・・けれど確かにそうだ「怪しくありません!」は少し無理があったかもしれない。案の定、子供たちの何人かは走り出して大人が呼ばれてしまった。


 奥の方から出てきたのは背の高めの女性だった。セミロングの綺麗なストレートの黒髪。銀色のカチューシャを付けている。服装は質素ではあったが、なんというか凄く清潔でパリッとしているデザインだった。


「・・・・」


 鋭い目で私を見つめる。まるで銃口が突きつけられたかのような冷たい感覚がした。


「こちらへどうぞ」


 その女性はそう言うと背中を向けた。・・・ついてこいということなのだろうか?


集落を進んで行くと、生活圏というのだろうか、何となくここら辺の住人たちがどうやって暮らしているのかが見えてくる。周辺には畑とか牧場のようなものが有ったり、煙を出して中から金属音がする建物ものあった。鍛冶屋みたいなのが有るのだろうか?


 賑やかな喧噪という表現が適切かどうかはわからないが、そういう雰囲気の場所を通り過ぎた時、林の中に一軒の大きな門構えの家が見えてきた。


 古風な家。頑強な家。力強い家。


 一目見た時、こんな感じの印象が湧いて出てきた。


 目の前に出てきた景色に見とれていると目の前を歩いていた女性が自分の方へ振り返る。


「どうか・・・なんでしょうか?」


 すると女性は手を前に出すと何かを渡して欲しい素振りをした。


「あ・・・あーっと」


 お金か?それとも何だろうか?何が欲しいんだろう・・・。としばらく考えた結果、そうか、私が背負ってるこれか。これを渡せばいいんだ。そう閃いた私は腰に付けているナイフをケースごと外そうとした。


「それじゃないです、そっちです。私の好物」


 視線の先には私のポケット。中にはさっき採ったばかりのオレンジがいくつか入っていた。


「あ・・・これ、ですか」


 急いでポケットに手を突っ込み、オレンジを女性の手の上に乗せた。女性は満足そうにしながらそのオレンジをまじまじと見つめると「いい感じのオレンジですね」と一つだけ言葉を残すと噛り付きながら私を家の入口へと案内していく。


「ここから先、突き当りを左に曲がってください。すると緑色の花瓶が置いてあります。その花瓶が置いてある先の部屋であなたの求める人が待っています」


オレンジを食べながらそう指示された。その時思い出した。何のために私がここに来たのか。背負っていたリュックをその場に下し、ひもを解いて中から箱を取り出した。


「あの、私これ届けるように師匠から言われて」


「でしょうね」


「それじゃあ渡しておいてくれませんか」


「ダメです。あなたが直接渡してください」


「はぁ・・・」


 会いたくない。いや、お会いしたくない。が正しいだろう。待っているのはこの国の第2王女様。そして師匠の古くからの友達。・・・であるが性格が良くない。いじわる、子供っぽい。そして何より嫌なのは・・・。


 しぶしぶと廊下を歩くと確かに女性が言っていたように緑の花瓶が置いてあった。がしかし、その置いてあった位置は本当に扉の目の前にちょこんと置かれている。どかさなければ扉を開ける事が出来ない。


「・・・あいつもグルか」


 こういう所である。


 仕方がないので花瓶に手を伸ばして掴むと脇に寄せ、そして何回かノックをした。すると中から「開けていいわよ」と声が聞こえてくる。その言葉に胸を撫でおろし、ノブに手を掛けた。


いたずら心満載のドアノブに。


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