第四十話 破壊の末
彼の蹴りが顔面に炸裂し、ヤツは力なく崩れ落ちる。
それと同時に、身体の重みもさっぱり無くなった。
だが安堵も束の間、俺は怖くなり尋ねる。
「本当に……殺しちまったのか?」
「多分生きてるよ。……ま、安心しろ。どっちにしろコイツに待ってんのは地獄だ。」
その言葉を聞き、俺はほっと胸を撫で下ろした。
……ヤツが死んでしまう事より、彼が人殺しになってしまう事が嫌だった。
こんなくだらないヤツのせいで、彼が逃れ得ない業を背負ってしまうことにならなくて良かった。
これで心配の一つは解決した。しかし、もっと大きな心配が残っている。スピカの容体だ。
俺は彼女に駆け寄り、抱きかかえて問いかける。
「スピカ、大丈夫か……!!」
「大袈裟ね。別に大したことないわよ。」
そう言って軽く笑う彼女を見て、俺の胸は申し訳なさで一杯になった。
「ごめん。お前を、守れなかった……。」
……出発前夜の時、俺は彼女に言ったんだ。絶対にお前のことは傷つけさせないって。
そりゃ、あの時はふざけて言ってた。けど、決して適当な気持ちで言ってた訳じゃなかった……!!
それで結果はこのザマだ。
別にいい作戦が思いつかなかったとしても、庇うことくらいは出来たはずだ。なのに俺はビビッて何もしなかった。
これじゃあただの嘘つきじゃねえか。体の良い事を言うだけ言っといて、行動は全く伴っていない。そんなダサい奴にだけはなりたく無かったのに……。
彼女はそんな俺の肩に手を添え、言った。
「自分の身は自分で守るわよ。それが出来なくてもただの自己責任。だからアンタが気に病む必要はないの。それに、動けないものは動けないんだから仕方なかったでしょ。」
「そうだぜー。しゃーねーよ。……お前は一人で戦ってる訳じゃねえんだ。出来ねえことは仲間で補い合えば良いんだよ。」
二人の優しさが胸に沁みる。
……やっぱり俺はもっと強くならなきゃいけない。こんな良い仲間を失わないために。
「カイン、アンタは別よ!!動けたんならもっと早く仕留めなさいよ!!おかげでこっちは何回蹴られたことか!!」
「おいおい、そりゃねーだろ!あれ以上のタイミングは無かったって!!」
いがみ合いを始めた二人の間に、すぐにシャル姉が割って入る。
「まあまあ、今は全員が無事なことを喜びましょう。」
そうだな。とにかく今はみんなの無事と勝利を噛みしめるべきか。
そうして場が温かい雰囲気に包まれて行く中、シルヴィアさんが深々と頭を下げる。
「皆さん、本当にありがとうございました。そして、申し訳ございませんでした。私はあなた方を売るようなことをしてしまいました。」
「いやいや、とんでもない!あなたは俺たちのために全てを投げ打とうとしてくれたじゃないか!!」
「そうだよシルヴィア!君は出来る限りのことをしてたさ!!……それよりも、皆さんに謝らないといけないのは僕の方です!!皆さんの足を引っ張るようなことをしてしまって、本当に申し訳ありませんでした!!」
彼女に続きブライトまでもが頭を下げてくるが、彼らが謝る必要は一切ない。
「そういう湿気たのはナシにしようぜ。俺がアイツをぶっ飛ばした。そんでスッキリ~って感じで良いんだよ。今回悪かったのはアイツだけだ。お前らはなーんも悪くねえ。」
カインが言いたかったことを全て言ってくれた。
その通りだ。アイツが全部悪い。それ以外のことなんて考えなくていいのだ。
「カインさん……!!本当に……ありがとうございました!!」
「いいってことよ。……つーわけで」
彼は破壊士の男を睨みつけ、ドスの効いた声で命令する。
「お前、さっさと彼女の聖具を破壊しろ。もしまた裏切ったら……分かってるよな?」
「は、はいぃっ!!」
男は声を裏返しながら、必死で彼女のもとに駆け寄っていった。
***
「こ、これで破壊作業は終了となります!」
ミサンガは彼女の足を離れ粉々になり、ただの金粉になり果てた。
……これが聖具として力を発するとは思えない。嘘はついて無さそうだな。
「シルヴィア!!調子はどうだい!?もし良かったら、僕にとびきりの笑顔を見せておくれ!!」
ブライトは息を荒くしながら彼女に飛びつき、笑顔を乞う。
「ごめんなさい……。笑え……ません……。」
彼女が彼に応えることは、出来なかった。




